読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

吉田修一著「国宝(上)青春篇」

2022-06-11 | や・ら・わ行
講談風の語りで展開される大河風ドラマの主人公は、立花喜久雄。1964年元旦、長崎の老舗料亭「花丸」、侠客たちの怒号と悲鳴が飛び交うなかで、後に国の宝となる役者は生まれる。任侠の一門に生まれながらも、この世ならざる美貌は人々を巻き込み、喜久雄の人生を思わぬ域にまで連れ出していく。喜久雄は長崎から大阪、そしてオリンピック後の東京へ。喜久雄の身柄を預かったのが、大阪の人気歌舞伎役者・花井半二郎。一方、こちら、大垣俊介。半二郎の実の息子で、つまりは四歳から舞台に立つ梨園の御曹司。いずれ半二郎を襲名する身だが、ちょっとぼんぼんな性格。二人はこうして、ともに女形の才能を見いだされ、切磋琢磨して稽古に励むことになります。物語は喜久雄と俊介を中心に進んでいくが、彼らの親、子、友人、師匠、ライバルたちの人生も並行して語られる。それどれの登場者人物にドラマがあり、各々の人物像がくっきりと描かれていて面白い。日本の成長と歩を合わせるように、技をみがき、道を究めようともがく男たち。血族との深い絆と軋み、スキャンダルと栄光、幾重もの信頼と裏切り。「どんなに悔しい思いをしても芸で勝負や。ほんまもんの芸は刀や鉄砲より強いねん。おまえはお前の芸でいつか仇とったるんや。」芸養子として関西に出た後、歌舞伎界の新星として一躍注目を浴びるも運命に翻弄され続ける波乱万丈な半生が描かれています。身を削るようにして芸道を極めた役者の怒涛の人生青春篇。
2019年9月朝日新聞出版刊

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吉田修一著「ブランド」

2022-05-23 | や・ら・わ行
芥川賞受賞後から20年にわたり広告や雑誌の企画で書かれた短編や紀行・エッセイ作品集。
エプソン、エルメス、大塚製薬、サントリー、JCB、ティファニー、日産、パナソニックなど錚々たる企業の依頼。
著者ならではの視点でブータン、ラオス、香港などの国々を描いた紀行文がよかった。
長編とは違った感じで読みやすく楽しめた。
依頼企業の宣伝をするわけでもないのにその企業に興味を持たせる描き方に感心した。
2021年7月KADOKAWA刊

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吉田修一著「オリンピックにふれる」

2022-02-03 | や・ら・わ行
コロナ下の東京に、オリンピックの幕が上がった。香港、上海、ソウル、東京・・・分断された世界に、希望は生き残れるか?小説だから見えてくる、光と翳のオリンピック。変貌をとげるアジアの街で、人生の岐路に揺れる若者たちの4つの短編集。香港。ビクトリアピーク。蝋人形。「この香港のどこかを、もう一人の自分が歩き回っているような気がして仕方ないんだ」ボート選手枠で入社して10年、タイムが低迷する偉良はコーチから思わぬ宣告を受ける。・・・「香港林檎」。
 上海。郊外の団地。再開発。高層ビル。「私たち、上海に住でるのよ。欲しいものは欲しいって、今、世界で一番言える街に」ケガで体操選手を諦め、臨時体育教師になった阿青。結婚目前の恋人には初めてのチャンスが訪れていた。・・・「上海蜜柑」。
ソウル。近くて遠いアメリカ。スケート場の掃除をバイトにする主人公。バランスを崩すフィギュア・スケーターの少女。「がんばるって、約束したじゃないか」スケート場で働くクァンドンは、三回転ジャンプに挑む赤い練習着の少女に心惹かれるが・・・「ストロベリーソウル」。
東京オリンピック2020。無観客の競技場。「誰も悪くない。なのに、誰も幸せじゃないのはなぜだ?」東京五輪が始まった。開会式を前に失踪した部下を探す白瀬は、国立競技場の前に立つ・・・「東京花火」(改題前「オリンピックに触れる」)短編だからこその無駄のない筆運び。コロナ禍のオリンピックだからこその物語。登場人物の心情描写が細かくていい。
2021年9月KADOKAWA刊

 
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吉田修一著「湖の女たち」

2021-11-14 | や・ら・わ行
琵琶湖近くの介護療養施設で、百歳の男が殺された。事故か事件か捜査で出会った刑事濱中圭介と介護士の豊田佳代・・・謎が広がり深まる中、佳代は濱中刑事の車と接触事故を起こし、徐々に彼との仲は隠微なものになっていき二人は、離れられなくなっていく。一方、事件を取材する記者の池田は、死亡した男の過去に興味を抱き旧満州を訪ねるが・・・。一つの事件が男女の偏愛を生み、捜査への執着と執念、社会のしがらみに対する諦めと慣れなどが織り交ざった内容で展開していきます。人生の選択の責任から逃れたがっている人物として佳代が描かれ、圭介との関係は官能小説のようです。731部隊の蛮行、薬害隠蔽事件、警察官の挫折といった人間の闇などが描かれるのはいいのだが、突然場面が変わり過去の記憶ことなのか、夢の中の話なのか展開が複雑で読み難い。思い込み、マインドコントロールなのか謎解きの部分だけでない複雑な社会派小説です。
2020年10月新潮社刊

