![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/69/cef3c133af9676818dee13e4fd322707.jpg)
↑ 記者会見する「立憲デモクラシーの会」のメンバーら。左から、中野晃一さん・長谷部恭男さん・山口二郎さん・千葉眞さん。(2024年4月19日、衆院第2議員会館。撮影:星徹)
少し情報が古くなったが、以下。
岸田首相は2024.4.10前後に訪米してバイデン大統領と会談し、連邦議会で演説するなどした。そうした場で岸田首相は、自衛隊と米軍の「作戦と能力のシームレスな統合」を目指すなど、威勢のいい発言を繰り返した。そのためか、米国では大歓迎のもてなしを受けたようだ。
この件については、当ブログ2024.4.25「自衛隊と米軍 指揮統制「一元化」への道?」で既に述べた。
同じ件で、「立憲デモクラシーの会」は4/19に声明を出し、同日に東京都内で記者会見を開いた。
以下、掲載時期がだいぶ遅くなったが、社会民主党の機関紙「社会新報」に掲載された無署名記事を以下に転載する。私が取材・執筆に協力したもので、編集部の許可は得ている。
「社会新報」2024.5.16号
自衛隊と米軍の「一体化」批判
立憲デモクラシーの会が声明
岸田首相は4月10日にバイデン米大統領と会談し、自衛隊と米軍の今後の関係について、「作戦と能力のシームレスな(途切れのない)統合を可能とするため、二国間でそれぞれの指揮統制の枠組みを向上させる」などとする日米首脳共同声明を発表した。
日本政府がこの間、「日米同盟の一層の深化」のための施策を推し進めてきたことから、「自衛隊と米軍の指揮統制機能の一体化」への進行を懸念する声が国内で多く上がっている。
拒否できない状況へ
立憲デモクラシーの会は4月19日、この問題に関する声明を出し、東京都内で記者会見を行なった。
声明は、この「一体化」が進んだ場合、「単に憲法や国会が無視される」だけでなく、米国の判断で始められる戦争に自衛隊は「追認して出動するほかなくなり、主権国家としての安全保障政策上の主体的な判断の余地が全くなくなる可能性さえ予期される」と指摘した。
また、米国に「抱きつく」ことによって抑止を期待する姿勢に対し、「米国は米国の安全保障上の利益のために軍事的な判断を行」なうとして、「常に日本の安全保障のためになる保証はない」と批判した。
米の代理戦争の危険
記者会見で、上智大学教授(政治学)の中野晃一さんは、2014年の閣議決定で存立危機事態(メモ)の規定が新設されて集団的自衛権(メモ)の行使が一部容認されてたことを挙げ、次のように指摘した。
「米国は自衛隊と米軍の軍事的統合を進めることで、日本が『ノー』と言えない状況をつくり出す準備をしているのではないか。それで、日本の集団的自衛権行使を事実上行なってしまう。米軍が主導する形で、なし崩し的にそうした事が起きる可能性がある」
また、22年にロシアがウクライナに全面侵攻する前からバイデン大統領が「ロシアとは直接戦争しない」旨を言明したことを挙げ、米中関係についても「米国と中国が撃ち合うわけがなく、日本が代理戦争を戦わされるリスクが高まる。米国に抱きつけば安全になると考えるのは思い込みに過ぎない」と指摘した。
「米にまず説明」の逆転
早稲田大学教授(憲法学)の長谷部恭男さんは、日本政府の決定過程について、「安全保障政策の根幹に関わり、しかも憲法の存在を変革しかねない決定をするならば、岸田首相は訪米して話をする前に日本の国会で丁寧に説明すべきだった」と指摘した。
国際基督教大学名誉教授(政治思想・政治理論)の千葉眞さんも、「国会で議論すべきことを全く議論せず、閣議決定で重要事項を(次々と)決めている」として、今回の対応を含めて政府の対応を批判した。
法政大学教授(政治学・行政学)の山口二郎さんは、岸田首相の言う「自衛隊と米軍のシームレスな統合」について、「安保法制を具体化させるという意味で、憲法9条に対する決定的な破壊を意味する」と指摘した。
■メモ=存立危機事態
