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映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

蓼科高原映画祭 入選10作品の(個人的)映評

2010-11-03 12:07:17 | 自主映画関連
ブロガーによる00年代(2000~2009)の映画ベストテン
↑この度、「ブロガーによる00年代(2000~2009)の映画ベストテン」を選出しました。映画好きブロガーを中心とした37名による選出になります。どうぞ00年代の名作・傑作・人気作・問題作の数々を振り返っていってください
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小津安二郎記念蓼科高原映画祭短編部門に全国から寄せられた59の作品のうち、見事に入選された全10作品の紹介と感想です。
◆審査委員長:伊藤俊也(映画監督)
◆特別審査員:工藤雅典(映画監督)、細野辰興(映画監督)、三浦淳子(映画監督)、阿部勉(映画監督)
●入選作
「キュポラ」 加藤秀樹 18’30
「セピア色のとけい」 きのしたがく 7’30
「放課後とシンバル」 巻田勇輔 10’00
「僕の探しモノ」 福島禎雄 13’15
「僕の見た海」 植田久貴 5’00
「ワタシのイエ」 古本恭一 17’35

●入賞
「カキノタネ」 滝澤弘志 9’57
「せば・す・ちゃん」 齋藤新、齋藤さやか 19’37

●準グランプリ
「Anne Jennings」 吉川仁士 16’08

●グランプリ
「くらげくん」 片岡翔 14’00



↑「せば・す・ちゃん」で入賞した私と妻

↑「せば・す・ちゃん」のキャスト、スタッフと記念写真
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個人的な感想

入選
「キュポラ」 加藤秀樹監督

ラジオ番組の収録スタジオ内で繰り広げられるハイテンション会話劇。
役者さんたちの演技がいちいち素晴らしい。
がーがー怒鳴り散らすミキサーの女性はあまりに強い印象を残す。
他のスタッフも、アイドルの女の子も、そのテンション高い演技を見ているだけでかなりの満足感が得られる。
「短編」としてまとめてしまったのがもったいない印象。せめて30分とか40分とかの作品にすれば芝居も楽しめたし、物語もどんどん膨らんでいったような気がしてならない。

「セピア色のとけい」 きのしたがく監督
アニメ作品。可愛らしくも美しい絵本のような世界の映像詩。
キャラクターは可愛らしく背景は美しく、映像は滑らかで見せ方もうまく、何度でも見たくなる。
ラストは泣ける。


「放課後とシンバル」 巻田勇輔監督
高校生の恋愛もの。たぶん16mmで撮影。
過去にも蓼科入選の多い日大からの出品。
高校の教室で転校前の最後の日に、好きな男の子の追試を手伝う女の子。
16mmの画質と教室の窓から差し込む柔らかい光が、我々一人一人の中にある(普通は美化された)青春の思い出へと誘う。
これももう少し長い尺で見たかった気はするが、いい気分になれる映画。
エンドロールにかかる(男の子がシンバルを担当している)ブラスバンドのマーチがまたいい余韻を残す

「僕の探しモノ」 福島禎雄
喧嘩した夫婦の仲直りのためになくしてしまった母の指輪をさがす少年の物語。
監督はプロの脚本家として活躍している方。2時間のホンを3日で書き上げなきゃならないとか、現場の苦労は私の想像をはるかに超えていた。
だからあるいは自主映画でのびのびと思い通りに撮ったのかもしれない。
母と父(今回の入選作出演者で一番のハンサム俳優)の演技はうまく、子役もうまい。
ストーリーを判りやすく誰も作家とは別の解釈をしないように台詞を反復させてボイスオーバーさせるところの丁寧さに脚本家らしさを感じた。
話をきれいにまとめてハッピーエンド。きれいにまとまりすぎてその先を見たい欲求にかられる。

「僕の見た海」 植田久貴監督
心優しい新聞配達員とおばあちゃんとの心温まるショートストーリー。
監督は外見は品川庄司の品川似で、内面は好青年という印象。
本作品では主役もつとめている。特筆すべきはナレーションの喋り方。映画の予告編でよく耳にするような爽やかで遠くに向かってつぶやくような語り口。
いつか自分の映画でナレーションをやってほしい。
[ネタバレ]
新聞配達員の青年はいつもやさしく声をかけてくれるおばあちゃんがある日から姿を見せなくなり、新聞はベランダにたまったままで不安になる。
しかし、ある日おばあちゃんがまた元気に彼の前に姿を見せる。どうもどこかに出かけていたらしい。
青年は「悪いことを想像していた」と自分を恥じて明け方の海岸で爽やかに笑う
我ら観客としては、新聞がたまっていく段階でなぜ彼は家の中をのぞいたり、玄関から声をかけてあげたりしないのだろう・・・という疑問を抱く。
だがもしかすると、そう思わせることが監督の狙いだったのかもしれない。
家の中を見せないことで観客全員におばあちゃんの身に起こった何かよくないことを想像させておいて「悪いことを想像していた」というナレーションで観客全員を「共犯者」にしてしまう。
ラストの青年の笑いは実はだまされた観客たちに向けていたのかもしれない・・・
という深読みも可能だが、植田監督と話した限りにおいて彼が「いい人」であることに疑いの余地はなく、そんな姑息なことを考えていたわけではないだろう。
明け方の海岸の映像の美しさ、おばあちゃんをかわいらしく撮るところも素敵だ。

