『勝つ流通業の「一番」戦略』読了。ウイラード・N・アンダー、ネイル・Z・スターン著。島田陽介訳。ダイヤモンド社。
ベタなビジネス書のようなタイトルと、表紙に書かれているガス欠のタクシーの絵がもうちょっとましな感じであれば、もっと多くの人に手にとってもらえるような気がする本。ノウハウ本のような感じだけれど、意外と骨太な中身で、流通業にとっては非常に重要なことが書かれている。
アメリカ有数の小売業コンサルティング会社のシニア・パートナーである著者たちは、これからの流通業は以下に挙げる5つの「ベスト要因」のいずれかで「一番」にならなければ激しい競走を生き残ることができないと述べている。そのベスト要因とは、
「安さベスト」
「品ぞろえベスト」
「商品のホットさベスト」
「買い易さベスト」
「買い物の速さベスト」
の5つだ。そして、著者たちはこれらの要因のどれもがそこそこやまあまあの企業は淘汰されていくと断言している。集中と自社が狙う要因への専門家が非常に重要になってくるのだ。
著者はそれぞれのベスト企業を具体名で紹介し解説しているのだけれど、挙げてみるとこうなる。
安さベスト→ウォルマート、コストコ
品ぞろえベスト→ホーム・デポ、ロウズ、アマゾン・ドット・コム
商品のホットさベスト→ターゲット
買い易さベスト→コンテナ・ストア
買い物の速さベスト→ウォルグリーン
日本に進出している企業もあればそうでない企業もあり、全体としては馴染みが薄いかもしれない。これらの企業がなぜベストであるのかを詳細に述べ、逆にそれぞれの分野で失敗した企業の事例も挙げておりそれが理解しやすい対比となっている。たとえば安さではKマートが、品ぞろえではトイザラスが槍玉に挙げられている。それは近年の米小売業の歴史を見ていくとなるほどと思えるようなことで、説得力もある。
正直な話、流通業の仕組みであるとかシステムというのは実際の顧客にはわかられていない部分が非常に大きい。大掛かりな、あるいはささやかな仕組みが店舗の背後にはあるのだけれど、顧客にとってはそんなことがわからなくても欲しいものがすぐに見つかり、しかもバリューが高い状態で購入することができればそれでいいのだ。けれども実際に流通業で働いていると様々なことを考えなければならないし、仕組みがないと店舗を運営することもできやしない。そして、賛否両論があるのだけれどそういった仕組みを求めるのであればアメリカの小売業が一歩も二歩も進んでいるのが現状なのだ。
もちろん、鈴木敏文がインタビューなどで事あるごとに言っているように小売業は非常にドメスティックなものであるのだから、アメリカの方ばかりを向いてノウハウを学ぼう盗もうというのも一面的過ぎる面はあるのかもしれない。たとえばウォルマートで扱っている商品の品質はトレード・オフされており、価格と品質のバランスは取れているが日本なら不良品といわれてしまうようなものもあるのが現実だ(ようは使えるけれど1シーズンで駄目になってしまうなど)。また、広大な土地を前提にした1層のローコストな店舗における不動産分配率と、日本国内の高い地価ゆえの多層階の店舗の不動産分配率を比較するのも酷な話だろう。
それでも、やはり参考にしなければならない部分は非常に多いのだ。たとえば、ウォルマートは全米に1500店舗以上ある。ホーム・デポは1700店舗あるし、ギャップも1700店舗になる。それだけの店数を運営している仕組みやシステムには、やはり日本の小売業を凌駕する部分が確かに存在しているのだ。それに、世界で一番競争が激しいのも、アメリカの小売業であることも間違いないことであるし。
そのアメリカの小売業の競争の中で、勝ち残りの条件を定義化してみせたことが本書の最大の特徴だ。安さはもちろん重要なファクターだが、すべての企業が安さを目指すべきではない。そんなことは当たり前のことなのかもしれないけれど、改めて具体例(成功例と失敗例)を挙げて説明されると非常にわかりやすい。それに、安さに関してはウォルマートを追随することは正直な話現実的に難しい(ウォルマートの年商は先日発表された「2004年度米小売業売上高」では288,189(百万ドル)だ。つまり、年間約30兆円の売上げを誇ることになる。ちなみに、日本の2004年度調査のトップであるイオンは4兆円の売上げ。8倍弱も違う)。
戦略的にどの要因を目指すべきなのか、あるいは自社はどうなのかといろいろと考えさせられる本。
密かな当たりという感じだ。
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お知らせ
やっぱりどうやら、秋以降冬前くらいに横浜市に戻ることになりそうな感じです。
社会人になってから7つ目の部屋に住むことになるのでしょうか?