三酔人の独り言

ルポライター・星徹のブログです。歴史認識と国内政治に関わる問題を中心に。他のテーマについても。

原発推進GX関連法案の非合理性

2023-05-17 15:31:35 | 環境・原発問題
岸田文雄政権は今、2011年に起きた未曽有の福島第一原発事故を忘れたかのように、原発推進路線に大きく舵を切ろうとしている。

あまり大きく報道されないが、今国会で原発推進関連の「GX推進法案」と「GX脱炭素電源法案」が審議されている。下記の転載記事には反映されていないが、「GX推進法案」は2023.5.12に成立した。本丸の「GX脱炭素電源法案」は審議が続いている。

昨年(2022年)2月から、ウクライナはロシアによって第2次侵略戦争を仕掛けられ〔*「第1次」は2014年~〕、国内の原発が危険な状態に陥っている。

こうした事態を目の当たりにして、日本政府はなぜ「原発推進」に舵が切ろうとするのか? 「エネルギー安全保障のため」などと言うが、「原発の有事リスク」はどうなったのか? 「60年超の『古い原発』の稼働許可年数を延ばす」とするが、古い原発ほど「故障リスクが高い」「耐震性に問題がある」ケースが多いのでは? 岸田政権の推し進めるエネルギー政策は全く理解不能であり、かつ極めて非合理だ。

ドイツは日本よりはるかに賢い。福島原発事故後、ドイツは脱原発の方針を決め、今年4月15日についに脱原発が実現した〔*ただし、核廃棄物等の後始末はまだ残っている〕。天災リスクが日本より「はるかに小さい」にも拘わらずだ。

以下に、(日本の)社会民主党の機関紙「社会新報」に私が寄稿した署名評論記事を、同紙編集部の許可を得て転載する。

本音では、「エネルギー政策上は原発が必要」「脱原発派は左翼か『命が大事』などと叫ぶ無政府主義者」と考えるような「保守的な方々?」にこそ読んでほしい、と思っている。

「社会新報」2023.5.10号
「原発推進GX関連法案の非合理性」  
   ルポライター・星徹


 ──地震と有事のリスクを無視する岸田政権
 ──「規制システム」を骨抜きにする


東京電力福島第一原発の大事故から12年が経過した。事故後しばらくは、自公中心の政権ですら「原発積極推進」とは表立って打ち出さなかった。だが岸田文雄政権になり、フクシマを忘れたかのように原発回帰へ大きくかじを切った。

脱炭素のため原発?
今年2月10日に「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」(メモ)が閣議決定された。

【メモ=「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」】
 カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出をトータルでゼロにする)の目標を提示し、エネルギーの安定供給と脱炭素分野で新たな需要を創出するとして、再生可能エネルギーの推進や「脱炭素」社会実現の方向性を示している。
 「原子力の活用」も盛り込み、「次世代革新炉への建て替え」と共に既存原発の60年超運転を可能にする方針を示した。〔「メモ」終わり〕

同「基本方針」(概要)の「背景」には「ロシアによるウクライナ侵略が発生し、我が国のエネルギー安全保障上の課題を再認識」(A)したと記されている。
 
同日、この「基本方針」に基づいて「GX推進法案」が閣議決定された。
 
同法案には原子力に関する記載はなく、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行を推進」するための仕組みづくりなどが定められている。

「GX推進法案」は衆院ですでに可決され、参院での審議に入っている。
 
2月28日、同「基本方針」に基づいて「GX脱炭素電源法案」も閣議決定された。この法案の審議は3月30日に衆院で始まった。

「GX脱炭素電源法案」は、原子力基本法や原子炉等規制法の改正など5つの「束ね法案」だ。

この法案(概略)の冒頭では、「ロシアのウクライナ侵略に起因する国際エネルギー市場の混乱や国内における電力需給ひっ迫等への対応に加え、(略)電気の安定供給を確保するための制度整備が必要」(B)と記されている。
 
この法案の2本柱は、再生可能エネルギーの導入拡大支援と原子力の活用だ。

原子力に関しては、「安全を最優先とする」としつつ、推進する姿勢を明確にした。特に注目すべきは、原発の停止期間の一部を除外することで60年超の運転延長を可能とし、その所管を原発利用推進の経済産業省とした点だ。

電力需要のかさ上げ
先述のAとBや「GX脱炭素電源法案」の中身を概観すれば、政府が「エネルギー(電気)の安定供給(安全保障)のためにも原発推進が必要」との認識の下で政策を遂行しようとしているのが分かるはずだ。

だが政府や電力会社がこれまで行なってきたのは、「オール電化」等の促進による「電力需要の無理なかさ上げ」と「だから原発による電力供給が必要」というマッチポンプ式の言動ではないか。

