ラグビーワールドカップ日本開催で馴染みのスポーツになりつつあるラグビーを絡めた警察ミステリー小説。日兼コンサルティング会社という男の社員が死体で発見された。その社では一人の女性社員が行方不明となっている。ほぼ時を同じくして同社の海外贈賄事件を内偵していた吉岡刑事が姿を消していた。実は所轄署の刑事課長原と同社今川社長とは、かつて過去に内部告発者として警察に協力した当時の刑事という形の信頼関係を築いていた。しかも二人には共に元ラガーマンとしてラグビーという固い絆もあった。しかし今、部下の失踪について調べる原刑事課長は署長への道を探り、今川社長は本社役員の座を狙っていた。殺人事件と失踪事件を追ううちに次第に事件の本質へと迫る展開。
企業が昔から慣例的に行ってきた贈賄の事実を知った今川は自己の保身と正義感による会社の建て直しかで揺れる。二人のせめぎあいが続くなか、二人にとっての正義とはに悩む。男たちそれぞれに決断の刻が迫る。謎解きはある程度予想が付くので立場の違う二人の正義に対する考え方と決断が見もの。『ラグビーは最も危険で乱暴なスポーツであるが故に、選手は紳士的でなければならない。・・・常に自らの「誇り」と相手に対する「敬意」を持っている必要がある』(P345)
2019年7月東京創元社刊
野球小説。低迷にあえぐかつての名門プロ野球チーム「スターズ」は本拠地を副都心・新宿の新球場に移転し、開幕を迎えた。周囲に高層ビルがそびえ立つ形状で“ザ・ウォール”の異名をとる野球場スターズ・パークには、大リーグ好きオーナーの沖の意向が盛り込まれている。選手、勝利よりも黒字経営をモットーに施設やサービスの魅力で観客増を目論むオーナー。狭くて打者有利の球場に四苦八苦しつつ、堅実な采配で臨む樋口監督。オーナーと監督の「ズレ」は両者間に軋轢が生じ、序盤は苦戦が続いたチームの成績は、後半戦に入ると徐々に上向き始め・・・。
ファンが求める「面白い野球」とは。「理想のボール・パーク」とは。球場が主役の野球小説。監督やオーナー以外にもエース投手・移籍してきた投手、捕手・新人・ベテラン、ヘッドコーチ・GMそれぞれの立場の思いや思惑の違いが面白い。
2019年2月PHP研究所刊
半ひきこもり青年と祖父が主人公。元刑事で、現在は神奈川県小田原市鴨宮で「防犯アドバイザー」を務める麻生和馬。元引きこもりで父親のいる東京から拉致されるように引きとられた孫・新城将。「二万円やるから、俺のバイトを引き受けろ。張り込みだ」。無茶振りされた孫は、ある老女の“捜査”ならぬ“調査”を開始するが、ある日からその姿見えなくなる。そして、暗い顔で子ども食堂に通うネグレストされた母子家庭の少女怜奈も行方不明になる。昔の肩書や人脈を生かし、行方不明となった高齢者や、女子中学生の家出といったご近所のトラブルに首を突っ込んでいく。
そこから見えてきたのは、独居老人やネグレクトなど、現代の家族が抱える問題。熱血漢の麻生と、現代っ子である将の視点を対比し、問題が立体的に浮かび上がる展開はさすが。将と麻生は、ともに家族関係で苦しんだ過去を持つ。それが調査の熱量や、調べる相手への優しさにもつながっている。派手な事件は起こらないが、家族のあり方を考えさせられた。
2018年10月中央公論新社刊
現職知事の後継者が、選挙告示前に急死。後継候補を巡る争いに、突然名乗りを上げたオリンピックメダリスト、地元フィクサーや現職知事のスキャンダルを追う地元「民報」記者の思惑が交錯する。これまで四期連続当選してきた現職県知事・安川美智夫(76歳)は、今期限りでの引退を決める。後任については副知事の白井に任せるということで内々に話がまとまっていた。しかし、選挙告示の2ヶ月前に白井が急死し、次期知事候補は白紙に戻る。一方その頃、地元出身でオリンピックメダリストの中司涼子(42歳)が、突如知事選への出馬を表明、公約に「冬季オリンピックの招致」を掲げ、一気に有力候補に躍り出る。混沌とした様相はさらに加速し、与党、現職知事、地方紙が候補者選びを行うが二転三転することに。
隠された利権、過度な忖度、県民性の謎。圧倒的な権力を持つ「地方の王様」を決める熾烈な争いの内幕を描いた選挙小説で宴前=選挙前のドタバタ内幕劇は面白かった。政治家の言う「現段階では・・・」はよく聞く言葉で当てにならないことが良く分かった。選挙には必ずよく考えて投票する必要性を感じた。
2018年9月集英社刊