三酔人の独り言

ルポライター・星徹のブログです。歴史認識と国内政治に関わる問題を中心に。他のテーマについても。

立憲デモクラシーの会が斬る「安保関連3文書」

2023-01-27 08:56:13 | 外交・安全保障
↑左から、中野晃一さん、石川健治さん、山口二郎さん、長谷部恭男さん、西谷修さん。2022年12月23日。衆議院第二議員会館。

 岸田文雄内閣は昨年(2022年)12月16日、新しい「安全保障関連3文書」を閣議決定した。この中で、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や防衛費の大幅増額も明言された。

 既に、2014年7月に「武力行使の新3要件」が閣議決定され、「集団的自衛権の一部行使が可能」とされている(*憲法上の問題は別にして)。

 武力攻撃事態〔*わが国が外部から武力攻撃を受けたか、その明白な危険が迫ったと認定される事態〕だけでなく、存立危機事態〔*わが国と密接な関係にある他国が武力攻撃されたことで、わが国の存立と国民の生命が脅かされ、「国の基本理念」が根本から覆される明白な危険がある事態〕が認定された際にも、敵基地攻撃が可能になるというのだ(*同じく、憲法上の問題は別にして)。

 岸田内閣は、こうした重要政策である「3文書」を、国民的な議論も国会での審議もないままに、与党と内閣だけで決めてしまった。

 こうした状況下で、岸田首相は今年1月に訪米し、米バイデン大統領に「3文書」改定を報告した。同月12日(日本時間)に開催された日米安全保障協議委員会(2プラス2)で「3文書」の中身が確認され、さらなる日米同盟の強化が約束された。

 岸田首相ら訪米団は、米政府から大歓迎されたという。それもそのはずだ。米国にとっては、東アジアでの覇権が中国によって脅かされる中での、日本の「援軍志願」だからだ。

 ここで重要なのは、「3文書」に係わる手続き・順序の問題だ。日本の国民と国会への説明を後回しにして、米政府への報告と約束を優先させた、ということ。この「形式の転倒」は、「危うい内容」を浮き彫りにしている。

 つまり、この形式のあり方は、〈日本政府が「日本の国民と国会」より「米政府の意向」を優先している〉という内容を表出しているのだ。日本の政府や与党側は否定するだろうが、物事の深層を注意深く見る必要がある。〔A〕(*下記〔E〕の文章も参照されたい)

 以下に、社会民主党の機関紙「社会新報」に掲載された無署名記事を転載する。私(星徹)が取材・執筆に協力したもので、編集部の転載許可を得ている。
 *後の論評のため、引用文の中に〔B〕~〔G〕を付記した。

■立憲デモクラシーの会が「安保3文書」を徹底批判(「社会新報」2023.1.25号
 立憲デモクラシーの会は昨年12月23日、岸田内閣が同月16日に閣議決定した「安全保障関連3文書」に対して声明を出し、衆院第二議員会館で記者会見を行なった。
     ◇
「3文書」は、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増しているとし、防衛力・抑止力を強化する必要があるとした。敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有も明記し、2023年度から5年間の防衛費を現行計画の1.5倍以上に増額させるとした。

 これに伴い政府は、2014年7月の閣議決定に基づき、「武力行使の3要件」を満たせば「集団的自衛権の一部行使」もできるとしている。

米国頼みの同盟抑止
 声明ではまず、「一般に抑止という戦略は相手国の認識に依存するので、通常兵力の増強が相手国に攻撃を断念させる保証はなく、逆にさらなる軍拡競争をもたらして、安全保障上のリスクを高めることもありうる」と指摘した。

 続けて、「『先制攻撃』と自衛のための『反撃』の区分はきわめて不明確であり、敵基地攻撃能力の保有は専守防衛という従来の日本の防衛政策の基本理念を否定する」と批判した。

 会見に参加した長谷部恭男さん(早稲田大学・憲法学)は、次のように語った。
「日本では、(憲法の規定により)武力行使はゼロがベースラインだ。それにもかかわらず、戦力を持ち、武力行使をするならば、具体的にそれを正当化する合理性と必要性を説明しなければならない。だが、今回の『3文書』にはそれがない」

 中野晃一さん(上智大学・政治学)は、次のように指摘した。
「日本は、米国のインテリジェンス(情報)に大きく依拠する形でしか自国のミサイルを使用できない。あくまで、米国の指揮下に自衛隊が入る中で、日本の安全保障が決められていく。米国が選ぶ戦争を米国の指揮下で日本が戦うことになる」〔B〕

 石川健治さん(東京大学・憲法学)は、「(当事国や諸勢力による)プロパガンダに安易にコミットするのではなく、言論は可能な限り局外中立を保つ努力をすべきだ。これが、戦前からの反省に立った言論のあり方だ」と訴えた。

