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不屈の男 アンブロークン (アンジェリーナも壊れないけど映画はもっと壊れて良かったかな)

2016-02-23 20:34:24 | 映評 2013~
[68点]
産経新聞が反日映画だから上映してはいけないと愛国的な素晴らしいことを言っていたおかげで俄然見たくてたまらなくなったアンジェリーナ・ジョリー監督の「アンブロークン」鑑賞。

力強い映画だった。コーエン兄弟が脚本に加わっているのだけど、折れない曲げないブレないという点で彼らが脚本書いた「ブリッジ・オブ・スパイ」との共通点がある。
とはいえ若干映画として構成面に疑問。
許しがテーマだとすると、劇映画部分としてのラストがあそこで良かったのか?あれではただの捕虜生活体験イベントムービーで終わってしまわないか?
許しの伏線になる憎しみの蓄積だけで終わってしまっていないか?
戦後をいかに生きて許しにたどり着くのか、がこの映画の本当の肝ではないか?
俺なら老人のルイが聖火ランナーとして長野に向かうところから物語を始めるな

「演出力」って漠然とした言い方だけど、監督アンジェリーナ・ジョリーにはまだ「演出力」が足りないのかもしれない。
ベルリンオリンピックのシーン、バーゲンクロイツが小さ!地味!
同じコーエン兄弟脚本の「ブリッジ・オブ・スパイ」でのスピルバーグのソビエトシーンの画面を圧する赤い旗の迫力と比べて、あれはどうだろう。
不時着シーンのあとで新たな任務を命じられた主人公に機長が「また同じメンバーで飛ぶ」と言い「飛行機も同じかい?」と聞き返す。次のカットで飛んでいる飛行機が映るのだけど、おそらく前と同じポンコツ飛行機で飛んでるんだよと言いたいのだろうけど、これといった特徴がないので、前と同じ飛行機なのか、別の飛行機なのかわからない。前のシーンで印象的なエンブレムでも写しておけば分かりやすいのに。
渡辺曹長も正直に言ってもう少し深みのある演技のできる人に演じて欲しかった。あれじゃただのすぐキレる若造じゃないか。
そうしたことを伏線に、許しという回収に向かうような脚本上の工夫も乏しい。
いかに映像で語るかが監督の役目だと思うけど、その点アンジェリーナはちょっと弱い気がした。
とはいえ、話の前半部分、太平洋を40日以上漂流する場面のサバイバルはかなり見せる。飢え、サメ、嵐、敵機の攻撃。まさに極限状態。
あるいはこの映画のテーマは許すことではなく、生きることを諦めるなっていうところなのかもしれない。そう考えて許しをむしろとってつけたものと考えれば、アンジェリーナがなぜこのホンに惹かれたのかがわかる気がする。

あれなら産経が騒いでいた原作にあると言われている人肉食シーンを描いた方がアンジェリーナの持ち味を活かした渾身のシーンになったのではなかろうか。とにかく生きる耐えるというテーマであればむしろ欲しかったくらいだ。

そんなこんなで色々映画としての不満はあるけれど、人はいかに生きるか、自分は何者なのかという映画の根源的なテーマに挑もうとした意気はものすごく買う!

アレクサンドル・デスプラの素晴らしい音楽と、ロジャー・ディーキンスの素晴らしいカメラ(アカデミー賞ノミネート)も含めて見るべき価値のある映画だ。
アンジェリーナ・ジョリーは本気だ。

不屈の男 アンブロークン
監督 アンジェリーナ・ジョリー
脚本 ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン、リチャード・ラグラベネーズ、ウィリアム・ニコルソン
撮影 ロジャー・ディーキンス
音楽 アレクサンドル・デスプラ
出演 ジャック・オコネル、MIYAVI

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