安倍晋三内閣は昨年(2018年)12月18日、国の防衛力整備の指針となる新たな「防衛計画の大綱」(防衛大綱)と、今後5年間の装備品見積もりを定めた「中期防衛力整備計画」(中期防)を閣議決定した。
もちろん、タテマエとしては「憲法の枠内」ということだろうが、実態はどうなのか? 確かに「国を守る」ことは重要だが、そのことを大義名分に掲げることで、ゴマカシがあるのではないか? 先に既成事実を作りあげ、憲法を骨抜きにして、そのまましらばっくれるか、後に憲法を改正して誤魔化す、という手法ではないのか?
各人それぞれに「政治・安全保障上の主義主張」[A]があるのは、当然だろう。しかし真に重要なのは、「事実認識・論理構成」[B]ではないか。もちろんBには、憲法という「土台の事実」が厳然としてあり、人道主義という「事実」も源流に流れているはずだ。要するに、BはAより上位にあるべきで、「Aをゴリ押しするためにBを誤魔化す」ということがあってはならない、と思うのだ。これが、立憲民主主義の基本だ。
日本の政治の最高権力は、この「あってはならない」ことを、常態化させようとしているのではないか。このことを「おかしい」と思うか、思わないか。そのことが今、国民一人ひとりに問われているのだ。
以下は、社会民主党の機関紙「社会新報」2019.1.16号に掲載された憲法問題シンポジウムに関する無署名記事だ。私(星徹)が取材・執筆に協力したものだ。
同紙編集部の許可を得たので、以下に記事を転載する。
【無断転載禁止】
安保法制下の日米軍事一体化~半田滋さんらが日弁連集会で指摘~
憲法問題シンポジウム「自衛隊の現状と9条改正」が昨年12月22日、東京都千代田区の弁護士会館で行なわれ、300人を超える参加があった。主催は東京弁護士会、共催は日本弁護士連合会と第一・第二東京弁護士会。
まず、東京新聞論説兼編集委員の半田滋さんが基調講演「安保法制下の自衛隊」を行なった。
シンポ4日前に閣議決定された「防衛計画の大綱」と中期防衛力整備計画について、半田さんは「自衛隊(の側)の要望ではなかった。自民党の提言がほとんど反映されている」と指摘した。
アーミテージ報告書
安倍晋三内閣は2014年7月、集団的自衛権(メモ①参照)の行使を一部容認する閣議決定を強行し、翌年9月にはこれを含む安全保障法制をゴリ押しで成立させている。
半田さんは、今回の「大綱」と「計画」について、次のように批判する。
「『専守防衛』を踏み越え、打撃力を保有する方向を目指している。護衛艦いずもの空母化や長距離巡行ミサイルの保有など、予算案に入ってきたものが大綱でお墨付きを得た、ということだ。米国製武器の大量購入で、さらなる日米(軍事)一体化に進みつつある」
この「大綱」の2ヵ月半前(18年10月)、「第4次アーミテージ・ナイレポート」が発表された。アーミテージ元米国務副長官とナイ元国防次官補が中心となり作成された報告書で、これまで日本政府や官僚らの政策立案のバイブルとされてきた。
「第4次」では、次のような要求が並ぶ。日米統合部隊の創設、日本国内の日米基地共同使用基準の緩和、自衛隊基地と民間施設の米軍による軍事利用…。
半田さんは指摘する。
「今回は、日本が集団的自衛権の行使を認めたことを前提に、米軍と自衛隊の一体化をさらに進めること求めている。今後3年間でやってくるのではないか」
自民党憲法改正推進本部の改憲有力案は、現行9条に「2」を加え、「必要な自衛の措置をとることを妨げず」「自衛隊を保持する」などと明記した。
半田さんは、もしこの線で改憲された場合、「自衛隊の権限は圧倒的に強化される」と指摘した。
具体的には、集団的自衛権行使など事実上の軍隊としての活動の拡大、徴兵制の採用、防衛予算の増大、文民統制の後退、米軍との共同行動の増加などだ。
続くパネルディスカッションでは、石川健治東京大学法学部教授(憲法学)と評論家で元駐レバノン大使の天木直人さんも加わった。
「法的安定性」の危機
石川さんは、ドイツの法哲学者グスタフ=ラートブルフが「正義」「合目的性」「法的安定性」の3つの法理念を重視し、そのうち法的安定性を最後の砦(とりで)とした、と紹介した。
石川さんは訴える。
「日本で、この最後の砦が壊されそうとして久しい。そうした政権が、もう6年も続いている。安全保障のため、政権維持のためと、(目先の)合目的性の観点ばかり突出している。この恣意(しい)的な支配を食い止める必要がある」
また石川さんは、前出の自民党9条改憲案について、ウグイスとホトトギスの話(メモ②)を例に挙げ、次のように警鐘を鳴らした。
「自民党の9条改憲案は、災害救助部隊としての自衛隊を育てるという名目で、実は軍事力を対外的に行使する軍隊をそーっと挿入しようとしている。国民はそれと知らずに(改憲案という卵を)温めている」
天木さんは、次のように力説した。
「国民が日米安保条約を否定するような意識を持たない限り、憲法9条を一字一句たりとも変えてはならない。もし(安倍首相の言に惑わされて)変えてしまえば、過去70年の(憲法の)歴史はみな吹っ飛ぶ」
【メモ①:集団的自衛権】
自国と密接な関係にある国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利のこと。
【メモ②:ウグイスとホトトギスの話】
ホトトギスが自身の卵をこっそりウグイスの巣に生み落とし、卵を温めさせて、ヒナを育てさせる話。早く孵化(ふか)するホトトギスのヒナは、隙を見てウグイスの卵を次々と巣の外に押し出してしまうという。
もちろん、タテマエとしては「憲法の枠内」ということだろうが、実態はどうなのか? 確かに「国を守る」ことは重要だが、そのことを大義名分に掲げることで、ゴマカシがあるのではないか? 先に既成事実を作りあげ、憲法を骨抜きにして、そのまましらばっくれるか、後に憲法を改正して誤魔化す、という手法ではないのか?
