ぱらのま
作:kashmir
白泉社
中毒性のあるマンガだ。
僕は10代を宮脇俊三氏の著作で育ったようなところがあって、要するに今でいう鉄オタだった。とはいえ宮脇俊三氏の鉄道紀行記は文学といってよいほどで、教養と抑制が効いたものであり、僕の鉄道好きは、この宮脇観から逸脱するものではなかった。ゆえに車両についての知識はまったくなく、収集癖があるわけでもなく、撮影欲もなかった。時刻表や地図を開いて旅情を催し、ふらふらと鉄道に乗ってどこか日常とかけ離れたところにいく、というスタイルをとにかく好んだ。必ずしも遠方でなく、また、必ずしも観光地でなくてよい。
今でもこの嗜好は残っていて、たとえ東京近郊でも、各駅停車しか止まらないような駅で降りて商店街をひやかせば十分におもしろい。銭湯などあったら最高だ。(だからブラタモリとか孤独のグルメも好きである)
そんなところにこの「ぱらのま」である。
このテンションの低さといい成り行き任せ感といい最高。鉄道に乗るけど、船もバスも徒歩もけっこう出てくるし、駅前散歩っぽいものや、コンビナート工場の光景に魅せられるところや、江戸時代の関東平野の水運ゆかりの地を訪ねるなどという渋すぎるものまで出てきて、インサイトえぐられまくりである。ついでにやたらビール缶をあけるところもいい。
それにしてもこの主人公の女性(残念系と紹介されている)、ありあまる資金と時間だ。いったいどうなっているのだろう。