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映画作りの糧とすべく劇場鑑賞作品中心にネタバレ徹底分析
映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

レディ・プレイヤー・ワン

2018-12-26 19:22:42 | 映評 2013~
今年そういえば、きちんと映評書いてない作品がたくさんあり、年越し前に自分の映画鑑賞総括のためにも、記しておこうと思う

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「レディプレイヤーワン」

スピルバーグの80年代への愛とオマージュの作品
必ずしも世評は高くないようだが、わたしにはこの映画は、生きてて良かったと思えるほど、オタク心をくすぐる作品だった。

スピルバーグが自分とともに駆け抜けた80年代世界への愛を語った映画なのか
あるいはリア充がオタクになりきって作ったような鼻持ちならない映画なのか。だから時々微妙にわかってない描写が
オタク目線でもふた通りの印象が容易に考えられる
でもただの80年代オマージュなだけではない

グーグルやアップルが世界の実権を握ってしまったような暗黒未来を通して現代に警鐘をならす作品でもあるし。
どこか「サマーウォーズ」をスピルバーグが撮ったら的な内容に、トシロウとガンダムとメカゴジラのニッポンありがとう映画のようにもとれるし
相当深読みだが失敗作と言われた「1941」(わたしは好きだが)を、最新技術でもっと派手にやりたかったのかもしれないとも思った。

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繰り返すが本作は80年代へのオマージュが第一にある。

86年のバックトゥザフューチャーのデロリアンと88年のAKIRAのバイクが走る。
エイリアンはエイリアンでも79年の1作目ではなく、86年の2がフィーチャーされるし、キューブリック映画は60年代の2001年異常な愛情でなく、70年代の時計仕掛けのバリーリンドンでなく、80年代のシャイニングがフィーチャーされる。
80年代じゃないものもあちこち入るのだけど。
キングコングは30年代だし。70年代のジョンギラーミンによるリメイク版の続編が86年にあるけど、レディプレイヤーワンのコングはそれではないだろう。むしろCGチックな動きは2005年のピータージャクソン版を彷彿とさせるが、音楽が30年代版のやつなので。
ティラノザウルスは93年のジュラシックパークのセルフパロディか。この辺は「1941」リベンジ感。
メカゴジラは昭和シリーズでの登場は1974年で、VSシリーズだと95年、デザイン的には機龍シリーズのかとも思ったが、95年の映画ポスターのメカゴジラ(本編のとは似てない)に似ているのがわかった。
ガンダムだって本放送は79年だ。ただしガンダムというかガンプラブームが日本で起こったのは80年代だったし、アメリカで最初に紹介されたのは80年代だったのかもしれない。
など例外はあちこちあるが、レディプレイヤーワンは原則として80年代サブカルへの敬意で固められている。
それはスピルバーグ自身の第一次黄金期が80年代だったからというのも大きいのだろう。

しかしだ、80年代のそのころ、スピルバーグは間違いなくど真ん中にいたが、一方でかなりのアンチも生み出していた。
80年代に本格SFが好きな人、スプラッターホラーが好きな人、アニメが好きな人、バイオレンス映画が好きな人などは、スピルバーグ映画を「子供だまし」「お子様ランチ」と言ってバカにしてはいなかったか
いや、スピルバーグ映画というわかりやすい最大公約数エンターテインメント映画をバカにすることで自分のジャンル愛を確認していた面もあったかもしれない。

スピルバーグ映画なんか観てる暇あったらキューブリック観ろって、あっちの方が本物の映画だって…みたいなこと言ってた奴はいるんじゃなかろうか(主に学生のインテリ気どり)

