安倍内閣は、今国会で特定秘密保護法案と国家安全保障会議(日本版NSC)創設関連法案の成立を目指している。しかし、新聞を読みテレビを見ていても、全体の流れがよく見えてこない。この先どういった順序で事が進み、どういった展開が予想されるのか・・・
新聞もテレビも、事が大詰めに来て初めてガーッと報道し始める。しかし、その時は「8割かた」勝負がついている。特に衆参で与党が過半数を占めている現状では、基本的に政府の意向に沿って法案が成立していく。メディアの対応が遅すぎると思う。もっと早い段階で大きな流れを分かりやすく示し、「今こういった動きが進行中だ」「今後こういった懸念がある」などと報道して欲しいものだ。
そうは言っても、メディアの側からすれば「不確定要因が多い段階では、漠然としていてリアリティーがない」「人々が関心を持たない」「具体的な動きが無くて『絵』にならない」といった思いが強いのかもしれないが。
安倍内閣は、今国会で先の2法案を成立させた後、どうするのか? 憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認へと動き、早ければ来年の通常国会で自民党・国家安全保障基本法案(概要)に基づいた法律の成立を目指す。政府・自民党は、改憲せずして「実質改憲」のゴリ押しで既成事実を積み上げ、5~6年後をめどに正式に憲法改定を目指すのではないか。もちろん、連立与党の公明党の動きが不確定要因であり、この動きによって展開が変わる可能性もあるのだが。
こういった大きな流れを読むのに役立つ記事を載せるのが、月刊誌など雑誌の役割だろう。
㈱岩波書店発行の月刊『世界』2013年12月号に川口創「国家安全保障基本法は何を狙うか」が掲載された。
■川口創:かわぐち・はじめ 1972年生まれ、弁護士。自衛隊イラク派兵差止訴訟弁護団の事務局長として、名古屋高裁で違憲判決を勝ち取る。
以下に、この論考の重要部分の概略を記す。
*< >内は、自民党・国家安全保障基本法案(概要)の条文。①②等の番号は、後の説明のために挿入した。
(1)自民党は国家安全保障基本法案(概要)を2012年7月4日に機関決定し、国会に提出することを正式に決定した。そして、先の衆院選(2012年12月)と参院選(2013年7月)で「国家安全保障基本法」の制定を選挙公約に掲げた。
(2)国家安全保障基本法が成立すれば、憲法改定手続きを経ることなく、下位の法律で最高法規の憲法を否定してしまう(憲法9条の死文化)。
(3)特定秘密保護法案と国家安全保障会議(日本版NSC)創設関連法案が成立し、さらに国家安全保障基本法が制定されれば、自民党・日本国憲法改正草案が想定する国家の仕組みが先取り的に作られる。
(4)今後の国家安全保障基本法制定に向けての流れ(予想)
安倍首相の私的諮問機関「安保法制懇」は、「海外での武力行使容認」との報告書を年内に内閣に提出する。
→内閣は「報告」を了承[して閣議決定]
→内閣は小松内閣法制局長官に「法案」作成を指示
→国家安全保障基本法案は、早ければ来年(2014年)の通常国会に提出される。
(5)自民党・国家安全保障基本法案(概要)の第2条
<安全保障の目的は、外部からの軍事的または①非軍事的手段による直接または②間接の侵略その他のあらゆる脅威に対し、防衛、外交、経済その他の諸施策を総合して、これを③未然に防止しまたは排除することにより・・・>
①②→「軍事力の役割は際限なく拡大していく」
③ →「「先制攻撃」をも容認しかねない」
2項4号
<国際連合憲章に定められた自衛権の行使については、必要最小限度とすること>
→「集団的自衛権の行使を認める」ということ。
(6)同法案第3条
<国は、教育、科学技術、建設、運輸、通信その他内政の各分野において、安全保障上必要な配慮を払わなければならない>
→重要なのは、「国は、教育において、安全保障上必要な配慮を払わなければならない」ということ。国防意識を高める教育をし、愛国心教育を強めていく、ということを意味する。
4項
<地方公共団体は、国及び他の地方公共団体その他の機関と相互に協力し、安全保障に関する施策に関し、必要な措置を実施する責務を負う>
→自治体は国の防衛施策に完全に組み込まれていく。自民党・日本国憲法改正草案第93条三項の先取り。
(7)同法案第4条