「ワタシのイエ」 古本恭一監督
自暴自棄ぎみの女をのせたタクシーの喜劇。
2004年の蓼科高原映画祭で「アトムの光」という短編でグランプリを受賞。入選もこれで三度目。実行委員の方々ともすっかり顔なじみな感じの古本監督。本作ではタクシー運転手役で出演もしている。役者としてもうまい。ナイスミドルな方だ。好きな監督はキェシロフスキとのこと。
[ネタバレ]
山梨県が舞台らしい。タクシーに美人が乗る。どこでもいいから連れて行ってくれと言う。それは困るという運転手だが、昔「青木ヶ原の樹海に行って」と乗り込んだ女性客にしたときのように、彼は行きつけの定食屋に女を連れて行く。あの時はコロッケ定食を食べたら女は自殺を翻意したという。今度も食事をして落ち着いてきた美人客は陰鬱モードからすっかり打ち解けモードになった。運転手は行き先を決めるため店員の女の子をよび彼女に目をつぶって山梨県の地図帳をテキトーに開かせてデタラメに指をささせる。その娘がさした場所は「青木ヶ原樹海」。
陰鬱なムードで始まったこの映画はここで本性を現し喜劇に転じる。転じるのだが誰もギャグやってます的な顔をしないところがいい。2人はいたって真面目なのだ。傍観する我々にだけその状況が笑えて仕方ない。本物のコメディ作家という印象を受けた。
その後樹海に向かう2人に訪れる第二のアクシデントがまた予想を裏切る。そのアクシデントの後2人がけだるそうに車内にもどり運転手が煙草を一服して、そして慌てモードに切り替えるところも笑える。ただしこの第二のアクシデントが面白かったがちょっとふざけ過ぎな印象は受けた。しかしラストもいいところに着地。入選の常連だけあって安定感のある作品だった。
タクシーのラジオから聞こえるニュースの内容も、なんだか変で面白い。

入賞作品
「カキノタネ」 滝澤弘志

アニメ作品。荒いタッチの画で母のいない子供の怒りの感情が書きなぐられる。
「セピア色の時計」と「カキノタネ」という両極端なアニメ作品を選ぶ蓼科映画祭のセンス。
荒々しいが愛着のわく独特の画風。この方の書く漫画もあればすごく楽しそうだ。
ストーリーにはさほどのひねりはないが暴力的で強引な展開にストーリーなど気にならない。
監督は長野県上田出身・・・ということは私とはご近所さんになるのだが・・・映画祭への出品は今作が初とのこと。
表彰式後のパーティーでの挨拶でも「なんというか愛しています」という奇妙だが面白いことを言い、作品以上に本人に興味がわいた。

「せば・す・ちゃん」 齋藤新、齋藤さやか
私たちの作品。台詞なし、音楽ほぼなしの映画。
自分で自分の映画の批評はできないので、審査委員長の伊藤俊也監督の評を紹介

「これといって思い出せないし、思い違いかもしれないが、伝言メモへの書き込みが、皮肉な思い違いを生じさせるという話は、これまでに使われたような気がしてしようがない(もし、そうでなければ、見事なアイデアを作者たちは考え出したというべきで、平にご容赦願いたい。)とはいえ、ここで主人公の男と、駅で毎日見かける女との、間に入り込む影の登場人物が、無人駅(洗馬)の一定時間にしか姿を現さない中年男子駅員(洗馬・す・ちゃん)だったというトリックが絶妙である。仕掛けは先ず台詞を排除したところにある。台詞が存在したら、月曜日から丹念に積み重ねて少しずつ男を女に接近させていくミスリードの過程が一度に吹き飛んでしまう可能性があるからだ。そして台詞の欠如を補ってなお雄弁なのが、警報機の音と電車の往来である。それだけに都合良く電車が按配されるのは気になった。普段は男の乗る電車の方が先に出るのに、女がキイホルダーを落とす場面では女の電車が先に出る。同じウィークデイのタイムテーブルが乱れているということになる。まあ、これは意地の悪いけちのつけようではある。だが女の表情を読み取らせまいとしてか(一度だけ、携帯を見た女が不如意げな表情を見せる。いわば作為として男への隙を見せたということであろう)、年頃の女性が持つ華やぎさえ封じてしまったのは、男の日に日に高まっていく期待と高揚の表情をいまひとつ欠くのと同様、最後のオチの効果を損じた。」

他に審査員の細野辰興監督からは「カタルシスがない。作者が主人公を愛していない。女性に男の気持ちや努力を判らせてあげた上で最後の展開にすべきだった」という趣旨の評をいただきました。



