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犬小屋:す~さんの無祿(ブログ)

ゲゲゲの調布発信
犬のこと、人の心身のこと、音楽や自作のいろいろなものについて

ねずみこし

2018年11月01日 | 毎月馬鹿
[あらすじ] 母85歳パーキンソン病、要介護2。

人間が活動するために、ドーパミンという物質が必要だ。
パーキンソン病ではドーパミンが行きわたらず、
身体の動きや頭の働きが悪くなる。
関節が固くなって寝たきりになるケースも有る。
うちの母の場合、あまり進行しないタイプのようだ。
ただ、症状に日々の波は有る。

ドーパミンそのものの製剤や、ドーパミンが片付けられてしまわないようにする薬を
組み合わせて、一定の時間ごとに飲んでいる。
飲み忘れたら動きにくくなる。
しかし、ドーパミンが過剰に有るとまた違った症状が起きる。
身体の一部(腕や首など)が動き続けてしまったり、
いないはずの人が見えたり、はっきりとした夢を見たり。

母も、女の人が何人かいたりする。
最近は、実物の人間より二回り大きい黒人の男性がいるらしい。
室内にいるのだが、幻覚だと分かっているから怖くない。と言う。

現実と区別のつかないはっきりした夢も見る。
ドンと大きな音がして、二階で私が転んだのかと思うと言う。
室内での転倒が危ぶまれているのは自分のほうである。

数日前から夜中に壁の中から何かシャラシャラと物音がする。と言う。
壁の中から物音など、するわけがない。
夢か現実か幻聴か、どれも実感としては「現実」になるわけなので、
当人には区別のつけようが無い。

私はドンもシャラも聞いていないと思う。
ぐっすり眠っていて聞き覚えが無いだけかもしれない。
これまた判然としない。

明け方に、犬がやたらに吠える。
しかたない。階下に様子を見に行った。
母が、「また壁の中からシャラシャラが聞こえた。」と言う。
犬はなだめたらすぐ吠え止んだ。とにかく私がいれば安心するのだ。

犬も年を取って、耳が遠くなっている。
加えて、早朝から日暮れまで3回のヘルパーさんと、
週一回の看護師さんと週一回のリハビリの先生などが出入りする。
人の出入りが多いので、緊張していて、
何かのきっかけで吠えることが有る。
これまた聞き違いや夢の延長かもしれない。

何が現実か、誰の知覚がしっかりしているのか。
やれやれ寝直すか、と部屋に戻る。
部屋を出るときにそういえばかすかに気になったのだが、
本棚に置いておいた模型のお神輿が無い。
昨日、友人Мに見せるために階下に持って行って、どこかへ置いてきてしまったか。
階下のどこかに置いておくと、母がいじって壊してしまう。

けれど、今はもう一度降りて行って探す気になれない。眠い。
横になると、あわれ、すぐに眠ってしまった。
ストレスの蓄積で疲れが溜まっているのだろうか。

どこかからシャラと聞こえた気がした。
私まで幻聴が聞こえるようになったのか、夢か、緊張し過ぎか。
いやまた聞こえた。
息を呑んで耳をそばだてる。
やっぱり聞こえない。
気のせいか、と思った瞬間、またシャラ。
シャラ。
はっきり聞こえるようになった。

シャランシャランシャランシャラン!
しまいにゃ鳴り続けている。
人声も聞こえてきた。
わっしょいわっしょいわっしょいわっしょい!

そーっと目を薄く開けて見ると、私の作ったお神輿を
何やら小さい者たちが担いで、本棚を移動している。
私が置いていた位置に近づいては、
「あー」とか「わー」とか言って少し戻り、また進んでは戻りしている。

私は寝たふり薄目で、息をひそめ寝返りも打たず、じっと見ていたが、
20分か30分も経ったのではないかと思う。
窓の外、空はうっすらと白んできた。

明け方の冷え込みのせいで、く、く、堪えられず、
大きなくしゃみをしてしまった。
連中は一気に本棚の裏へ駆け込み、
そして壁の中からパタパタパタっと足音が聞こえ、
すぐに遠のいて行った。

お神輿はきちんと本棚の元の位置に有る。


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