時代劇ミステリー。江戸市村座の公演中に毒殺された歌舞伎の立女形の初代瀬川路京。あれから34年、女形の歌舞伎役者・二代目瀬川路京は人気低迷に足掻いていた。天に授けられた舞の拍子「神の音」が聞こえなくなっていたのだ。路京は座元と帳元の強い勧めもあり、現状打破のため、因縁の演目を打つことに。師匠の初代路京が舞台上で殺され、さらに瀬川家が散り散りになったきっかけの「母子月」だ。当時子役として自分も出演した因縁の公演を前にして、初代殺しを疑われた者たちが集まってくる。真の下手人は誰なのか?初代はなぜ殺されてしまったのか?終幕に明かされる真相に感動の嵐が・・・。特異な厳しい世界でもある歌舞伎の世界・芝居小屋の様子が詳しく描かれて面白い。過去の回想シーンが何度も挿入され登場人物の幼称名が結びつかず読むことに苦労したが、歌舞伎界主人公を陰ひなたで見守る、初代路京の息子の心の機微な描写がいい。
「何かを選ぶってことは、何かを捨てることだろう。」(P295)
2024年1月小学館刊
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