日本とフィリピン(比)の両政府は2024.7.8、自衛隊とフィリピン軍が共同訓練などで相互に訪問しやすくする「円滑化協定(RAA)」に署名した。
東シナ海と南シナ海で強引な海洋進出を進める中国に対抗するため、日本は米国だけでなく、フィリピンとも安全保障面での連携を強めている。日本はこれまで米国と同盟関係を結んできたが、フィリピンとも安全保障面で「準同盟」級へと格上げを図る。
日本とフィリピンは同日、RAAを基盤に部隊間の交流・協力を進めつつ、米国やオーストラリアを交えた重層的な協力関係の構築を確認した。
日本は尖閣諸島のある東シナ海で、フィリピンは南シナ海で、中国側の攻勢にさらされている。そのため日本は、これまでオブザーバーとして参加してきた米比共同(軍事)訓練に本格参加することを視野に入れているという。
*以上、「朝日新聞」2024.7.9朝刊14版「日比、準同盟へ深化──対中国 訓練円滑化協定に署名」(マニラ=里見稔、大部俊哉)と同「南シナ海 中比対立さなか──日本 巻き込まれるリスク」(マニラ=里見稔)を参照して要約した。
この問題に関連して、同紙2024.7.10朝刊14版の柳沢協二・元内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)のコメント記事「日米比連携 抑止力にならず──意見違っても 中国と対話を」(構成・里見稔)も掲載された。
柳沢さんは防衛官僚を経て、小泉・第1次安倍・福田・麻生政権で内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)を務めた。
私もかつて、柳沢(柳澤)さんのインタビュー記事を書いたことがある。当ブログ2014.2.4「柳澤協二さんインタビュー「集団的自衛権の行使容認は不要」」を参照されたい。
「朝日」2024.7.10の柳沢さんコメント記事の重要部分を要約すると、以下〔*「 」内は引用〕。
中国による乱暴な行為を日米が軍事的コミットメントでやめさせようとすれば、「いずれは中比の武力紛争に巻き込まれるだろう。海上自衛隊の主な役割は日本周辺の警戒と防衛であり、フィリピンへの関与は能力を超えている。身の丈を超えた約束をしてはいけない。」
冷戦時代は「核の抑止」によって国際社会はある意味で安定していたが、現在はより不安定になっている。そのため、「バランス外交で過渡期を生き残らなければならない。」
「岸田文雄首相は4月、米議会で『日本は米国とともにある』と演説した。米国側は『何かが起きた場合、日本は一緒に戦ってくれる』と期待しただろう。かつての発想で米国と一体化すると、米国の戦争に巻き込まれる懸念がある。」
だから日本には「政治的な自立が必要だ。」
「日本は中国とのパイプがほとんどない中で、米国主導の『中国包囲網』に加担してしまっている。中国との対話も重要だ。」
《「朝日新聞」の柳沢さんコメント記事の紹介、ここまで》
私は基本的に柳沢さんの意見に賛成する。突き詰めれば、賛成できない面もあるのかもしれないが。
結局、柳沢さんも指摘しているが、日本の外交・安全保障の基本思考が冷戦時代とさして変わらぬままで、バージョンアップされていないのだ。あまりにも保守的かつ非合理なのだ。車の運転で例えるなら、推奨される「かもしれない運転」〔*「子どもが飛び出すかもしれない」等〕ではなく、「だろう運転」〔*「子どもは飛び出さないだろう」等〕をいつまでも続けているようなものだ。
私は、現在の中国の政治体制を支持しないし、特に東(南)アジアでの強引な海洋進出に対して反発する気持ちも強くある。中国は、相手が弱いと見ると徹底的に力で押し込んでくる〔*米ロをはじめとする多くの軍事強国にはそうした傾向がある〕。それは分かっている。
だが、日本は「無敵の正義の味方」ではない。国際社会で「国際法に反する不正義」を批判し、正義を追求するのは当然だが、最優先事項は「日本の安全を守る」ことのはずだ。悔しいが、限界をわきまえて行動しなければならない時もある。
私はこれまで、当ブログで「日米軍事一体化」に突き進む危険性を訴え続けてきた。以下を参照されたい。
当ブログ2024.6.2「そろりと「米国離れ」を進め、日本の独自外交を」
同2024.5.1「日米軍事「一体化」とイスラエル擁護」
同2024.4.27「立憲民主主義を無視した日米安保一筋」
同2023.12.30「日本は米国と心中するのか?」
