以下は月刊誌WiLL今月号に、NHKの飼い主は誰だ?国営放送なのに「反日」報道ばかり。歴史的背景を探ってみれば、答えが自ずとわかる、と題して掲載された有馬哲夫・早稲田大学教授の論文からである。
WGIP的DNA
ここまで「転向」したのならば、WGIP的報道姿勢と決別すればよさそうなものだが、今日のわれわれが知るように、NHKはそうしていない。
そこが度しがたいところだ。
例をあげよう。
日本政府は従来、NHKに北朝鮮による拉致の問題、尖閣諸島に対する中国の不当な圧力、ロシアによる北方領土の不法占拠などに関し、日本としての立場を世界に主張するような情報発信を求めてきたが、これは拒否されてきた。
CCSがつくった原則「放送の不偏不党、自立」に反する権力の介入だというのだ。
こういうときは、都合よく占領軍を盾にする。
しかし、このような放送は、NHKが日頃手本にしているBBCがしっかりやっていることだ。
なかなか「お国のため」の国際放送をしようとしないNHKに業を煮やした自民党は、2015年にこのような放送を行う「新型国際放送」の構想を打ち出したが、まだ日の目を見ていない。
この際、NHKからBSチャンネルを2つとも召し上げ、それらを使って実現させてはどうか。
もっと明確な例は、2001年に「女性国際戦犯法廷」を取材した「ETV2001 問われる戦時性暴力」を放送したことだ。この法廷はVAWW‐NET(Violence Against Women in War Network Japan)という団体が主催した「第二次世界大戦中において旧日本軍が組織的に行った強かん、性奴隷制、人身売買、拷問、その他性暴力等の戦争犯罪を、裕仁(昭和天皇)をはじめとする9名の者を被告人として市民の手で裁く民衆法廷」だそうだ。
NHKにWGIP的DNAが健在である証拠だ。
慰安婦報道は朝日新聞の専売特許ではなかったのだ。
奇妙なことに、これに同じWGIPメディアである朝日新聞かかみついた。
自民党の保守系議員の圧力を受けて番組を改変したのがけしからんというのだ。
たしかに、秦郁彦の「女性国際戦犯法廷」に対する批判が入り、カットされた部分もあるが、これは放送法に定めた公正原則を守っただけではないだろうか。
そもそも「法廷」とはいいながら、「検察官」しかいないこの裁判を取り上げること自体「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」という放送法第4条に違反している。
にもかかわらず、VAWW‐NETはNHKの番組が「政治介入」を受けた結果、自分たちの期待にそぐわないものとなったとして、裁判に訴えた。
朝日新聞はこれを擁護する論陣を張り、NHKと正面衝突した。
戦中の情報局の時代までさかのぼれば、兄弟関係(朝日新聞幹部がNHK幹部に天下っていた)だった朝日新聞とNHKが不倶戴天の敵になった。
結局、裁判のほうは、最高裁まで争われたが、原告敗訴に終わった。
この事件は、はからずも朝日新聞とNHKのどちらにWGIPのDNAがより強く残っているのかを示すことになった。
しかし、最も注意すべきは、NHKの反日的DNAが報道しているものというより、現在も報道しようとしないものに働いていることだ。
たとえば『原爆 私たちは何も知らなかった』(新潮新書)でも明らかにしたように、ソ連はポツダム宣言への署名を拒否されていて、満洲侵攻に際しても英米を含む連合国の合意を得ていなかった。
ということは、満洲侵攻は、ヤルタ極東密約とは関係のない、国際法違反の純然たる侵略戦争だったのだ。
極東国際軍事裁判で日本の指導者に適用された「平和に対する罪(侵略)」および「共同謀議」がもっともよく当てはまるのは、ソ連のこの行為だ。
こういったことを占領中にNHKなどが報じていれば、今日の日本人の北方領土に対する意識は全く違ったものになっていただろう。
これはほんの一例だ。
他に公平原則に反する原爆報道などもある。
一体いつになったらNHKは、WGIP的報道姿勢を改め、こういった本当のことを受信契約者に伝えるのだろうか。
NHKは今も占領中の「連合国に関し破壊的批評を加えてはならない」というプレス・コード第三条を守り、日本国民に歴史的事実を知らせまいとしているかのようだ。