準グランプリ
「Anne Jennings」 吉川仁士

ハリウッド発の英語作品。精子バンクからの提供により生まれた女が結婚を前に遺伝上の父親に会いに行く。
エンドロールの長さ。関わった人間の多さにただただ圧倒される。ちなみに私の「せば・す・ちゃん」は監督キャスト含めて関係者は全部で6人。
裸でベッドで目覚めたカップルがキスをするという、自分でも撮りたくて仕方ないがなかなかそうもいかない場面から始まった時点で、羨望のまなざしで鑑賞してしまう自分。
映像も音楽も一級品。商業映画を見ている感覚。
けれど、本格的な作りなだけにシナリオや演出の腑に落ちない点が気になってしまった。
ライアン(父親)を訪ねたアンが正体を明かすことなく結婚式に来てくださいと言って、ライアンが承諾してしまうのはアメリカ人にとって普通のことなのだろうか。何かただならぬ事情を察したが故に優しいライアンは理由を聞かずに招待を受けたと見るべきか。もしくはアンが訪ねてきた時にライアンが「誰か訪ねてくるかもしれないと聞いていた」云々と言っていたから、彼はアンの正体を知っていたと読むべきか。
ラスト結婚式に現れたライアンと思しき人物は姿を映さずに引きずった足で観客に彼と判るような仕掛けになっている。だがしかし登場人物の少ない短編作品ゆえに、あえてぼかさなくてもそれが誰かはまる判りであり、かえってもどかしい。他にも結婚式に来そうな男性を何人か紹介しておいてのあの描写なら良かったと思うし、あるいは映画はアンとライアンが会う前にラストとなるのだが、引きずった足は我々観客よりむしろアンに見せる方がドラマが膨らむように思える。
などと突っ込んでみてもやはり見応えのある本格派な作品であることは間違いなく、引き込まれてしまうのだった。

グランプリ
「くらげくん」 片岡翔

2人の男の子の友情と片思いのすれちがいの物語。
2010年PFFの準グランプリ受賞作。長岡映画祭でもグランプリ受賞。(ちなみに長岡では監督賞が「Anne Jennings」の吉川仁士監督で、蓼科と似たような結果に)
他の映画祭でも受賞を果たしており、恐らくこれからの短編コンペでも話題を呼ぶだろう。
そんな錚々たる受賞歴など知らずとも、本作が蓼科入選作中ダントツで優れていたことは見ればすぐわかる。
女の子のような服を来た男の子のくらげくんは、もう一人の主人公虎太郎が好き。くらげくんは大人びた発言の多いが、虎太郎はよくいる普通の子供っぽい男の子。映画はこの2人だけで展開していく。
[ネタバレ]
パーを出すと宣言し、神様にもお母さんにも誓うと言ってグーを出すくらげくん。このじゃんけんで前半終了し、後半は2人が遊びにいった海でのやり取り。クライマックスはじゃんけん勝負の反復。じゃんけんでくらげくんが勝てば将来2人は結婚するという大勝負。
人生が何でもじゃんけんで決まればいいというくらげくん。負けは嫌だけど神様が決めたことなら諦めることができるという。
しかし最後のじゃんけんでくらげくんは明らかに神様の裁量ではなく自らの意思で負けを選ぶ。諦めきれないくらげくんの気持ちが胸を打ち、そんなくらげくんの心情は勝った勝ったと無邪気に喜ぶ虎太郎を冷ややかに見つめる顔が雄弁に物語っている。
音楽に頼らずに要所を盛り上げるが、中盤の海に向かう2人のモンタージュとエンドシーンに挿入される歌はとても心に響くいい曲。
うまくて泣けて画もきれい。そのくせ制作規模は大きくもない。金でも機材でもなく、シナリオと演出力だけで傑作を作れてしまうことをこの作品は我々アマチュア映画人に教えてくれる。
ちなみに片岡翔監督の好きな映画監督は宮崎駿とのこと。


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3 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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先日は (渡部)
2010-12-14 05:42:57
アンジェニングスPの渡部です。
先日は蓼科にてお世話になりました。
私の大学時代の卒業制作が皆さんに評価していただき
嬉しく思っております。
また、映画祭でお会いできれば光栄です。
返信する
パイロット版 (渡部)
2010-12-15 18:10:50
度々すみません。
蓼科でお会いした渡部です。
去年撮ったパイロット版ができました。よろしければ御覧ください。
http://www.youtube.com/watch?v=ABXd6PJv8TI&feature=player_embedded
返信する
渡部様 ありがとうございます (しん)
2010-12-17 22:53:53
渡部様

「Anne Jennings」にはぐいぐい引き込まれました。
パイロット版も覗かせてもらいました
今度はサムライ・チャンバラとは!!
アクションもかっこよいしすごく守備範囲の広い創作活動で感銘をうけました
完成品を観るのが楽しみです

今後とも力強い作品を作り続けていってください
今後ともよろしくお願いします
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