菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

講義録:質疑応答

2013-03-01 00:00:00 | 会社法学への誘い

 以上で、私のお話を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。せっかくの機会でございますので、もしご質問やご意見があればお受けしたいと思います。

○司会 時間も過ぎておりますけれども、せっかくでございますので、若干の時間、質疑応答をいただきたいと思います。ご意見、ご質問を承りたいと存じます。
なお、ご意見、ご質問のある方は挙手をして、それでお願いをいたします。

○アベ YCキャピタルのアベと申します。
ただいま非常にわかりやすくて非常に深いお話をいただきまして、大変参考になりました。ありがとうございます。
私は会社をしばらく離れて、今は政治とか経済の方に中心を置いているので、ちょっと基本的なことを勉強させていただきまして、大変ありがたかったです。
ただ、これはマスメディアの問題ということですが、ちょっとそれを先生に二つほどお伺いを、せっかくの機会ですからお教えをいただきたいというふうに思っております。
実は、やはり今度の会社法改正の時に、ご存じのように、マスメディアでは資本充実責任、資本金ゼロでもいいというふうなことが、これは是か非かというふうなことが問題になりました。あとは、会社は誰のものかということで、今先生が一応趣旨を説明すると、アメリカの株主のものと。株主利益、株主の利益を最大にするということが会社の本質なんだということが、アメリカ流の考え方が大分席巻したわけでございます。若干私どもも異論を持っているわけですが、今後の会社法の改正について、またこれを是正すべきであるというふうなことも聞こえてきますが、今の点を含めまして、今後の会社法、さらなる発展なり是正・改正という動きの簡潔なところをせっかくの機会ですからお教えをいただきたいというふうに思う次第でございます。

○菅原 はい、大変にいい質問をありがとうございました。
ご質問は2点と伺いました。
1点目は、平成17年の改正時に、従前は株式会社になるためには1,000万円、有限会社なら300万円という最低資本金というルールがあったわけですが、これを撤廃しています。この最低資本金制度の撤廃の是非についてどう思うのかという点ですね。
それから、2点目は、会社法の仕組み上、会社の所有者である株主利益の優先、いわゆるアメリカ流のウォール・ストリート・ルールといいますか、投資家保護が色濃くなっているようだが、それが本当にいいのか。今後ほかの考え方はないのかというご質問であったと理解してよろしいでしょうか。

1点目は、最低資本金制度の廃止はメリットとデメリットの双方があったと思います。資本金が0円でも会社を設立できることは、起業や新規事業の進出には非常に良い制度なので、経済の活性化にもプラスに働くでしょう。ただし、資本金が0円でも、印紙代などの設立費用は要りますから、まったく「ただ」で会社ができるわけではありません、30数万円は必要です。
マイナス面は、資本金も計上できないような手持ち資金で会社を設立すること自体が、決して健全だとは思えないことです。また、安易な会社設立には悪用の懸念もあります。総じて、私は個人的に、最低資本金制度の撤廃には問題が多いのではないかと思っております。
少し前のことですが、資本金1,000円くらいで「振込め詐欺」に悪用するためのダミー会社を何社も設立したという事件がありました。死体なき殺人事件としてニュースになりましたが、東京都内のマンションの1室で、殺人の痕跡は残っているのだけれども、部屋の住人である被害者の死体が見つからないのです。調べてみると、そのマンションの部屋を本店所在地とした会社が複数出てきました。どうも振込め詐欺に利用するためだったようでありまして、これなども会社法を悪用した事例でしょう。
責任経営の実現するためには、基本法たる会社法で最低限の資金調達を義務づけ、経済の活性化という政策目的には、時限的な特別立法で対応するのが本筋ではなかったかと思います。

次に2点目ですが、会社の仕組みからいうと、やはり観念的には株主をオーナーと考えることになろうかと思います。しかし、会社の事業活動かかわる利害関係者(stake holder)は、株主や投資家マーケットばかりではありません。会社は、取引先、従業員、地域社会、顧客、競争相手など、取り巻くステークホルダーとの利害調整をそれぞれ図りながら、事業経営しているのが実態です。こうした利害関係の全般について、会社法の規律に取り込むのか、会社法のフィールド以外に任せるのかという議論があります。おそらく今後の会社法制の見直しにおいても、議論の一つになるのでないでしょうか。
結論から申し上げれば、必ずしもウォール・ストリート・ルールが日本の企業社会にはそのまま当てはまらないというのが、いまや共通の認識ではないでしょうか。お答えになっているかどうかわかりませんが、ちょうど最低資本金制度を時間の関係で省略もしたため、ご質問いただきましてありがとうございました。よろしいでしょうか。

○トザワ 本日は、大相撲の話なども交えながらの大変おもしろくもわかりやすい会社法のお話をご講義いただき、大変ありがとうございました。私、トザワと申します。
本日のお話の中で1点だけちょっとご意見を申し上げさせていただきたいことがございまして、僭越ながら発言をさせていただきました。
会社の概念についてなんですが、私は社団性というものはちょっと認めるべきではないと考えております。というのは、私は旧商法の時代には物心もついていないような若輩者であるということもあるんですけれども、現行の条文では、会社は社団であるという定義がまずないというのが最大の原因なんですが、現在の条文では、社員が1人となったことは会社の解散事由にもなっておりませんし、一人会社というものも設立することができますし、潜在的社団論ということを言われている方もいらっしゃるんですけれども、設立当初からの一人会社の社団性は潜在的社団論では説明できないと思いますし、ひとりぼっちでやっていこうという人とか、柔軟な機関設計とかを考えるのが今般の会社法の制度趣旨でもあるのかなということなどを考えるのと、条文にないものはどうかなというような現実的な考え方もございまして、ちょっと生意気ながらご意見させていただきました。

○菅原 ご意見いただいてありがとうございます。
そういう考え方がおそらくだんだん増えてきていると思いますし、おっしゃるとおりだとも思います。それでもなお、私が個人的に、社団性の本質を失っていないのではないかと思っている理由は、簡単にいうと二つあります。
一つ目は、確かに「社団」の文言は消えましたが、社団の構成員を意味する「社員」という表現は残っているため(会社法581条以下)、条文上も社団性が完全になくなったわけではないという点です。
それから、二つ目は、法人格の受け皿、権利義務能力の主体としての受け皿としては、やはり社団が想定されているのではないかということです。
ただ、今ご意見をいただいたとおり、条文にはない社団性の部分にいかほどの意味があるかという実質論はおっしゃるとおりですし、社団性は会社の本質的要素ではないと断言する見解もあります。そういう意味で、ご議論自体は正しい方向性ではないかと思います。

○トザワ ありがとうございました。

○菅原 ありがとうございました。よろしいでしょうか。
それでは、マイクを司会の先生にお返しする前に、一言だけ御礼のご挨拶をさせていただきます。今日は多少雑駁なお話にもなりましたが、用意してきた内容について一応お話しできたつもりでおります。90分間という長丁場、お聴きいただきまして本当にありがとうございました。
ぜひ皆様方、健康には十分にご留意いただき、ますますご活躍されることをお祈り申し上げます。こういう機会を賜り、大変光栄に存じます。皆様のご清聴に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

(完)


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