『パラレルワールド 11次元の宇宙から超空間へ』読了。NHK出版。ミチオ・カク著、斉藤隆央訳。
帯。
その時われわれは、別の宇宙へ脱出できるか?
SFを超えるサイエンス・ノンフィクション!
M理論と最新データによる究極の宇宙論的予言
裏帯。
『パラレルワールド』において、著者は第一級の語り口で、現代物理学のもっとも不可思議でエキサイティングな可能性を教えてくれる。それは、われわれの宇宙がただひとつではなく、広大な宇宙のネットワークの中に無数に連なる宇宙のひとつなのかもしれない、というものだ。比喩やユーモアを巧みに交えながら、著者はこの平行宇宙理論のさまざまな可能性について、量子力学や宇宙論、そして最新のM理論をもとに読者に分かりやすく紹介している。本書は優れたガイドによる、素晴らしい宇宙ツアーだ。ひとたび旅立てば、わたしたちは必ずや想像の限界を超えることになるだろう。ブライアン・グリーン(『エレガントな宇宙』著者)。
この本は、タイトルだけとると突拍子もない内容に思えるけれど、実際にはニューヨーク市立大学の理論物理学教授が書いた、専門的なサイエンス・ノンフィクションだ。つまり、SFによく登場してくるようなパラレルワールドが実際に存在し得るのか、というようなことについて理論的な説明がされていく。他にもタイムマシンやブラックホールへの決死の旅の可能性など、興味深い内容に触れられている。
書店で見つけて、ぱらぱらとめくってみて、そういった荒唐無稽な内容が物理学的にどうなのかという内容がわかりやすい文章やたとえで書かれていたので、ついつい購入してみてしまった。そして、読んでみたのだけれど、文系だし物理学なんてまったくの素人の僕でも、大まかには内容を把握できるくらいにはわかりやすく、おもしろく読める本だった。
それは、ひとえに著者の書き方によるものなのだと思う。アインシュタインやホーキングなど著名な人物の研究の興味深いエピソードや、論戦の際に発した印象的な言葉の引用、あるいは『スター・トレック』や『バック・トゥ・ザ・フィーチャー』、そして『マトリックス』などを例に出した説明など、一般的な読者であっても容易にイメージがわきやすい工夫を随分としてくれているのだ。もちろん、カラビ-ヤウ多様体とかニュートリノ、大型ハドロン加速器など難しい用語や計算式なども多数出てくるのだけれど、そういったところは前後の意味合いでなんとなく理解できればいいや的に読み進めていけばいいやと割り切って読んでいた。「有名な逆二乗則からのずれが見つかれば」なんていう文章があるのだけれど、有名らしい逆二乗則なんてはじめて聞いたし。そういうところにいちいち突っかかって止まっていたら、400ページ以上あるこの手の本はたぶん積読になってしまうのだろうし。
もちろん、読み終わったいまでもちゃんと理解できているのかどうかと言われたら首を傾げてしまうのだけれど、それでもいままで未知の領域ではあったので、新鮮だったし勉強になったとは思う。パラレルワールドなりワープホールなりというのが、現状は存在が確認されているわけでもないし、実用化されているわけでもないけれど、真剣な研究の対象になっており、様々な仮説や論文が次々と世界中で書かれていることなんかもある意味新鮮だったしとても興味深かった。
そして、観測機器の質の向上も劇的に進んでおり、たとえば他の生命体の存在を八十万光年の銀河系の中からは発見できなかったけれど、それ以上の探索ができるようになっていくなんていうのも、随分と刺激的なことのように思える。
いくつか引用。
ファインマンは、ニュートンの運動法則に反する奇想天外な経路について、それぞれに割り当てた数を足し合わせると、たいてい打ち消しあって総和はわずかになることに気づいた。そしてこれが量子のゆらぎのもとだった――つまり、量子ゆらぎは総和が非常に小さい経路を意味していたのである。一方、彼は、常識的なニュートン理論の経路が、打ち消されずに大きな総和になる経路――確率が最大となる経路――であることも発見した。したがって、物理的な世界に対するわれわれの常識的な観念は、無数に存在する状態の中で最も可能性の大きな状態に相当する。しかし、われわれはあらゆる可能な状態と共存しており、そのなかには、恐竜の時代や、近隣の超新星や、宇宙の果てにまで連れていくようなものもあるのだ(198~199ページ)。
こうした量子力学の解釈によれば、考えられるすべての世界がわれわれと共存していることになる。そう気づくと思わずめまいを覚える。そのような別世界へ行くにはワームホールが必要かもしれないが、それらのさまざまな量子論的現実は、まさにわれわれがいる場所に存在している。われわれは、どこへ行ってもそれらと共存しているのだ。ここで重要な疑問が生じる。もしそのとおりなら、われわれの部屋にあふれ返っている別世界は、なぜ見えないのだろう? そこで干渉性の消失の出番だ。われわれの波動関数は、そうした世界と干渉しなくなっているのである(……)ノーベル賞受賞者のスティーブン・ワインバーグは、この多宇宙理論をラジオにたとえている。あなたの周囲には、遠くの局から放送されている何百もの電波が飛び交っている。いつなんどきであれ、あなたのオフィスや車や自宅の部屋にはそうした電波が満ち満ちているのだ。ところが、ラジオをつけると、一度にひとつの周波数の電波しか聞こえない。ほかの周波数は干渉性を失い、位相が一致しなくなっている。放送局はそれぞれエネルギーも周波数も違う電波を発しているから、ラジオでは一度にひとつの局にしか合わせられないのである(206~207ページ)。
LIGOが(地球から三億光年以内にある)二個のブラックホールの衝突を検出するまで待つ時間は、一年かもしれないし、千年かもしれない。多くの天文学者は、そうした現象を観測するのが自分よりずっとあとの世代だということになれば、LIGOでの探査を考えなおしてしまいそうだ。しかしLIGOの研究者ピーター・ソールソンは言っている。「人間は、こうした技術的な難問を解くのに楽しみを覚えるものだ。中世の大聖堂を作った人々も、自分は完成した姿を見られないかもしれないと知りながら、がんばった。でも、自分が生きているうちに重力波を観測できる可能性がわずかでもなければ、私はこの分野には携わってはいない。単にノーベル賞熱に浮かされているのではない。……求める精度のレベルこそが、私たちの仕事の要なのだ。それに到達すれば、『正しいもの』を手にすることになる」(313ページ)
だが幸いにも、わずかでも地球に衝突する確率がある小惑星は、四十二個しか知られていない。(……)しかし、1950DAという小惑星の軌道を綿密に調べたところ、2880年3月16日に地球に衝突する確率がほんのわずかだがあると見積もられた。カリフォルニア大学サンタクルーズ校のコンピュータ・シュミレーションでは、この小惑星が海に衝突した場合、高さ120メートルの津波が起き、沿岸地域の大半が破滅的な水害をこうむることが明らかになっている)(351ページ)。
―――――――――
お知らせ
たまに普段読まないジャンルを読むと新鮮でした。