原子力関連にかける資金を大幅に減らし、再生可能エネルギー等の研究開発や省エネ関連に充てれば、真に有効なエネルギー政策が実現できるのではないか。

確かに福島原発事故後、政府も電力会社も以前よりは安全対策に力を入れるようになった。だが今、政府は根本的な問題を積み残したまま、原発推進路線に回帰しようとしている。

利用と規制の一体化
原発推進の問題点は数多くあるが、以下に2つの根本的問題を提示する。

第一は、古い原発の運転延長問題だ。原発は古くなるほど不具合が生じやすくなる。家電製品や自動車などと同様だが、これらと違うのは、原発は事故が起これれば広範囲に甚大な被害をもたらす点だ。

だからこそ、2011年の福島原発事故後、原発の利用(経産省)と規制(原子力規制委員会)の分離を明確にする構造改革が行なわれた。一歩前進だ。

だが、今回の「GX脱炭素電源法案」では、先述したように、古い原発のさらなる運転延長を可能にするのみならず「利用と規制の一体化」に先祖返りさせようとしている。

低耐震原発の危険性
元福井地裁裁判長の樋口英明さんは今年3月15日、参院議員会館で「原発の危険性」に関する講演を行ない、「弱い地震を設計基準にしている原発は、どう考えても危険だ」「老朽原発には想定外のトラブルが続出するので、動かしてはいけない」と力説した(本紙3月29日号参照)。


 
樋口さんは2014年、裁判長として関西電力大飯原発3・4号機の運転差し止めを命じる判決を下した。

裁判で被告・関西電力は「同原発の当時の耐震設計基準(基準地震動)である700ガル(地震の加速度で、震度6弱相当)を超える地震が到来することはまず考えられない」旨を主張した。

だが、樋口裁判長は「現に全国で20ヵ所にも満たない原発のうち4つの原発に5回にわたり想定した地震動を超える地震が2005年以後10年足らずの間に到来している」などとして、被告の主張を退けた。

樋口さんの著書『私が原発を止めた理由』(旬報社、21年)によると、2000年ごろにそれまでの震度と最大加速度(ガル)の関係が誤っていたことが科学的に実証され、震度7で「400ガル程度以上」と理解されていたものが、実は「1500ガル程度以上」であることが判明したという。

それにもかかわらず、電力会社は「基準地震動を徐々に引き上げることによってその危険性に目をつぶろうとした」と樋口さんは告発する(表1・2参照)。

こうした事実を放置したまま、岸田政権は老朽原発の運転延長を推し進め、さらに規制システムを骨抜きにしようとしている。




有事リスクを無視
根本的問題の第二は、原発の有事リスクだ。

先述のAやBと「GX脱炭素電源法案」の中身を見れば分かるように、岸田政権は「ロシアによるウクライナ侵略」→「エネルギー安全保障上の課題」→「原発推進の必要性」という三段論法を採っている。しかも、自身の描いたストーリーにとって「不都合な真実」には目をつぶっている。

私たちはロシアによるウクライナ侵略を目の当たりにし、原発におけるテロリスクのみならず、戦争リスクも現実的脅威として認識したはずだ。

昨年来、ウクライナのザポリージャ原発(6基)はロシア軍によって攻撃・占拠されている。故意にしろ偶発にしろ、原発が電源や給水を喪失するか原子炉が破壊されれば、大事故に直結する。

福島原発事故を受け、日本でも原発の安全対策が強化されたが、悪意を持った人物や軍隊等に原発が占拠または攻撃されれば、多重防護も安全対策も意味をなさないだろう。

国際条約は原発への攻撃を禁じているが、そうしたルールが守られる保証はない。ウクライナでの現実に目を向けるべきだ。

原子力情報コンサルタントの佐藤暁さんは「原発は軍事攻撃に耐えられるような安全性を有していない」「福島原発事故後の安全対策は、戦争下においてはまったくの無力」と述べている(「東洋経済ONLINE」22年3月8日付、岡田広行氏の記事参照)。

日本には、海岸沿いに多くの原発が存在する。そうした中で岸田政権は今、原発推進政策に回帰しようとしている。

この原発推進政策と「安全保障関連3文書」に基づく「防衛」政策の関係性を、岸田政権はどう考えているのか。

筆者は、原発こそが安全保障上の極めて大きなリスクになると考える。さらに、地震等のリスクも併せ考えれば、原発推進は非合理と言わざるを得ない。

4月15日、ドイツでついに脱原発が実現した。

岸田政権は「見たいものを見たいように見る」ご都合主義から、一刻も早く脱却すべきだ。
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