密接な関係にある他国が武力攻撃を受け、そのことで自国の存立が脅かされる明白な危険がある事態。
■メモ=集団的自衛権
武力攻撃を受けた他国の要請に応じ、自国が攻撃を受けていないにもかかわらず、共同して反撃に加わる権利。
《「社会新報」記事はここまで》
岸田内閣が2022年12月に「安保関連3文書」を閣議決定し、翌月に訪米してバイデン大統領に報告した際、当ブログ2023.1.27「立憲デモクラシーの会が斬る「安保関連3文書」」で私は以下のように述べた。
〈岸田内閣は、こうした重要政策である「3文書」を、国民的な議論も国会での審議もないままに、与党と内閣だけで決めてしまった。
こうした状況下で、岸田首相は今年1月に訪米し、米バイデン大統領に「3文書」改定を報告した。同月12日(日本時間)に開催された日米安全保障協議委員会(2プラス2)で「3文書」の中身が確認され、さらなる日米同盟の強化が約束された。
岸田首相ら訪米団は、米政府から大歓迎されたという。それもそのはずだ。米国にとっては、東アジアでの覇権が中国によって脅かされる中での、日本の「援軍志願」だからだ。
ここで重要なのは、「3文書」に係わる手続き・順序の問題だ。日本の国民と国会への説明を後回しにして、米政府への報告と約束を優先させた、ということ。この「形式の転倒」は、「危うい内容」を浮き彫りにしている。
つまり、この形式のあり方は、〈日本政府が「日本の国民と国会」より「米政府の意向」を優先している〉という内容を表出しているのだ。日本の政府や与党側は否定するだろうが、物事の深層を注意深く見る必要がある。〉
今回(2024年)の岸田首相の言動についても、同じことが言えるのではないか。
問題点の大枠については、上記記者会見で長谷部恭男さんと千葉眞さんが懸念を表明したとおりだ〔*転載記事参照〕。
つまり、日本周辺で「有事またはそれに準じる事態」に至ったと日本政府が判断した際、もしくはもっと前の段階で、この「形式の転倒・逆転」が再現されて、指揮統制機能の日米一元化〔*実質的に、米軍の指揮下に自衛隊が入る〕という「内容のゴマカシ」に至る蓋然性が極めて高い、と思うのだ。
たかが「順序の問題」ではない。「順序・形式のゴマカシ」は「内容のゴマカシ」と連続していることを、私たちは理解する必要がある。
少し情報が古くなったが、以下。
岸田首相は2024.4.10前後に訪米してバイデン大統領と会談し、連邦議会で演説するなどした。そうした場で岸田首相は、自衛隊と米軍の「作戦と能力のシームレスな統合」を目指すなど、威勢のいい発言を繰り返した。そのためか、米国では大歓迎のもてなしを受けたようだ。
この件については、当ブログ2024.4.25「自衛隊と米軍 指揮統制「一元化」への道?」で既に述べた。
同じ件で、「立憲デモクラシーの会」は4/19に声明を出し、同日に東京都内で記者会見を開いた。
以下、掲載時期がだいぶ遅くなったが、社会民主党の機関紙「社会新報」に掲載された無署名記事を以下に転載する。私が取材・執筆に協力したもので、編集部の許可は得ている。
「社会新報」2024.5.16号
自衛隊と米軍の「一体化」批判
立憲デモクラシーの会が声明
岸田首相は4月10日にバイデン米大統領と会談し、自衛隊と米軍の今後の関係について、「作戦と能力のシームレスな(途切れのない)統合を可能とするため、二国間でそれぞれの指揮統制の枠組みを向上させる」などとする日米首脳共同声明を発表した。
日本政府がこの間、「日米同盟の一層の深化」のための施策を推し進めてきたことから、「自衛隊と米軍の指揮統制機能の一体化」への進行を懸念する声が国内で多く上がっている。
拒否できない状況へ
立憲デモクラシーの会は4月19日、この問題に関する声明を出し、東京都内で記者会見を行なった。
声明は、この「一体化」が進んだ場合、「単に憲法や国会が無視される」だけでなく、米国の判断で始められる戦争に自衛隊は「追認して出動するほかなくなり、主権国家としての安全保障政策上の主体的な判断の余地が全くなくなる可能性さえ予期される」と指摘した。