日本政府の考える「日米同盟の深化」〔≒米国への抱きつき〕のメリット(利点)は、他国が尖閣諸島を含む南西諸島〔*九州南端から台湾の手前までの日本領土〕など日本の領土・領海に軍事侵攻した際〔*又はその前段階で〕、日本防衛に米国が軍事的に協力してくれる(はず)、ということだろう。もちろん、米国による「核の威圧」も重要な要素になるだろう。
他方で、ディメリット(弱点)はどうか。以下①②。
①台湾有事やそれに類する米中間の武力衝突が発生し、在日米軍基地が使用され、さらに自衛隊も米軍と共同行動をとるならば、日本は軍事衝突の最前線になりかねない。さらに、南西諸島などの防衛リスクが無駄に高まる。結局、日本の運命は米国に握られる可能性が高まり、「巻き込まれる」危険性だけでなく、「見捨てられる」危険性も大いに出てくる。
②日本政府は南シナ海での「米国による対中国覇権争い」に加わり、日米比の軍事同盟的な方向に突き進もうとしているが、フィリピン軍が日本の領土・領海を守ってくれるわけではないのだから、日本にとっては軍事リスクが高まるだけではないか。
結局、上記の「メリット(になるはずのこと)」は、「米国は……してくれるはず」「そういう約束になっている」という希望的観測に基づいたものに過ぎない。あまりにもナイーブであり、リアリズムに欠けている、と言わざるを得ない。
もちろん、「全てを疑えばキリがない」のも事実であり、「ある程度の信頼関係の下で行動する」ことも必要だろう。だが、常に相手を疑い、裏切られる可能性を念頭に置き、何重にもリスクヘッジを執っておく必要がある、と思うのだ。
そう考えれば、現在の日本政府のあり方は、「リスクヘッジがゼロ」とまでは言わないが、その問題意識が少なすぎ、「米国抱きつきの一本足打法」に近い政策を遂行している、と言わざるを得ない。そう主張すると、「いや、オーストラリア・フランス・ドイツ・英国などとも連携している」と反論が聞こえてきそうだが、根本に「米国への抱きつき」があることこそが問題なのだ。
限られた日本の防衛費をどのように有効に使うのか。東シナ海の防衛は十分なので、余った人員や費用を南シナ海にも使うのか? そうではないだろう。私は基本的に、直接的な日本防衛のために防衛費を有効に使うべき、と考えている。
東シナ海と南シナ海で強引な海洋進出を進める中国に対抗するため、日本は米国だけでなく、フィリピンとも安全保障面での連携を強めている。日本はこれまで米国と同盟関係を結んできたが、フィリピンとも安全保障面で「準同盟」級へと格上げを図る。
日本とフィリピンは同日、RAAを基盤に部隊間の交流・協力を進めつつ、米国やオーストラリアを交えた重層的な協力関係の構築を確認した。
日本は尖閣諸島のある東シナ海で、フィリピンは南シナ海で、中国側の攻勢にさらされている。そのため日本は、これまでオブザーバーとして参加してきた米比共同(軍事)訓練に本格参加することを視野に入れているという。
*以上、「朝日新聞」2024.7.9朝刊14版「日比、準同盟へ深化──対中国 訓練円滑化協定に署名」(マニラ=里見稔、大部俊哉)と同「南シナ海 中比対立さなか──日本 巻き込まれるリスク」(マニラ=里見稔)を参照して要約した。
この問題に関連して、同紙2024.7.10朝刊14版の柳沢協二・元内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)のコメント記事「日米比連携 抑止力にならず──意見違っても 中国と対話を」(構成・里見稔)も掲載された。
柳沢さんは防衛官僚を経て、小泉・第1次安倍・福田・麻生政権で内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)を務めた。
私もかつて、柳沢(柳澤)さんのインタビュー記事を書いたことがある。当ブログ2014.2.4「柳澤協二さんインタビュー「集団的自衛権の行使容認は不要」」を参照されたい。
「朝日」2024.7.10の柳沢さんコメント記事の重要部分を要約すると、以下〔*「 」内は引用〕。
中国による乱暴な行為を日米が軍事的コミットメントでやめさせようとすれば、「いずれは中比の武力紛争に巻き込まれるだろう。海上自衛隊の主な役割は日本周辺の警戒と防衛であり、フィリピンへの関与は能力を超えている。身の丈を超えた約束をしてはいけない。」
