三酔人の独り言

ルポライター・星徹のブログです。歴史認識と国内政治に関わる問題を中心に。他のテーマについても。

日本の中東外交 「いやな感じ」と不合理

2024-03-31 14:03:01 | 外交・安全保障
 上川陽子外相は2024.3.28、来日中の国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のラザリーニ事務局長と会談し、今年1月から停止していた「UNRWAへの拠出金停止」を解除する方針を固めたという。
「朝日新聞」2024.3.29(朝刊・14版)「UNRWA向け資金拠出再開へ 上川外相「信頼取り戻すよう」」参照

 テレビニュースで放送されたこの会談の様子を観て、私は何か「いやな感じ」を抱いた。いじめやパワハラの現場に居合わせたような、そんな「いやな感じ」だ。

 ラザリーニ事務局長が「自動車部品の生産を請け負う零細企業の社長」で、上川外相が「零細企業を生かすも殺すも自由な大企業の担当部長」といったイメージだ。上川外相は「生殺与奪権はこっちにある」という居丈高な様相で会談に臨み、ラザリーニ事務局長は終始丁重に頭を下げた。私には、そのように見えた。

 こうした私の「いやな感じ」には、当然、主観も含まれている。だから、他の視聴者がどう感じたかは分からない。

 感情面は別にして、事実面からの考察については後に述べる。

 以下、以前のブログ文章と重複する面もあるが、この問題の流れをなるべく簡潔に記す。

 昨年10月7日、パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスなど武装勢力がイスラエルに奇襲攻撃を仕掛け、軍人を含む約1200人〔*イスラエル軍の攻撃による被害者を含む〕を殺害し、200人以上を人質に取った。

*ただし、歴史的経緯を無視してはいけない。イスラエルによる国際法無視の抑圧・弾圧政策によって、ガザ地区は「天井のない監獄」と化し、怒りと絶望の「圧力釜」の圧は限界値を大幅に超えていた。そして、爆発した。私はそう解釈する。

 その後、圧倒的軍事力を有するイスラエル軍は「ハマスを殲滅する」「人質を奪還する」とのタテマエの下、ガザ地区(*人口約230万人)に対し民間人を巻き込んで〔*無差別に近い形で〕軍事攻撃を続けている。その結果、昨年10/7以降に32,705人が殺害された(*2024.3.30、ガザ地区保健当局発表/遺体が確認されたケースのみ)。その約7割が「女性か子ども」だという。

 こうした暴虐に対し、南アフリカ共和国は昨年12/29、「イスラエルによる一連の行為はジェノサイド(集団殺害)に当たる」などとして国際司法裁判所(ICJ)にイスラエルを提訴した。 

 ICJは暫定措置として今年1/26、イスラエルに対し「ガザ地区に於いてジェノサイドを防ぐための全ての措置を講じること」「ガザ地区のパレスチナ人が直面する不利な生活状況に対処するため、緊急に必要とされる基本サービスと人道支援の提供を可能にする即時かつ効果的な措置を講じること」などを命じた。

 だが、イスラエルはこのICJ命令の直後、「昨年10/7のイスラエル襲撃にUNRWAの職員も加わっていた」旨の情報を米政府などにリークした〔*被せてきた〕。

 米国は即座にUNRWAへの新規拠出金の停止を発表した。英国・ドイツ・フランス・イタリア・カナダ・オーストラリア・オランダ・オーストリアなど十数か国(*EUも)と日本がこれに追随した。

 UNRWAは直ちに「調査を始める」と発表。関与が疑われた12人の職員を解雇すると共に、本格的な調査に乗り出した。

当ブログ2024.1.29「UNRWAへの資金拠出停止の悪意」
同2024.1.30「国際司法裁判所の「対イスラエル」命令に反する日本など」


 こうした状況下で、イスラエルはICJの1/26暫定措置命令を無視し、ガザ地区でジェノサイド(集団殺害)を続け、人々の生存に不可欠な物資・サービスの供給を故意に遮断・制限する集団懲罰も推し進めている。そのため、ガザ地区住民の多く〔*特に乳幼児〕が餓死寸前の危機的状況にある。

*ICJは3/28、1/26の暫定措置命令が生かされていないとして、イスラエルに対し「食料や医薬品の供給など人道支援を遅延なく実施するよう講じろ」などとする追加の措置命令を出した。だが、イスラエルはこれも無視する様相だ。

 私はこれまで、こうしたイスラエルの行動を厳しく批判すると共に、UNRWAへの資金拠出停止を続ける諸国、特に日本政府を厳しく批判してきた。

 3月に入り、1月下旬以降に「資金拠出停止」に出た諸国が次々と「停止解除」に転換した。日本政府による今回の転換は、そうした諸国の動きを見てのことだろう。この「転換」に限っては、歓迎したい。

 それでも、日本政府による1月下旬の資金拠出停止は決定的に間違いだった、と私は思う。

 日本政府には〈米国をはじめとするG7「先進」諸国(他に英・仏・伊・独・カナダ)などと歩調を合わせたい〉〈安全保障面の今後を考えて、G7やイスラエルなどを重視したい〉との思惑が強くあった、と推測する。

 昨年10/7のハマス等によるイスラエル襲撃以降、上川外相をはじめとする日本政府の姿勢は「イスラエルに寄り添いつつ、多少の苦言を呈する」ものだった。ハマスなどによるイスラエル襲撃を「テロ」と厳しく非難する一方で、イスラエルによるガザ地区住民への「無差別に近い大量虐殺」に対する批判のトーンは極めて抑制的だ。

 日本は、国連の決議(*安保理を含む)では「停戦」に賛成するようになったが、基本線に於いては、今でも米国の「お友達」たるイスラエルを擁護する側にいるようだ。

 日本は、ICJによる1/26暫定措置命令に決定的に反する行動を採った。国際立憲主義に反し、人道主義に反する選択をした。そのことで、米国などG7諸国の「お友達」入りをした、という思いなのだろう。

 欧米諸国の中には、ホロコーストに関連してイスラエルへの「気配り」や「縛り」がある国〔*筆頭はドイツ〕もあるのだろう。だが、日本にはそうした「縛り」はなく、イスラエルに気兼ねする要因はほとんどないはずだ。だからこそ、これまで中東などのイスラム諸国とも、一定の良好関係を築くことができた。

 こうした経緯・国際政治から見て、日本の「イスラエル側に甘い」「パレスチナ側に厳しい」姿勢は今後のマイナス要因になる、と私は思う。日本がこうした姿勢を採り続ければ、中東諸国・イスラム諸国やグローバルサウスと言われる国々から、今後ますます信頼を損なうだろう。

 以上の理由から、日本が1月下旬に決定した「UNRWAへの資金拠出停止」は、「いやな感じ」という感情面からだけでなく、「事実の面」「国際政治の面」から見ても、「国際立憲主義に反する拙い行為だった」「日本の国(民)益を大きく損なう選択だった」と強く思うのだ。

 日本が本来進むべきは、「国際立憲主義〔*基本は国連や国際司法機関を重視〕に基づく世界秩序」構築に向けてリーダーシップを発揮することだ、と私は思う。
当ブログ2015.12.19「最上敏樹「国際立憲主義とは何か」から学ぶ」参照
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