菅原貴与志の書庫

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監査等委員会設置会社

2016-03-05 10:21:38 | 菅原の論稿

 今般、法学研究89巻1号に「監査等委員会設置会社 -解釈上の論点と実務への影響-」と題する研究論文を発表しました(77頁以下)。本稿は、宮島司教授退職記念号に寄稿させていただいたものです。


 昨今、社外取締役の制度的な導入を推進する動きが顕著になっています。

 平成26年改正の会社法327条の2では、社外取締役を置くことが相当でない理由の開示義務を定めました。
 政府は、この法律の施行後2年を経過した場合において、社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案し、企業統治(ガバナンス)にかかる制度の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて、社外取締役を置くことの義務付け等所要の措置を講ずるものとしています(平成26法90号改正附則25条)。また、金融庁と東京証券取引所は、平成27(2015)年3月5日、独立性が高い社外取締役を2人以上選ぶように促すことなどを盛り込んだ「コーポレートガバナンス・コード原案~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」を決定し、東証上場企業を対象に同年6月1日からその適用を開始しました。

 この点、指名委員会等設置会社では、指名・報酬・監査の3委員会の設置が必要です。しかし、経済界には、指名委員会と報酬委員会の2委員会の設置に対する抵抗感があり 、指名委員会等設置会社に移行した会社は少数にとどまっています。
 また、監査役会設置会社が、2人以上の社外監査役に加えて(会335条3項)、社外取締役の選任まで求められるとするならば、企業にとってはその過剰感・負担感は大きいといわれています。

 かかる状況下、社外取締役の利用を促進する方策として、1つの委員会で足りる監査等委員会設置会社制度が創設されたという面を見逃してはなりません。したがって、監査等委員会設置会社制度には、このような政策的観点から、取締役に対する業務執行決定の委任(会399条の13第6項)や利益相反取引の承認(同423条4項)など、手厚い勧奨措置が講じられているのです。

 こうした動向の背景には、ガバナンスにおける社外取締役の効用について、これを高く評価ないし期待する根強い意見が存在するからでしょう。しかし、社外取締役に対する過大評価には相当な注意が必要ではないかと考えます。

 また、株式会社の機関設計につき、監査等委員会設置会社という新しい選択肢が増えることによって、実務においては、各社のガバナンス体制の現状を検証するという課題があり、会社法上の理論においても、企業統治機構の構造論を再検討する時期に来ています。

 本稿では、こうした問題意識を前提としつつ、監査等委員会設置会社への移行手続に触れ、監査等委員の選解任や監査等委員会の権限に関する論点を考えたうえで、特に解釈上問題となる諸問題と実務への影響を検討してみました。

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