各人それぞれに「政治・安全保障上の主義主張」[A]があるのは、当然だろう。しかし真に重要なのは、「事実認識・論理構成」[B]ではないか。もちろんBには、憲法という「土台の事実」が厳然としてあり、人道主義という「事実」も源流に流れているはずだ。要するに、BはAより上位にあるべきで、「Aをゴリ押しするためにBを誤魔化す」ということがあってはならない、と思うのだ。これが、立憲民主主義の基本だ。
日本の政治の最高権力は、この「あってはならない」ことを、常態化させようとしているのではないか。このことを「おかしい」と思うか、思わないか。そのことが今、国民一人ひとりに問われているのだ。
以下は、社会民主党の機関紙「社会新報」2019.1.16号に掲載された憲法問題シンポジウムに関する無署名記事だ。私(星徹)が取材・執筆に協力したものだ。
同紙編集部の許可を得たので、以下に記事を転載する。
【無断転載禁止】
安保法制下の日米軍事一体化~半田滋さんらが日弁連集会で指摘~
憲法問題シンポジウム「自衛隊の現状と9条改正」が昨年12月22日、東京都千代田区の弁護士会館で行なわれ、300人を超える参加があった。主催は東京弁護士会、共催は日本弁護士連合会と第一・第二東京弁護士会。
まず、東京新聞論説兼編集委員の半田滋さんが基調講演「安保法制下の自衛隊」を行なった。
シンポ4日前に閣議決定された「防衛計画の大綱」と中期防衛力整備計画について、半田さんは「自衛隊(の側)の要望ではなかった。自民党の提言がほとんど反映されている」と指摘した。
アーミテージ報告書
安倍晋三内閣は2014年7月、集団的自衛権(メモ①参照)の行使を一部容認する閣議決定を強行し、翌年9月にはこれを含む安全保障法制をゴリ押しで成立させている。
半田さんは、今回の「大綱」と「計画」について、次のように批判する。
「『専守防衛』を踏み越え、打撃力を保有する方向を目指している。護衛艦いずもの空母化や長距離巡行ミサイルの保有など、予算案に入ってきたものが大綱でお墨付きを得た、ということだ。米国製武器の大量購入で、さらなる日米(軍事)一体化に進みつつある」
この「大綱」の2ヵ月半前(18年10月)、「第4次アーミテージ・ナイレポート」が発表された。アーミテージ元米国務副長官とナイ元国防次官補が中心となり作成された報告書で、これまで日本政府や官僚らの政策立案のバイブルとされてきた。
「第4次」では、次のような要求が並ぶ。日米統合部隊の創設、日本国内の日米基地共同使用基準の緩和、自衛隊基地と民間施設の米軍による軍事利用…。
半田さんは指摘する。
「今回は、日本が集団的自衛権の行使を認めたことを前提に、米軍と自衛隊の一体化をさらに進めること求めている。今後3年間でやってくるのではないか」
自民党憲法改正推進本部の改憲有力案は、現行9条に「2」を加え、「必要な自衛の措置をとることを妨げず」「自衛隊を保持する」などと明記した。
半田さんは、もしこの線で改憲された場合、「自衛隊の権限は圧倒的に強化される」と指摘した。
具体的には、集団的自衛権行使など事実上の軍隊としての活動の拡大、徴兵制の採用、防衛予算の増大、文民統制の後退、米軍との共同行動の増加などだ。
続くパネルディスカッションでは、石川健治東京大学法学部教授(憲法学)と評論家で元駐レバノン大使の天木直人さんも加わった。
「法的安定性」の危機
石川さんは、ドイツの法哲学者グスタフ=ラートブルフが「正義」「合目的性」「法的安定性」の3つの法理念を重視し、そのうち法的安定性を最後の砦(とりで)とした、と紹介した。
石川さんは訴える。
「日本で、この最後の砦が壊されそうとして久しい。そうした政権が、もう6年も続いている。安全保障のため、政権維持のためと、(目先の)合目的性の観点ばかり突出している。この恣意(しい)的な支配を食い止める必要がある」
また石川さんは、前出の自民党9条改憲案について、ウグイスとホトトギスの話(メモ②)を例に挙げ、次のように警鐘を鳴らした。
「自民党の9条改憲案は、災害救助部隊としての自衛隊を育てるという名目で、実は軍事力を対外的に行使する軍隊をそーっと挿入しようとしている。国民はそれと知らずに(改憲案という卵を)温めている」
天木さんは、次のように力説した。
「国民が日米安保条約を否定するような意識を持たない限り、憲法9条を一字一句たりとも変えてはならない。もし(安倍首相の言に惑わされて)変えてしまえば、過去70年の(憲法の)歴史はみな吹っ飛ぶ」
【メモ①:集団的自衛権】
自国と密接な関係にある国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利のこと。
【メモ②:ウグイスとホトトギスの話】
ホトトギスが自身の卵をこっそりウグイスの巣に生み落とし、卵を温めさせて、ヒナを育てさせる話。早く孵化(ふか)するホトトギスのヒナは、隙を見てウグイスの卵を次々と巣の外に押し出してしまうという。