岡崎京子とその時代

2019-06-09 14:58:03 | 本関係

 

岡崎京子特集キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!ちゅうわけで、もちろん見させていただきましたよと。

 

岡崎京子がバブル前後という時代性を強く反映した作家だということは椹木野衣や宮台真司をはじめ様々な指摘があるが、(ほぼ)同時代に生まれた作家を列挙するという試みはリアリティがあって非常に興味深かった。特に吉田戦車新井英樹については、二人の作品が好きなこともあって思わず「ああ、なるほど!」と膝を打ったほどである。

 

また、ユーミンと「都会の中のマージナルな場所に出自を持つ」というアナロジーがあるという指摘についても、私が上京したのは岡崎京子の作品よりずっと遅い2000年であったけれど、そこで想像されていた東京とは渋谷のセンター街の風景であったから、そのイメージの渦中にありながら同時に落差のある環境にいるということの面白さと窮屈さというのはやはりなるほどと思わせる話だった(ちなみにこの落差とそれがもたらす「強度」について書いたのが、「ambiguous」だったりする)。

 

単に作風だけでなく、描画方法についても以前の少女漫画含め北川翔魂の模写(てかトーンまで貼りますか・・・)を用いつつ説明されているので、圧倒的な具体性があるだけでなく言葉にできないワクワク感まであり、と素晴らしい解説になっており〼(←微妙に岡崎先生風)。

 

にしても、解説にも出てくるけどやっぱ少女漫画の中では異端だったのね(出自が白夜書房だからそれもそうか)。ただ、彼女の作品に30才近くで触れたからかわからないが、むしろそこにこそ誠実さを俺は感じた。なるほど読者の夢を叶えてあげる・描いてあげるのが虚構を書く一つの理由かもしれないが、それも度が過ぎればただの麻薬(cf.感動ポルノ)と同じだし、ましてやただのパターンと化していれば猶更である。

 

まあともあれ、岡崎京子作品は登場人物の愚かしさを含め、読んでいてむしろスッと入ってくるわけで、むしろ「正しさ」に固着する人間の哀れを感じさせさえする・・・そんな自分が『臨死!江古田ちゃん!』とか『アラサーちゃん』を読むと、そこでの理屈とか行動様式が結構納得がいくのは当然のことだなあと思ってみたり(そして処女厨を一刀両断するのもw)。

 

ちなみに、言うまでもないことだが、現実を描き出すと言っても彼女の作品はただの現実描写(擬似ルポルタージュ)などではない。そこには人の営みが軽やかに描かれているだけでなく、多分に寓話的である(これは断片的なインタビューによって主人公の生涯とそのわからなさ=関係性の断絶や孤独を描き出す『チワワちゃん』を始め、『UNTITLED』『森』がわかりやすい)。

 

また、これは一度詳細に書いたので簡潔に言うにとどめるが、岡崎京子をただ「時代を象徴する作家」と見るのは過小評価と思われる。というのも、彼女の作品の中で私が最も高く評価する『秋の日は釣瓶落とし』にはLGBT・シングルマザー・介護・過労死などが登場するけれども、今でこそダイバーシティだの高齢化社会・孤独死だの働き方改革だのと言われているが、この作品は1992年に著されたものである(老婆心ながら言っておくと、リンク先で同作は2006年発行となっているが、岡崎京子が事故で作品を描けなくなって10年近く経っている)。25年以上も前のこの作品で描かれている内容がそのまま解決せず日本に残存し、むしろようやく変化の動きが始まった(解決できるとは言ってない)程度の状況であることに、「楽観的」な私ですら軽い絶望感に苛まれるけれども、繰り返すがこのような作品をすでに1992年に軽妙な筆致で描いていた時点で、時代を象徴するどころか、多くの人間が意識すらしていなかった未来を予見していた作家と言ってよい(この意味で、岡崎京子と同じ年に生まれた新井英樹が『愛しのアイリーン』にて「東南アジアから嫁を買う」という内容を1995年に書いた件は改めて興味を引く。というのも、実際の国力はともかくとして、そのような日本>他のアジア諸国という日本社会・日本人の認識のあり方は技能実習制度などからも明らかであり、つまりこれまた20年以上経った今でも変わっていないからだ→詳細は『若おかみは小学生:おかみに癒されたらアイリーンも見ましょうね』を参照)。

 

以上を踏まると、バブル前後の社会を透徹した眼差しと軽妙な描写で表現しただけでなく、そこに内在する病理をも先見の明であぶり出した類まれな作家だという事ができるのではないだろうか。


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