読書の記録

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いま世界の哲学者が考えていること

2016年12月01日 | 哲学・宗教・思想
いま世界の哲学者が考えていること
 
岡本裕一朗
ダイヤモンド社
 
 「ポスト西洋社会はどこに向かうのか」と「<インターネット>の次に来るもの」をあわせて読むと、これからの世の中がどうなっていくのかの予言書みたいになる。さらにそこに人類史的意味みたいな哲学見地を与えてくれるのが本書だ。この3冊を読めばもう世の中どうなろうと怖くないかもしれない。
 
 本書でも指摘しているし、前2冊もふくめて考えるに、今後の世の中の方向性を決定づける進化ないし迷走のベクトルは以下である。
 
 ①ITの進展。特にAIとIoT。
 ②バイオテクノロジーの進展。再生治療とゲノム解析。
 ③西側諸国(おもにWASPとその影響を受けた国々)の黄昏と、非西洋国の台頭。多極化時代の到来。
 
 ほかにもいろいろあるかもしれないが、この3つが、これまで人類社会で普遍とされたものに改めてゼロベースからのちゃぶ台返しを投げかけることになりそうだ(もう投げかけられている)。
 
 たとえば①のAI、②の遺伝子操作、③の新たな宗教倫理から、「人間の尊厳とはなにか」という問いが改めて惹起される。
 あまりにも当たり前のことだが、近代以降われわれは「人間」というものを重視してきた。大抵のものよりは「人間」の命や健康や欲求を大事にする。多くの争いは人間同士の欲求の争いやトレードオフであり、人間よりモノ(誰も欲しないモノ)のほうを大事にするという選択はそんなにはないはずである。
 そして、われわれは「人間」と「人間でないもの」の境目はどこらへんで、よって「人間」として尊重すべきところはどんなところで、また「人間」としてやってはいけないことはどんなことか、というのも、明確な線引きはできないし、時と場所でそのハバは大いにあるとはいえ、いちおうなんとなくここらへんという暗黙知がある。
 ところが、それが前述の①②③よりゆらぐようになった。
 「人は何歳まで生きるべきか」「生きているとはどういう状態か」「人を生かすために犠牲にしてよいものはどこまでか」などという、人類史上ありえない問いが生じるようになってきている。

 また、国家としての自由民主主義というものへの疑いがここにきて台頭してきている。
 それはかつてのマルクス史観のような疑いとはまた違う。中国やロシアやその他の非西洋の台頭する国の多くが、これまでの欧米のような自由民主主義国ではないにも関わらず、経済的成功を得ようとしている。
 それだけではない。自由民主主義を究極まで突き進めると、そこは究極のアナーキー社会が待っている。そのとき国家は解体される。そしてなんと。実はブロックチェーンというITが、の可能性を秘めていたりする。
 あまりにも飛躍するイノベーションを自制するのは、人間の道徳観、倫理観であるが、先にいったように中国やインド、またナイジェリアといったこれから大国になるとされている国々の道徳観、倫理観は、必ずしも欧米やわが日本のものと同一ではない。もちろんどちらが良い悪いという話ではない。
 
 
 かくして、AI到来の世界を歓待する向き、悲観する向き。あるいはバイオテクノロジーの実用化を期待する向き、抑制させようとする向き、ハイパーグローバリズムを理想とする向き、各国家が内省化への道をたどることを予想する向き、などそれぞれがそれぞれの理屈と信念で主張するようになる。それぞれがそれなりに正しい。
 
 こうなってくると、国際国家の一員として、あるいは社会の一員として、またあるいは個人の選択として、何が正しいのか、何が真実なのか、というものは、もはやむなしい問いのようになってくる。唯一無二の「正解」なんてのはなく、とりあえず当事者同士で握れる「納得解」が多様にあちこちで泳いでいるような世の中になる。当事者同士というのは家族かもしれないし、ムラや企業などの単位かもしれないし、ある共通の趣味の仲間かもしれないし、宗教的つながりかもしれない。これらの利害関係が一致する当事者同士=コミュニティの中で握れる「納得解」が、むしろコミュニティを維持する核の部分になる。いわば「見解のコミュニティ」といってよいかもしれない。
 そんな「見解のコミュニティ」が多様に存在する社会において、大事なことは「自分はどう思うか」という信念かもしれない(自分はどの「コミュニティ」に属するかという覚悟とでも言おうか)。
 いま、そしてこれから世の中はどんな風になっていくのか。どんなシナリオがありそうなのかを知り、自分にとってはどうありたいかを見据えておくことが、これからの不案内な世の中で、翻弄されない自分をつくるに違いない。
 

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