WHITE ALBUM:Leafの挑戦的作品とその評価

2017-02-09 12:22:09 | ゲームレビュー

 

こないだ十四松が寒さに悶絶する話題を書いた時、そういや冬に合うゲームとしてWHITE ALBUMなんてのがあったなあ・・・と懐古に浸って昔のレビューを掘り返してみた(2006年にレビューを書きたいという言及があるので、おそらくその頃にアップしていたものと思われる)。発売が1998年ってもう20年近く前なのかい!と時代の流れを感じるとともに、自分自身の初期のゲームレビューという意味でも懐かしい感じがした。書いてる内容は、今もおおよそ変わっていない。ただ、批判的に書いているものの、システム自体はおもしろいものであったし、また方向性としては「君が望む永遠」といった傑作に後々繋がっていくものであったと評価できる。ただ、「君が望む永遠」よりもずっとヒロイン以外を選ぶ状況・動機づけが微妙なため声(による演技)もほしいゲームだったな、という点が追加事項だろうか。

まあ続編(筆者未プレイ)が出てからもう5年以上経とつというのに、今さら1のレビューを上げて誰得なのか知らんが、まあそこは生暖かい目でくだしあw

 

 

【以下原文】

Leafが、大ヒット作となったTo Heartに続けて1998年に出したゲームがWHITE ALBUMである(以下「WA」と記す)。


この作品からは、リーフが新しい段階を模索していたことが強く感じられる。まず第一に、To Heartからの大幅なイメージチェンジ。「桜(春)⇔雪(冬)」、「高校⇔大学」などからそれは明らかだ。また、システムの方もサウンドノベルからSLG+ADV(シュミレーション+アドベンチャー)と大きく形式が変わり、それまでは(サウンドノベルであるため当然とはいえ)ある選択肢を選べば結果が決まっていたのが、WAでは同じ移動場所に行っても会えるキャラが変わるなどランダム要素が盛り込まれていた。これらのことから、Leafが、To Heartという作品を意識しつつまったく新しいゲームを提供しようとしているのは明らかだった。しかしWAの失敗は、まさにこの点に帰されるのであった。


なぜこれが失敗に繋がってしまったのか?もちろん、To Heartによるブランドイメージや期待という要素がWAに対する評価を辛口にしたのも確かだろう。しかし最も本質的な理由は、新システムと独特なシナリオの齟齬にあったと考えられる。先ほどシステムや雰囲気がTo Heartから大きく変化したと話したが、実はシナリオの性格も全く異なっているのである。というのもWAでは、始めから彼女(森川由綺)がいて、その彼女との仲がかみ合わなくなっきている、という状況でスタートする。そのうえ攻略可能キャラが彼女を含め6人なため、必然的に「浮気ゲー」という性格がクローズアップされるわけだ。しかも、いろんなキャラを攻略するという軽いノリではなく、それぞれ背負ったジレンマや複雑な思いといったものと対峙しなければならず、いわゆる「鬱ゲー」とは言わないまでも決して後味がいいゲームではない。


まずこの時点で、To Heartから入ったプレイヤーは違和感があっただろう。であれば当然、製作者としてはそういった反応を予想して心理描写や構図などの演出に力を入れなければならない。いや、最優先事項とさえ言ってもいい。それにもかかわらず、本作での心理描写は率直に言ってお粗末なレベルである。例えば美咲などは、最後の場面において最も詳しい説明・心理描写が必要とされる人物だ。だがそこでは、単に彼女の本音がわかるだけで、迫力もカタルシスもない。一般的に言って作中人物の行動やセリフに疑問を持つことはよくあるが、美咲シナリオの場合はそれがあまりに酷すぎて、彼女の行動云々以前に演出でミスっているとしか思えなかった。またその他、森川由綺のキャラが立っていないことや主人公の気持ちの揺れの描き方が下手であることなど枚挙に暇がない。


こんな具合に心理描写という本作で最も重要になるはずの部分がお粗末になっているわけだが、問題はそれだけに留まらない。実はここで、新システムが足を引っ張っているのである。具体的には、話題を獲得して会話時に選択するという仕組みなため、そのキャラとの会話が極めて部分的・限定的なものになり、キャラクターの理解を妨げている。しかもランダムシステムを採用しているため目的のキャラと会うために何回もロードするということが起こりえる。こういったシステムが有効に機能するゲームもあるのは確かだが(注)、「浮気ゲー」であり各キャラの暗部などもそれなりに書かれるゲームであれば、まずはそういう珍しいタイプのシナリオにプレイヤーを入り込みやすくする工夫をしなくてはならない。そう考えれば、システム部分に大きく影響される仕組みは避けるべきなのだ。というのも、単純に言って、必然性を持たせプレイヤーを納得させるためにキャラの性格や心理描写をしっかりと書き込む必要があるからで、新しいゲームシステムへの依存はキャラの全体像などを(相対的にとはいえ)掴みにくくするものでしかないからだ。この単純な事実に気づかず(ないしは軽視して)新しいタイプのシナリオとゲームシステムを一緒にしてしまったところにWAの悲劇があると言える。


「製作者が何を表現しようとしていたか」はおおかた把握できるし、よい狙いだったとも思う。また「それをどのように表現しているか」という段階でも、音楽・画像等の雰囲気作りは上手くいっている。しかしながら、シナリオ・心理描写という最も重要な演出部分で二重の(それも大きな)過ちを犯してしまっているため、このゲームを名作と呼ぶことは到底できない。厳しい言い方だが、すばらしい素材を持っていたにも関わらず、その組み合わせと料理方法で大きく失敗した製作者の責任と断じる他ない。


(注)ゲームシステムの関係で人気を呼んだものとして、当時では「放課後恋愛クラブ」が有名である。またWA発売の2年後になるが、「チャットしようよ!」というゲームが会話チップを利用する仕組みでおもしろかった。ゲームシステムは新しいながら、前者はそれまでの恋愛ADVとそれほどかけ離れない内容で、後者は(ストーリーではなく)システム中心にゲームを作り上げたことが成功の理由だったように思う。


※画像の著作権はLeafに属します。


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