また、米国に「抱きつく」ことによって抑止を期待する姿勢に対し、「米国は米国の安全保障上の利益のために軍事的な判断を行」なうとして、「常に日本の安全保障のためになる保証はない」と批判した。
米の代理戦争の危険
記者会見で、上智大学教授(政治学)の中野晃一さんは、2014年の閣議決定で存立危機事態(メモ)の規定が新設されて集団的自衛権(メモ)の行使が一部容認されてたことを挙げ、次のように指摘した。
「米国は自衛隊と米軍の軍事的統合を進めることで、日本が『ノー』と言えない状況をつくり出す準備をしているのではないか。それで、日本の集団的自衛権行使を事実上行なってしまう。米軍が主導する形で、なし崩し的にそうした事が起きる可能性がある」
また、22年にロシアがウクライナに全面侵攻する前からバイデン大統領が「ロシアとは直接戦争しない」旨を言明したことを挙げ、米中関係についても「米国と中国が撃ち合うわけがなく、日本が代理戦争を戦わされるリスクが高まる。米国に抱きつけば安全になると考えるのは思い込みに過ぎない」と指摘した。
「米にまず説明」の逆転
早稲田大学教授(憲法学)の長谷部恭男さんは、日本政府の決定過程について、「安全保障政策の根幹に関わり、しかも憲法の存在を変革しかねない決定をするならば、岸田首相は訪米して話をする前に日本の国会で丁寧に説明すべきだった」と指摘した。
国際基督教大学名誉教授(政治思想・政治理論)の千葉眞さんも、「国会で議論すべきことを全く議論せず、閣議決定で重要事項を(次々と)決めている」として、今回の対応を含めて政府の対応を批判した。
法政大学教授(政治学・行政学)の山口二郎さんは、岸田首相の言う「自衛隊と米軍のシームレスな統合」について、「安保法制を具体化させるという意味で、憲法9条に対する決定的な破壊を意味する」と指摘した。
■メモ=存立危機事態
密接な関係にある他国が武力攻撃を受け、そのことで自国の存立が脅かされる明白な危険がある事態。
■メモ=集団的自衛権
武力攻撃を受けた他国の要請に応じ、自国が攻撃を受けていないにもかかわらず、共同して反撃に加わる権利。
《「社会新報」記事はここまで》
岸田内閣が2022年12月に「安保関連3文書」を閣議決定し、翌月に訪米してバイデン大統領に報告した際、当ブログ2023.1.27「立憲デモクラシーの会が斬る「安保関連3文書」」で私は以下のように述べた。
〈岸田内閣は、こうした重要政策である「3文書」を、国民的な議論も国会での審議もないままに、与党と内閣だけで決めてしまった。
こうした状況下で、岸田首相は今年1月に訪米し、米バイデン大統領に「3文書」改定を報告した。同月12日(日本時間)に開催された日米安全保障協議委員会(2プラス2)で「3文書」の中身が確認され、さらなる日米同盟の強化が約束された。
岸田首相ら訪米団は、米政府から大歓迎されたという。それもそのはずだ。米国にとっては、東アジアでの覇権が中国によって脅かされる中での、日本の「援軍志願」だからだ。
ここで重要なのは、「3文書」に係わる手続き・順序の問題だ。日本の国民と国会への説明を後回しにして、米政府への報告と約束を優先させた、ということ。この「形式の転倒」は、「危うい内容」を浮き彫りにしている。
つまり、この形式のあり方は、〈日本政府が「日本の国民と国会」より「米政府の意向」を優先している〉という内容を表出しているのだ。日本の政府や与党側は否定するだろうが、物事の深層を注意深く見る必要がある。〉
今回(2024年)の岸田首相の言動についても、同じことが言えるのではないか。
問題点の大枠については、上記記者会見で長谷部恭男さんと千葉眞さんが懸念を表明したとおりだ〔*転載記事参照〕。
つまり、日本周辺で「有事またはそれに準じる事態」に至ったと日本政府が判断した際、もしくはもっと前の段階で、この「形式の転倒・逆転」が再現されて、指揮統制機能の日米一元化〔*実質的に、米軍の指揮下に自衛隊が入る〕という「内容のゴマカシ」に至る蓋然性が極めて高い、と思うのだ。
たかが「順序の問題」ではない。「順序・形式のゴマカシ」は「内容のゴマカシ」と連続していることを、私たちは理解する必要がある。