節電不仲-。
節電を火種にした争いは実は方々で起きている。真っ先に軋轢が生まれたのは、家庭だった。
たとえばこんなの。
40代のタカシさんは会社帰り、量販店で買った大きな荷物を手に帰宅の途についた。中身は、「扇風機」と「電動かき氷機」。妻へのプレゼントだった。「ほら一日中、テレビを見ていると、エアコンは悪だ、電気の無駄遣いだって、すり込まれるでしょう。妻はすっかり洗脳されて、この夏、ほとんどエアコンを使っていない。
そりゃ僕だって、暑い中帰ってきたら、エアコンで涼みたいですよ。でも妻の、鬼気迫る節電への取り組みに、とてもしゃないけど、『エアコンつけて』なんて言えない」前日、タカシさんが帰宅すると、足元もおぼつかない、へろへろの妻が出迎えた。
この日は風がなかったせいか、日当たりのいいマンション5階の部屋は、熱気をため込んで熱帯植物園の温室状態。夜になっても、エアコンの液晶温度計は「室温33度」を示している。
子どもたちが妻の実家に行って家にいないこともあって、妻は首に巻いた保冷剤とタンクトップ、短パンで1日、書いてるだけで暑いこの部屋で、エアコンオフを貫いたという。
努力を無にする存在
部屋に入るなり、ますます汗が噴き出したタカシさんは、ビール補給に冷蔵庫に走る。すると、中は食べ物でパンパン。熱帯雨林化した部屋に置いておくと傷むので、食べ物は片っ端から冷蔵庫に入れることにしているらしい。お楽しみのビールも、気のせいかぬるいんですけど。
「エアコンより、冷蔵庫を整理したほうが節電になるんじゃないか? これじゃ、熱中症になるぞ」
暑さのイライラも手伝って、思わず口をついたタカシさんの注意に、妻の顔色がさっと変わった。
「私の仕事に口を出さないで」 驚いたことに、首に巻いたタオルで、涙まで拭いてるじゃないの。いや、これはすべて33度の部屋の、黄色みがかった極限状態のせい。そう思うことにして、タカシさんはぬるいビールを流し込んで、口をつぐんだ。
翌日、仲直りの意味も込めて購入したのが「扇風機」と「電動かき氷機」というわけだ。
タカシさんは言う。
「どっちも電化製品っていうのが、引っかかりますけど(笑い)。しかし今年ほど、秋が待ち遠しい夏もないですね」
おつかれ!
…後略。