以下は前章の続きである。
高山
今、仰ったことは、新聞記者を経験した者にはよくわかります。
僕は産経の社会部にいたとき、朝日は、毎日は、読売はどうなのかと、いろいろ話が来るでしょう。
朝日の場合、一番の権限を持っているのが整理部長だと聞かされた。 「これが一面だ」と整理部長が言ったら、ほかの人が何を言おうが構わない。
産経の場合は、声がデカイほう(笑)。
「これ、一面だぜ」と、社会部部長が吠えれば、それでだいたい決まってしまった(笑)。
僕が社会部デスクだったときに、例の「これが毒ガス作戦だ」事件がありました。
長谷川
日本軍が中支の渡河作戦で煙幕をたいた報道写真が見つかった記事のことですよね。
朝日はこれを「中国戦線で毒ガスを使った」ことにしました。
藤原彰一橋大学教授にもインタビューし、「これぞ毒ガス」と書いた。
高山
そうです。
朝日新聞にその記事が出て間もなく産経新聞社会部の石川水穂記者が、「朝日に載った毒ガス写真はインチキ」という原稿を出してきた。
写真の「毒ガス」はもくもく天に昇っていた。
だいたい最初にドイツ軍が開発した毒ガスイペリットは空気よりやや重い。
それで地を這い風に乗って仏側塹壕に流れ込んで将兵を皆殺しにした。
それが空気より軽くて天に昇ったら、飛んでいるカラスしか殺せない。
石川記者はそれが洞庭湖の南、新艢河での渡河作戦の一場面で「たかれたのは毒ガスでなくて煙幕」だったことも突き止めていた。
で、「朝日がインチキ写真を載せた」という記事が社会面トップを飾った。
そしたら翌日、朝日の佐竹昭美部長が単身、産経の編集局に殴り込みをかけてきました。
あの頃の社会部と言えば血気盛んなのも多い。
そこにヤクザまがいになぐりこんでくる。
袋叩きにされてもしょうがない状況ですけれど、産経新聞側はだらしなかった。
というか、やっぱり朝日新聞には威光があったんでしょうね、編集局長も社会部長も真正面からやる気がなくて逃げてしまった。
こちらが一人で対応したんだけど、佐竹部長は「朝日の記事は正しい」「お前は生意気だ」「産経など叩き潰してやる」と散々毒づいた。
ある意味、いい根性していた。
それでも結局、朝日の間違い、産経新聞が正しかったと向こうも認めて記事訂正をやりました。
何を言いたいかというと、朝日新聞というところはネタが本当かどうかはあまり気にしない。
朝日新聞が正しいと思ったら、それでいい。
それほど自信があるから本気で殴り込んで来たのでしょう。
集団精神病患者群かどうかはともかくオレは正しいと思い込む、それも分別あるはずの部長クラスでそうなんだから、まともに間違いをチェックする能力は全くないみたいですね。
この稿続く。