<国民は、国の安全保障施策に協力し、我が国の安全保障の確保に寄与し、もって平和で安定した国際社会の実現に努めるものとする>
→安全保障施策・防衛施策への「協力努力義務」が国民の責務となる。
(8)同法案第5条
<政府は、本法に定める施策を総合的に実施するために必要な法制上及び財政上の措置を講じなければならない>
→同法(*そもそもこの法律も違憲)を頂点にして、違憲の法律が次々と作られていく危険性。
(9)同法案第10条
<第2条第2項第4号[*上記(5)参照]の基本方針に基づき、我が国が自衛権を行使する場合には、以下の事項を遵守しなければならない。
1 我が国、あるいは我が国と密接な関係にある他国に対する、外部からの武力攻撃が発生した事態であること>
→これが「集団的自衛権」の行使を正面から認める条項
(10)同法案第11条
<我が国が国際連合憲章上定められ、又は①国際連合安全保障理事会で決議された等の、②各種の安全保障措置等に参加する場合には、以下の事項に③留意しなければならない>
→①②のそれぞれの「等」がくせ者。たとえ安保理決議がない場合であっても、アメリカの軍事行動に従って自衛隊を戦地に送り出すことが可能となる。
→③の「留意」とすることで、「日本の国益に合うかどうかで判断する」ということになりうる。この結果、集団的自衛権行使というロジックが使えない場合でも、「安全保障措置等に参加」という形で、容易に自衛隊を戦地に送り出すことが可能となる。
(11)10条と11条を合わせれば、自衛隊の海外派兵は制限のないものとなり、憲法9条の歯止めはまったく及ばなくなる。
(12)この自民党・国家安全保障基本法案(概要)は、1994年に防衛庁が内部で作った「試案」をかなり引き写している。
≪『世界』川口創氏「論考」の紹介終わり≫
最後に、『世界』同号に掲載の半田滋(東京新聞)「集団的自衛権行使は何を守るのか」の中から、国家安全保障基本法」案についての以下記述を紹介する。
「現行の憲法解釈や政府見解では許されていない複数の案件を立法措置によって一気に可能にする「魔法の法典」である。
その意味では、ドイツのワイマール憲法を有名無実化したナチス政権下の「全権委任法」に近い。麻生太郎財務相の「ナチス発言」は安倍政権の狙いを教えてくれたといえる」
新聞もテレビも、事が大詰めに来て初めてガーッと報道し始める。しかし、その時は「8割かた」勝負がついている。特に衆参で与党が過半数を占めている現状では、基本的に政府の意向に沿って法案が成立していく。メディアの対応が遅すぎると思う。もっと早い段階で大きな流れを分かりやすく示し、「今こういった動きが進行中だ」「今後こういった懸念がある」などと報道して欲しいものだ。
そうは言っても、メディアの側からすれば「不確定要因が多い段階では、漠然としていてリアリティーがない」「人々が関心を持たない」「具体的な動きが無くて『絵』にならない」といった思いが強いのかもしれないが。
安倍内閣は、今国会で先の2法案を成立させた後、どうするのか? 憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認へと動き、早ければ来年の通常国会で自民党・国家安全保障基本法案(概要)に基づいた法律の成立を目指す。政府・自民党は、改憲せずして「実質改憲」のゴリ押しで既成事実を積み上げ、5~6年後をめどに正式に憲法改定を目指すのではないか。もちろん、連立与党の公明党の動きが不確定要因であり、この動きによって展開が変わる可能性もあるのだが。
こういった大きな流れを読むのに役立つ記事を載せるのが、月刊誌など雑誌の役割だろう。
㈱岩波書店発行の月刊『世界』2013年12月号に川口創「国家安全保障基本法は何を狙うか」が掲載された。
■川口創:かわぐち・はじめ 1972年生まれ、弁護士。自衛隊イラク派兵差止訴訟弁護団の事務局長として、名古屋高裁で違憲判決を勝ち取る。
以下に、この論考の重要部分の概略を記す。
*< >内は、自民党・国家安全保障基本法案(概要)の条文。①②等の番号は、後の説明のために挿入した。
(1)自民党は国家安全保障基本法案(概要)を2012年7月4日に機関決定し、国会に提出することを正式に決定した。そして、先の衆院選(2012年12月)と参院選(2013年7月)で「国家安全保障基本法」の制定を選挙公約に掲げた。