冷戦時代は「核の抑止」によって国際社会はある意味で安定していたが、現在はより不安定になっている。そのため、「バランス外交で過渡期を生き残らなければならない。」
「岸田文雄首相は4月、米議会で『日本は米国とともにある』と演説した。米国側は『何かが起きた場合、日本は一緒に戦ってくれる』と期待しただろう。かつての発想で米国と一体化すると、米国の戦争に巻き込まれる懸念がある。」
だから日本には「政治的な自立が必要だ。」
「日本は中国とのパイプがほとんどない中で、米国主導の『中国包囲網』に加担してしまっている。中国との対話も重要だ。」
《「朝日新聞」の柳沢さんコメント記事の紹介、ここまで》
私は基本的に柳沢さんの意見に賛成する。突き詰めれば、賛成できない面もあるのかもしれないが。
結局、柳沢さんも指摘しているが、日本の外交・安全保障の基本思考が冷戦時代とさして変わらぬままで、バージョンアップされていないのだ。あまりにも保守的かつ非合理なのだ。車の運転で例えるなら、推奨される「かもしれない運転」〔*「子どもが飛び出すかもしれない」等〕ではなく、「だろう運転」〔*「子どもは飛び出さないだろう」等〕をいつまでも続けているようなものだ。
私は、現在の中国の政治体制を支持しないし、特に東(南)アジアでの強引な海洋進出に対して反発する気持ちも強くある。中国は、相手が弱いと見ると徹底的に力で押し込んでくる〔*米ロをはじめとする多くの軍事強国にはそうした傾向がある〕。それは分かっている。
だが、日本は「無敵の正義の味方」ではない。国際社会で「国際法に反する不正義」を批判し、正義を追求するのは当然だが、最優先事項は「日本の安全を守る」ことのはずだ。悔しいが、限界をわきまえて行動しなければならない時もある。
私はこれまで、当ブログで「日米軍事一体化」に突き進む危険性を訴え続けてきた。以下を参照されたい。
当ブログ2024.6.2「そろりと「米国離れ」を進め、日本の独自外交を」
同2024.5.1「日米軍事「一体化」とイスラエル擁護」
同2024.4.27「立憲民主主義を無視した日米安保一筋」
同2023.12.30「日本は米国と心中するのか?」
日本政府の考える「日米同盟の深化」〔≒米国への抱きつき〕のメリット(利点)は、他国が尖閣諸島を含む南西諸島〔*九州南端から台湾の手前までの日本領土〕など日本の領土・領海に軍事侵攻した際〔*又はその前段階で〕、日本防衛に米国が軍事的に協力してくれる(はず)、ということだろう。もちろん、米国による「核の威圧」も重要な要素になるだろう。
他方で、ディメリット(弱点)はどうか。以下①②。
①台湾有事やそれに類する米中間の武力衝突が発生し、在日米軍基地が使用され、さらに自衛隊も米軍と共同行動をとるならば、日本は軍事衝突の最前線になりかねない。さらに、南西諸島などの防衛リスクが無駄に高まる。結局、日本の運命は米国に握られる可能性が高まり、「巻き込まれる」危険性だけでなく、「見捨てられる」危険性も大いに出てくる。
②日本政府は南シナ海での「米国による対中国覇権争い」に加わり、日米比の軍事同盟的な方向に突き進もうとしているが、フィリピン軍が日本の領土・領海を守ってくれるわけではないのだから、日本にとっては軍事リスクが高まるだけではないか。
結局、上記の「メリット(になるはずのこと)」は、「米国は……してくれるはず」「そういう約束になっている」という希望的観測に基づいたものに過ぎない。あまりにもナイーブであり、リアリズムに欠けている、と言わざるを得ない。
もちろん、「全てを疑えばキリがない」のも事実であり、「ある程度の信頼関係の下で行動する」ことも必要だろう。だが、常に相手を疑い、裏切られる可能性を念頭に置き、何重にもリスクヘッジを執っておく必要がある、と思うのだ。
そう考えれば、現在の日本政府のあり方は、「リスクヘッジがゼロ」とまでは言わないが、その問題意識が少なすぎ、「米国抱きつきの一本足打法」に近い政策を遂行している、と言わざるを得ない。そう主張すると、「いや、オーストラリア・フランス・ドイツ・英国などとも連携している」と反論が聞こえてきそうだが、根本に「米国への抱きつき」があることこそが問題なのだ。
限られた日本の防衛費をどのように有効に使うのか。東シナ海の防衛は十分なので、余った人員や費用を南シナ海にも使うのか? そうではないだろう。私は基本的に、直接的な日本防衛のために防衛費を有効に使うべき、と考えている。