怪獣やアニメという日本文化をこよなく愛す人がスピルバーグを見下す…という例が、そういえば身近にあった。
私の兄だ。あの頃兄はスピルバーグ映画特に「E.T.」をバカにしていた。スターウォーズに対してもそんな傾向があり、スピルバーグのみならず当時のアメリカのSFファンタジー系映画の1番人気路線をバカにしていた気がする。スピルバーグでもジョーズはそこまでけなしてなかったし、SFといってもエイリアンや物体Xなどのホラー系は好きだったように思うが、明確にスピルバーグ・ルーカスブランドの映画は見下していた。
宇宙人と子供が仲良くなる話より、老若男女問わず皆殺しの富野アニメの方が刺さるものがあったのかもしれない。
でも今そんなスピルバーグがガンダムとメカゴジラの戦いを描いている。
どっちも好きだった私としては2018年になってようやくジャンルの枠を超えて全てが一つになったと感慨深い。


ところでこうした、ジャンルムービーへのオマージュをその様々なジャンルのどこかに属していた人が作るのなら、例えば庵野さんとかが作るのならともかく、ノンジャンル全方位エンタメで80年代のど真ん中にいたスピルバーグが作るのは、やっぱり今これだけのキャラクターを描ける資金力と人望があるのがスピルバーグくらいだから、だろうか。
スピルバーグが映画界での権力とお金をこんなに有効に使ってくれて、私は単純に嬉しいけど、そこには天才すぎてわからないオタクバカたちの微妙な、琴線ずれを感じないでもない

例えば
ガンダム出動シーンのトシロウのセリフは「俺はガンダムで行く」じゃなくて、「トシロウ、ガンダム、行きまーす!」だろうとか、
メカゴジラ登場シーンのBGMは伊福部ゴジラ・メインタイトルよりも佐藤勝のメカゴジラテーマの方がよかったなーとか

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けれどもスピルバーグ的によく研究しているのは、この映画の様々な「んなわけねーだろ」的ツッコミどころをおそらく意図的に設けているところだ
怪獣もアニメもホラーもそれはツッコミどころ満載のジャンルだった。私たちはそれらをツッコンで楽しむ一面もあったのだ。
レディプレのツッコミどころはなんだろう

ネットで出会った多分若い女性
女性のまるで寄ってこないアニメ、ホラー、特撮、ミリタリ、車云々の世界。いてもどうせブスだろうみたいなこの世界で、本物は想像を遥かに超えて超かわいい。んなわけねーだろ。でもいいのだ。映画だから。

ウェイドの演説で世界のネットオタクどもが戦いに参戦も、そんなわけねーだろなのだが、それでいいんだ。映画だから。

パスワード紙に書いて端末に貼っておくとか、そんなの入社して最初に教わるやっちゃいけないことだろうよ。それでいいんだ。そいつは悪人でこれは映画だから。

ネット奴隷制度みたいな、あのシステム。
面白いけど冷静にならなくてもそんなわけねーだろ。でもいいんだ。捕まるのはかわいいヒロインでこれは映画だから。

いつも真面目くさってツッコミどころを極力減らしてきたスピルバーグが、ここに来てこんなスキだらけの映画を作るなんて。これはむしろ楽しいし嬉しいのだ。

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話は変わるが、出演者の一人に私の大好きなサイモン・ペグがいる。
彼は少し前に傑作コメディ「宇宙人ポール」の脚本と主演を務めたのだが、この映画はSFオタクが宇宙人を連れてロードムービーする映画で、全編に様々なSF映画と、そしてスピルバーグ映画へのオマージュが散りばめられていた。スピルバーグ映画はSFじゃなくても、レイダースもジョーズもオマージュした。それは80年代の周縁部を生きたオタクたちからの80年代ど真ん中のスピルバーグへのオマージュであり、その意味でレディプレイヤーワンとは真逆の構造の映画だった。
スピルバーグがその宇宙人ポールのサイモン・ペグをレディプレイヤーワンで重要な役に起用したことが、彼なりのサイモンへのお礼にして、オタクたちへの敬意のようにも思うのだった。

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なんかまとまりないけど、とにかくレディプレイヤーワン大大大好きってことで
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