(2)国家安全保障基本法が成立すれば、憲法改定手続きを経ることなく、下位の法律で最高法規の憲法を否定してしまう(憲法9条の死文化)。
(3)特定秘密保護法案と国家安全保障会議(日本版NSC)創設関連法案が成立し、さらに国家安全保障基本法が制定されれば、自民党・日本国憲法改正草案が想定する国家の仕組みが先取り的に作られる。
(4)今後の国家安全保障基本法制定に向けての流れ(予想)
安倍首相の私的諮問機関「安保法制懇」は、「海外での武力行使容認」との報告書を年内に内閣に提出する。
→内閣は「報告」を了承[して閣議決定]
→内閣は小松内閣法制局長官に「法案」作成を指示
→国家安全保障基本法案は、早ければ来年(2014年)の通常国会に提出される。
(5)自民党・国家安全保障基本法案(概要)の第2条
<安全保障の目的は、外部からの軍事的または①非軍事的手段による直接または②間接の侵略その他のあらゆる脅威に対し、防衛、外交、経済その他の諸施策を総合して、これを③未然に防止しまたは排除することにより・・・>
①②→「軍事力の役割は際限なく拡大していく」
③ →「「先制攻撃」をも容認しかねない」
2項4号
<国際連合憲章に定められた自衛権の行使については、必要最小限度とすること>
→「集団的自衛権の行使を認める」ということ。
(6)同法案第3条
<国は、教育、科学技術、建設、運輸、通信その他内政の各分野において、安全保障上必要な配慮を払わなければならない>
→重要なのは、「国は、教育において、安全保障上必要な配慮を払わなければならない」ということ。国防意識を高める教育をし、愛国心教育を強めていく、ということを意味する。
4項
<地方公共団体は、国及び他の地方公共団体その他の機関と相互に協力し、安全保障に関する施策に関し、必要な措置を実施する責務を負う>
→自治体は国の防衛施策に完全に組み込まれていく。自民党・日本国憲法改正草案第93条三項の先取り。
(7)同法案第4条
<国民は、国の安全保障施策に協力し、我が国の安全保障の確保に寄与し、もって平和で安定した国際社会の実現に努めるものとする>
→安全保障施策・防衛施策への「協力努力義務」が国民の責務となる。
(8)同法案第5条
<政府は、本法に定める施策を総合的に実施するために必要な法制上及び財政上の措置を講じなければならない>
→同法(*そもそもこの法律も違憲)を頂点にして、違憲の法律が次々と作られていく危険性。
(9)同法案第10条
<第2条第2項第4号[*上記(5)参照]の基本方針に基づき、我が国が自衛権を行使する場合には、以下の事項を遵守しなければならない。
1 我が国、あるいは我が国と密接な関係にある他国に対する、外部からの武力攻撃が発生した事態であること>
→これが「集団的自衛権」の行使を正面から認める条項
(10)同法案第11条
<我が国が国際連合憲章上定められ、又は①国際連合安全保障理事会で決議された等の、②各種の安全保障措置等に参加する場合には、以下の事項に③留意しなければならない>
→①②のそれぞれの「等」がくせ者。たとえ安保理決議がない場合であっても、アメリカの軍事行動に従って自衛隊を戦地に送り出すことが可能となる。
→③の「留意」とすることで、「日本の国益に合うかどうかで判断する」ということになりうる。この結果、集団的自衛権行使というロジックが使えない場合でも、「安全保障措置等に参加」という形で、容易に自衛隊を戦地に送り出すことが可能となる。
(11)10条と11条を合わせれば、自衛隊の海外派兵は制限のないものとなり、憲法9条の歯止めはまったく及ばなくなる。
(12)この自民党・国家安全保障基本法案(概要)は、1994年に防衛庁が内部で作った「試案」をかなり引き写している。
≪『世界』川口創氏「論考」の紹介終わり≫
最後に、『世界』同号に掲載の半田滋(東京新聞)「集団的自衛権行使は何を守るのか」の中から、国家安全保障基本法」案についての以下記述を紹介する。
「現行の憲法解釈や政府見解では許されていない複数の案件を立法措置によって一気に可能にする「魔法の法典」である。
その意味では、ドイツのワイマール憲法を有名無実化したナチス政権下の「全権委任法」に近い。麻生太郎財務相の「ナチス発言」は安倍政権の狙いを教えてくれたといえる」