読書の記録

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地球データマップ

2008年03月18日 | 環境・公益
地球データマップ   世界の“今”から“未来”を考える----NHK「地球データマップ」制作班

 本書の精神は「全てが連鎖して循環している」ということ。たとえば「僕たちが携帯電話を買い換えると、コンゴで内戦が起こる」。また、全地球規模にまで連鎖拡大した理由を、グローバル経済とモノカルチャー(交換符牒としての貨幣)に求めている。
 本書は学生むけの本で、偽善的な匂いとか左めいた教条主義の気配を感じることもあるけれど、自分の目の前の行為と自分とは遠く離れたとある場所での現象の因果関係を考えるという思考レッスンはもっとあっていいとは思う。というのは、自分が何かをすることによって(あるいは何かをしないことによって)、どこかの誰かにある影響を及ぼしている、という概念は、相当高度な思考力を必要とする一方で、この想像力が効かないと、どんどん独善的で身勝手になっていくからだ。しかも想像力の範囲が狭いから、本人はそれが独善とか身勝手とかに気付かず、正当な権利であり、賢い行動と自分で思ってしまいがちだ。

 先だって「本当の賢い主婦は牛乳を手前から取る」というテーゼを見て素直に感心したのだけれど、主婦が集まる掲示板では非難轟々なのだった。「自分の経営努力を棚に上げて、消費者を悪者にする狡賢い言い訳」といったところらしい。
 家計を切り詰め切り詰めやっていく立場から言えば、そんなキレイ事ばかり言ってられるか、ということで同情の余地も共感も多いにある上で、あえて言うのだけれど、よくよく考えると、やっぱり「後ろから牛乳をとる」という行動原則そのものに、暗黙のルールの隙間をついたような自分さえよければ的な「ズルさ」があるようにも思うのである。

 日本の食糧廃棄率は4割あるといわれている。一方で世界で8億人が飢えている。で、誰もが「捨てられる食材」と「飢えている子供たち」を結び付けたい、と思う。精神論としては思う。が、これを結びつける実践術がない。
 家庭の食材廃棄もあるのだけれど、大きいのは流通や外食産業からの廃棄だ。なぜ、捨てられるまで食材を仕入れてしまうのかというと、欠品が怖いからである。欠品はその店の信用力にかかる。あるのかないのかわからないような不安定な店にお客は来ない。だから、棚管理に厳格なコンビニなんかでは、仕入れ元のメーカーや商社に、欠品になることにペナルティを課すところがある。だから、メーカーや流通はペナルティを課されるよりは、余って捨てられてもいいから大量に商品を送り込む。かくして牛乳は大量に送り込まれ、「賢い主婦」は後ろから牛乳をとっていく。もちろん、捨てられる分の食料だってどこかの牛から絞られたものであり、その牛は誰かが世話をしており、そして水や飼料や土壌を費やされたものである。
 また、そういう購買行動が標準になると、けっきょくその買われた牛乳の価格には「捨てられる分」というのも折り込み済みになっていくのである。そうなってくると、我々は牛乳の何にお金を払っているのか、牛乳の「価格」とはいったい何に根拠づいているものなのか、というところに行き着く。

 「利他的な行為を利他的な人に対して行うことで自分に返ってくる利のリターンは、はじめから利己的な行動をしてきた人のそれよりも多い」というのはゲーム理論上は実証されているが、本能的にこれを感じ取れる人はやっぱり多くない。意外にも日本人は特にこの嗅覚がない、とも言われているそうな。たぶんそれは「利」に対するねじれた美学が原因だと思う。
 NPO法人として地域雑誌を刊行している森まゆみの本で、日本人のNPO活動に対する理解を示す一節に「NPOであるからには『利』があってはいけない、という日本人特有の美学が理解の壁になっている(つまり社会貢献事業であるからには、NPO会員の最低限の生活を保障し、活動を継続できる程度の「儲け」の追及も、拝金主義に見えるということだそうだ)」ということが記してあってなるほどと思ったものだ。

 だいぶ本書から話が遠くなってしまった。が、グローバル・マネー経済というものが本来「生きていくためのひとつの手段」だったのに「生きる目的」にすりかわってしまっていること事態には覚醒しておきたい。
 そして本書でも紹介されていたマハトマ・ガンジーの言葉を深くかみ締めたい。

 「あなたがすることのほとんどは無意味であるが、それでもしなくてはならない。そうしたことをするのは、世界を変えるためではなく、世界によって自分がかえられないようにするためである。」

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