防衛費増ありきの愚
 声明は、「3文書」で打ち出された防衛費大幅増の方針に対しても、「必要な防衛装備品を吟味したうえでの積み上げではなく、GDP比2%という結論に合わせた空虚なもの」と批判した。〔C〕

 この点について、長谷部さんは、以下のように指摘した。
「本来、具体的にどのよう状況が想定され、それに対処するために何が必要か、そのコストをつぎ込んでどれだけのメリットがあるかを、まず考える必要があるはずだ。論理が全く逆立ちしている。かつて戦艦大和を造った二の舞になりはしないか心配だ」〔D〕

 山口二郎さん(法政大学・政治学)は、「岸田首相は事実上、復興特別所得税を一部防衛費に転用するとした。(東日本)大震災を経て、いかにして国民を守るかという問題意識がないままに、防衛費を増やすという。怒髪天を衝(つ)く思いだ」と訴えた。

国民不在の政策転換
 声明は、「3文書」の閣議決定に至る手法についても、「7月の参議院選挙で(略)国民の審判を受けることができたはず」「秋の臨時国会でも国会と国民に対する説明をせず、内閣と与党だけで重大な政策転換を行った」と批判した。〔E〕

 西谷修さん(東京外国語大学・思想史)は、次のように語った。
「2014年7月、集団的自衛権の(一部)行使容認が閣議決定された。立憲政治の堤防が決壊した、ということだ。その後も、菅政権と岸田政権で、決壊した状況をそのまま利用する形で政策が進められてきた。そして今回。濁流が社会に流れ込んでいる状況だ。日本の憲法が、まさに『ない』ものとして、政治が行なわれている」〔F〕

 中野さんは、「『自由主義と民主主義を守る』と言うなら、民主主義的な手続きにのっとるべきだ。それなのに、裏口からなし崩し的に転換を行なっている」と批判した。

 石川さんは、以下のように訴えた。
「2014年7月の閣議決定は、憲法が用意している『論理的な一番外側の枠』を壊してしまった。それ以降ずっと、『手続き』がまともに踏まれないで議論が進んでいる。今回の『3文書』でも、手続き的な担保がないままにシグナルだけがどんどん進行し、後付けで法制度や財源が整備されていく。安倍政権と何ら変わらない」〔G〕
    【「社会新報」からの転載はここまで】

 立憲デモクラシーの会の「声明」にも、「会見での発言」にも、重要な部分が多く含まれていると思う。以下、簡単に私見を述べる。

■〔Bについて〕
 この視点は、非常に重要だと思う。新聞やテレビなどを見ても、こうした論点についての指摘は少ない。

「米国の掌(てのひら)の上で」つまり「米国の国益に基づいて」しか、安全保障上の重要情報は得られない、ということだ。結局、日本による武力行使に関しては、「日本独自の判断」による部分は小さく、「米国の判断」によって大きく影響される、ということだろう。

■〔C〕と〔D〕について
 政府の「防衛費大幅増」の方針に対して、国民からの批判の声は多い。だが、その多くは「増税への懸念」だ。自衛隊の存在に批判的な層からは、無条件に「防衛費増額に反対」との意見も多く出ている。

 これら意見を述べるのは、もちろん自由だ。だが、それだけでは、他の人たちに対し十分な説得力を持ちえないと思う。問題を内容と形式に分けて考えた場合、形式面がすっぽり抜け落ちているからだ。

 そうした意味で、「声明」と長谷部恭男さんのこれら「形式」面での指摘は、非常に重要なものだ。

 もちろん上記のことは、「日本は軍事力(防衛力)をもっと強化すべき」と主張する側にも、同じように当てはまる。

■〔F〕と〔G〕について
「憲法を守って国が滅んだら、どうするんだ?」との主張も、聞こえてきそうだ。もちろん、「憲法を守ることによって、国が滅び、国民が存亡の危機に陥る」事態も避けなければならない。だが、その問題は、立憲主義の枠内で解決できうる問題だ。

 物事の核心は、そこではなく、「憲法を蔑(ないがし)ろにして国が滅んだら、どうするんだ?」という問題ではないか。

 憲法を基盤とする立憲民主主義は、「国が独立を守り、存亡の危機に陥らない」「国民の生命と財産・安全を守る」ことを究極の目的としているはずだ。そうであるなら、立憲民主主義を健全に機能するよう改善し、そのことによって日本の国(民)益を守る努力をすべきではないか。

 この問題は、上記〔A〕とも密接に関わってくる。端的に言えば、「米国に寄り添いすぎる」ことのリスクも考慮すべきではないか、ということだ。
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