運命と出会う瞬間

映画・小説・音楽・・なんでもありの気ままな感想

さまよう勇気

2007年09月09日 23時18分59秒 | Weblog
いま公開中のディズニー映画。『レミーのおいしいレストラン』。今回鑑賞のきっかけは台風9号による学校の休校。予定外のことに、仕方なく連れ歩くことになった10歳の息子の機嫌をとるためだけに入った。
が、それは、むしろ親のためのギフトとなった。・・・素晴らしい作品。
料理好きのねずみの話、くらいに思っていたら、とんでもない。そのネズミ、レミーは、『料理好き』なんではなく、本物の味を追求しなければ生きていけないタチに生まれついてしまったネズミだったのだ。人一倍発達した天才的な嗅覚と食べ物や素材への愛と情熱、しかし、なにぶん家族も仲間も残り物や盗み物で食欲を満たせればそれでいい、本当においしいもののためなら危険も省みないなんてことよりは手軽に入る残飯が毎日ふんだんにあればいい、というネズミ一族なのだ。たった一本のくさっていないきのこ、新鮮なローズマリーの葉に魂の幸せを感じるレミーはまったくの異端者だった。たまたま彼がテレビで視た、パリのレストランのシェフ、グストーの語る料理という創造、アートへの思いこそは日頃からレミーが内心で希求してやまない憧れの世界だった。
このグストーは、実はもう亡くなっていて、映画の中ではずっと、レミーの指導霊のような役で、彼を目にみえないところから応援していくことになる。
グストーの口を借りて語られる数々のメッセージ、
『誰にでも料理が作れるわけではない、だが、だれでもが料理を作ることができる』は矛盾しているようでいて、アートについてもすべてについても実に深い真理だ。

レミーの夢の象徴のパリの夜景を美しく使って、素晴らしい構成で展開していくこの映画は、映画でなくてはできないマジックで私たちを勇気づけてくれる。

そう、キーポイントは”勇気”。
おいしい料理に何より大切なのもまた、スパイスよりも技術よりも、”勇気”なのだ。

・・私にはどうやら目下日本中を放浪の旅をしているらしい息子がひとりいるのだが、彼のことを想ううとき、母親的にはどうしているものかと、胸がつぶれそうになることもあるものだが、この映画を見ていて、レミーの胸中とその彼の姿が重なった。
そうか、いいじゃないか。彼にそんな気概があることに拍手を送ろう。
日常に妥協しない旅ができるのが若さだ。
かつて、砂漠をさまよう主人公を待っている女性の心境を歌詞にしたことがあるが、そのとき、奇しくも私は自ら書いたではないか。

 『さまよう勇気が好き 胸の炎が好き』と。

あいつのジプシー体質はわたしゆずりだわ・・・しゃあない。
せいぜい自分の納得のいく料理を探しておいで。

そして、神様、この映画に会わせてくれて本当にありがとうございました。

だれもが、自分なりの料理を、拙いなりに一生かかっても試行錯誤していてもいいのですよね。