東京大学総合研究博物館 宇宙ミュージアムTeNQ 03-3814-0109
現代は惑星科学の革命期にある。人類は既に60個以上の天体に120機以上の探査機を送り込み、膨大な探査データの獲得に成功した。特に近年の探査の進展は目覚ましく、新たな探査機が次々と打ちあがるさまは、かつての大航海時代を彷彿とさせるほどだ。当時、船舶の改良や新航路を発見することで、一気に諸外国から様々な交易品を得たように、より高度な探査装置を積んだ宇宙機を駆使した人類は、太陽系に関する知見を次々と獲得しているのだ。
新大陸に飛び出し自然の多様性を認識できたことは、博物学の発展においてきわめて重要な要素であった。これと同様に、探査が明らかにした太陽系内天体の百般の姿は、博物学の新たな幕開けを予感させる。探査データの丹念な解析により天体ごとの特徴をつぶさに記載することができるのだから、これらを分類し比較することは、地球を含めた太陽系天体の姿を知るための重大なステップとなるだろう。私たちはこうした研究が、「太陽系博物学」と呼ぶあたらしい学問体系の構築につながると考えている。
この「太陽系博物学」に関する研究を行うために、東京大学総合研究博物館は新たに太陽系博物学寄付研究部門を設置した。ここでは5人の専属スタッフが、探査機の取得したデータ解析や、将来の探査計画に関連した機器の開発などを大学院生らと共に行っている。「太陽系博物学」を推進するには、こうした基礎研究を行うだけでなく、より広い視野を持って探査を戦略的に進めていく必要がある。コストの高い宇宙探査を推進するには、サイエンスの意義のみならず、広く一般市民から支持されるものでなければならないからだ。
このように考えると、より多くの人々に本物のサイエンスを提示し、宇宙探査の意義を問うことが、太陽系博物学を進める上で本質的に重要となるだろう。だがこれを、大学の中だけで実施することは困難である。というのも、学内において多くの人々に直接アプローチすることは難しいし、次々と惑星科学の常識が塗り替えられるような状況は、文章や常設的な展示などで情報を発信するのに不向きだからだ。