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サンスクリットの古典詩を読む

2022年09月18日 | 梵語入門

[あらまし] 数年前、サンスクリットの初級文法を終えて、最初に
5世紀頃の宮廷詩人カーリダーサの詩『雲の使者』を読もうとして、
挫折した。
今年、東大仏教青年会のサンスクリット上級講座で、講読する機会を得ている。

ある夜叉が、仕事をサボッた罰として、首領のクベーラにより一年間、
遠く南の地に飛ばされる。
そこで半年ほど過ごした頃、北の果てヒマラヤのカイラーサ山に残した妻に、
自分の無事を伝えてくれるよう、雲に依頼する。

モンスーンのことなのである。

日本では梅雨前線が北上していくように、
インドでも、雨が北上していく。
インドでは季節は6つに分けられる。
春、夏、雨季、秋、寒季、冬、といったような感じだ。

夏の暑さは厳しい。
だから、雨をもたらす黒い雲は、恵みの兆しとして喜ばれる。
この頃の東京の夏も、「今日は曇っていていい天気ですね」なんて挨拶するようになった。
雲が有る=嬉しい、という気持ちが分かる気がする。

良い便りを雲が運ぶ、というのは
インド人としては必然的な発想ということなのだろう。



古典を勉強するのは、今や、インターネットのおかげでとても容易になっている。
ひとムカシ前だったら、古本屋を這いずり回って高価な稀覯本を買い集めたり、
どこぞの大学の図書館に通って少しずつコピーしたのを自分で製本したりしなければならなかっただろう。
そういうのも慣れていて好きなのだが。

インドの文献なら、大体ココでこと足りる。
https://archive.org/
ありがたや。



サンスクリットの研究は、19世紀のイギリスやドイツで盛んだったようだ。
今、わたしたちがサンスクリットを学ぶ時も、
当時、編纂された辞書を使っている。
その辞書も、インターネット上で使える。
ケルン大学が数々の辞書をウェブ上で引けるようにしている。
ちょー便利。
https://www.sanskrit-lexicon.uni-koeln.de/
ありがたや。

更に、上記のサイトの数々の辞書をまたがって一気に引ける
以上に便利なサイトも有る。
辞書は一長一短で、一つ引いても分からない場合、別の辞書を引いて解決することもある。
ひーー便利。
https://ashtadhyayi.com/kosha/



私が最も使い慣れているのは、Monier-Williams Sanskrit-English Dictionaryだ。
「モニエル」と呼んでいる。

今日の今日まで、モニエルさんとウィリアムズさんが協力して作った辞書だと思っていた。
調べてみたら、「モニエル・モニエル=ウィリアムズ」という学者なのだそうな。
なぬ!?
父親の名前がモニエル・ウィリアムズで、
あちらではよく有ることだけれど、
三男は父親と同じモニエルという名を付けられたのでやっぱりモニエル・ウィリアムズで、
更に67歳で叙勲した時に苗字をモニエル=ウィリアムズに変更したので
フルネームはモニエル・モニエル=ウィリアムズとなった、
ということなんだそうな。
もにえる話だ。

モニエル・モニエル=ウィリアムズは1819年生まれ。
モニエル=ウィリアムズ梵英辞典の初版は1851年。
現在、主に使われているのは第二版なのかな、1899年版。
モニエル=ウィリアムズの没年である。

普段、辞書の扉のページなんかに用は無い。
あらためて見てみると、
「NEW EDITION, GREATLY ENLARGED AND IMPROVED」とある。
新版、めっちゃでっかくなったし改良したよ。とな。



モニエル=ウィリアムズは、
タイトルのすぐ下に
「ETYMOLOGICALLY AND PHILOLOGICALLY ARRANGED」
と書いてある。
つまり、語源と比較言語学に重きを置いている。

もう一つよく使うのが「アプテ」である。
ケルン大学の辞書サイトでも、「モニエル」と「アプテ」は太字になっている。
みんながよく使うから見付けやすくしてあるのだろう。

アプテのタイトルページ冒頭にはこうある。
「THE PRACTICAL SANSKRIT-ENGLISH DICTIONARY.
Containing Appendices on Sanskrit Prosody and
important Literary & Geographical names
in the ancient history of India.」

まず、「実用」とタイトルに入っている。
現代の辞典でもよく見る文言だ。
語源だの言語学だのといった、研究者向けの情報はともかく、
実際に使うことに主眼を置いている、ということだろう。

付録に、サンスクリットの韻律一覧、
歴史的な著作や地名のリストが有るという。
おう。実用的。
特に、どの韻律を使っているのか、というのは
サンスクリットの古典詩を読む中で大きな楽しみなのだ。



とまあ、このように、
日々アップデートされるインターネット上の最新ツールを利用して、
文字を用いずに伝えられてきた、千何百年前のインドの詩を読んでいる。
あーらすごいギャップ。楽しい。

さらに『雲の使者』について調べていくと、思いがけない事を知ることとなった。

つづく。

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