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映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

レインボーマリッジフィルムフェスティバル2022

2022-05-11 01:08:00 | 映評 2013~
5/7なかのZEROにて婚姻の平等をテーマにした映画祭、レインボーマリッジフィルムフェスティバルに行ってきた
90年代以降の海外の同性婚をテーマにした作品数本と、そして婚姻の平等をテーマに公募した短編作品のコンペを行う。
コンペでは全国から20程度の作品が集まり、入選5作品を上映。入選作は全てとても面白く、考えさせられたり、単純に感動したりと、とても充実したプログラムだった
以下に、短編コンペ入選5作の私の感想を書きます



『夫=夫』(山後勝英)
結婚したゲイのカップルの、新婚のころの回想と、年老いてからの別れを描く、シンプルなストーリー
一見すると特別強いメッセージ性はないように見えるが、実は強い社会性を持つ。彼らはごく平凡にうれしがったり悲しんだりするごくごく平凡な人たちで、その平凡さを特別なものと見てしまう私たちの考え方が問われる

監督はトークセッションにおいて、普段は自民党前でデモしたりもするけど映画を作る際は政治性をあえて出さないのだと言っておられた。映画では「北風と太陽」における太陽になりたいんだと、僕たちは怖くないんだよと
なるほどそう聞くと、この一作だけでどうこう言える作家ではなく、フィルモグラフィー全体を俯瞰して考えなくてはならないのかもしれない

『手のひらのパズル』(黒川鮎美)
ゲスト審査員の方が、入選作中唯一ストレートの主人公が自身のセクシャリティに気づく過程が描かれている…と評されていて、そこでハッとする。その過程を体験させようとして作ったと思うとかなりチャレンジングだし、そういえば商業作品でもその過程を描いたものは少なくないか。
金沢で撮られたとのこと、雪の降りしきる夜の映像は美しい
主人公の彼氏の心情変化の描きが弱いこと、演技全般がやや大げさなとこが少し残念。音楽はもっと抑えめの方が良かったと思う

『さまよう朝』(喜安浩平)
非常に斬新な構成で、技巧面ではとびぬけていたように思う。
ただ斬新さだけでどや顔する映画ではなく「普通とは何か」というテーマと直結していて深い。
そして映画を観終えて思うのは、普通じゃない光景は一つもなかった。すべて彼/彼女らにとってごく普通なことで、普通以外のなんでもないことだと。「夫=夫」の監督と同じように、怖がることも面白がることも消費に利用することもない。みんな普通なんだと…そう思った
ネタバレになりますが、ほぼ完全に同じシナリオ、同じカット割りで演者を入れ替えるという面白さ。このシリーズで海外にルーツを持つ人とか、第一言語が手話の人とかもありかと思ったり

『Veils』(なかやまえりか)
タイトルはsを発音せずベイルと呼んでほしいと監督の弁
黙っていないできちんと伝えていこう、そうじゃないといつまでたっても変わらない…というシンプルだが力強いメッセージの映画。
レズビアンのカップルが結婚写真を撮ろうとして「LGBTQ対応可」とされているフォトスタジオに問い合わせるが、シングルマリッジ二人分として対応させていただきますとの返答。おそらく店側としては料金体系的な意味で言ったのかもしれないが言われた二人には自分たちの関係は認められていないのだと傷つく。
抗議しようという主人公に対してその彼女はめんどくさい人たちと思われたくないからやめてという。でも主人公は勇気をもって一歩を踏み出し、それは恋人の背中も押し、お店側も間違いに気づいて、こうやって社会は変わっていくんだと素直に元気をもらえる

『私たちの家族』(雨夜)
監督の雨夜さんはインド籍のアメヤさんというまだ24才の女性。作品は学生のころの2019年撮影ってことは当時はまだ21か。監督による予算は2~3万とのことで、入選作中でも多分全応募作中でも一番お金がかかっていない先品と思われる。しかしながら本作は個人的には最強だと思った。審査員のみなさんも最も社会的なパワーがある作品として本作をグランプリに選出した。個人的には今年のベストに入るかもと言うくらいのおそるべきドキュメンタリー映画
なんといいますか婚姻の平等ってなんだろうっていうテーマの映画祭で、それぞれがそのテーマについて考えて意見をもって作っていてもちろんそれは素晴らしいことだが、本作は現実に現在進行中のいわば「事件」を、そして後々婚姻の平等のための社会運動において重要な転機となるかもしれないケースにカメラを向けている
アメリカ人のエリンと日本人のみどりは結婚し、子供も3人産み上の子はもう高校生くらい。ある日エリンが自身の性の違和感を告白しアメリカで性別変更をする。ところが日本で結婚書類の変更を進めようとすると日本の役所は大慌て。エリンの性別変更を認めたら同性婚を認めることになってしまう。だからと言って既に結婚している二人の婚姻状態を国が勝手に解消するわけにもいかない。
エリンの申請をどう処理するかで日本の同性婚の歴史が動くかもしれないのだ
そうした社会性もさることながら、エリンさんとみどりさんの結婚観、二人の愛の捉え方などもとてもユニーク、子供たちもとっても可愛らしくて、色んなことがぎっしり詰まった25分。
雨夜さんがGoogle翻訳でつけたという日本語字幕はあちこち誤字脱字だらけなんだけど、そんなことどうでもよくなってくるくらいの映画の力。むしろ変な字幕も微笑ましくて映画の魅力にすらなっている。





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