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米澤穂信著「真実の10メートル手前」

2021-10-25 | や・ら・わ行
己の身に痛みを引き受けながら、それらを直視するジャーナリスト太刀洗万智「王とサーカスの主人公」の活躍する短編ミステリー6編。計画倒産目論んだ詐欺師同然の扱いを受け経営破綻した会社の広告塔だった社長の妹早坂真理の行方を追う・・・表題作。高校生の心中事件。二人が死んだ場所の名をとって、それは恋累心中と呼ばれた。週刊深層編集部の都留は、フリージャーナリストの太刀洗と合流して取材を開始するが、徐々に事件の有り様に違和感を覚え始める・・・「恋累心中」。日本推理作家協会賞受賞後第一作・・・「名を刻む死」、本書のために書き下ろされた・・・「綱渡りの成功例」。「さようなら妖精」のマーヤさんの兄ヨヴァノヴィチさんが登場する・・・「ナイフを失われた思い出の中に」など他「正義漢」。太刀洗はなにを考えているのかよく解らない。滑稽な悲劇、あるいはグロテスクな妄執・・・己の身に痛みを引き受けながら、それらを鋭い洞察力で真実を解き明かすフリー記者、太刀洗万智の活動記録。どれも太刀洗万智が事件の深層を明らかにしていく一方で、聞き役が彼女の内面を理解していく過程が面白いミステリーでした。
2015年12月東京創元社刊
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山本功次著「希望と殺意はレールに乗って アメカブ探偵の事件簿」

2021-08-15 | や・ら・わ行
 鉄道建設の陳情で長野の山あいの村から上京中の村会議員が殺害され、裏金が奪われた。目撃談も証拠も得られず警察が頼ったのは、人気推理小説家でアメリカかぶれの探偵・城之内和樹と助手で旧華族のお嬢様・奥平真優。南信州の村へ向かった二人を待ち受けていたのは、鉄道計画を巡り対立する村民、開発に群がる人々、そして新たな事件だった。型にはまらない二人の大胆行動と推理で、村に潜む闇に迫る展開。終戦から十数年が舞台,「我が村に鉄道を」と小さな村から始まった事件ですが、新幹線やリニア線誘致の現代にも通じるテーマ。アメカブ探偵城之内より真優のキャラの印象が強い。鉄道の利権、駅の誘致、観光開発と戦中物資の横流しで財産を築いた成り上がり政治家、様々な人の思惑が絡み、田舎の閉鎖的な人間関係など、先日登った恵那山近辺の話として面白く読めた。
2020年1月講談社刊 
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米澤穂信著「Iの悲劇」

2021-08-03 | や・ら・わ行
連作短編ミステリードラマ。山あいの小さな集落、簑石。ここは6年前に住む人が立ち退いていなくなり一度死んだ村。ここに人を呼び戻す。それが南はかま市Iターン支援プロジェクト「甦り課」の使命だ。人当たりがよく、さばけた新人、観山(かんざん)遊香。出世が望み。公務員らしい公務員、万願寺(まんがんじ)邦和。とにかく定時に退社。やる気の薄い課長、西野秀嗣。この3人が日々舞い込んでくる移住者たちのトラブルをさばく。一癖ある「移住者」たちと、彼らの間で次々と発生する「謎」。最終的に解決するのはいつも・・・。限界集落対策に頭を悩ませる自治体職員の奮闘記。徐々に明らかになる、限界集落の「現実」。何もない過疎地に、なんでこんな事件が起こるのか。そして終章で明かされる「衝撃」。地方行政に携わる公務員の悲しい現実がよく表現されています。日本の地方自治はもはや自治体レベルでどうこうするのは難しいという現実。いつもTVで見ている「ポツンと一軒家」や「何故そこ」を思い出した。万願寺のその後が気になったが一気読みできる面白さだが、読後感はハッピーではない。
2019年9月文藝春秋社刊

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柚月裕子著「暴虎の牙」

2021-06-17 | や・ら・わ行
警察小説「孤狼の血」「凶犬の眼」シリーズ・完結編、「暴虎の牙」。博徒たちの間に戦後の闇が残る昭和57年の広島呉原。愚連隊「呉寅会」を率いる沖虎彦は、ヤクザも恐れぬ圧倒的な暴力とそのカリスマ性で勢力を拡大していた。広島北署二課暴力団係の刑事・大上章吾は、沖と呉原最大の暴力団・五十子会との抗争の匂いを嗅ぎ取り、沖を食い止めようと奔走する。時は移り平成16年、懲役刑を受けて出所した沖がふたたび広島で動き出した。だがすでに暴対法が施行されて久しく、シノギもままならなくなっていた。焦燥感に駆られるように沖が暴走を始めた矢先、かつて大上の薫陶を受けた呉原東署の刑事・日岡秀一が沖に接近する・・・。沖虎彦という愚連隊リーダーの男を主役に置くことで、大上章吾と日岡秀一、それぞれの時代を楽しめ読める。作品の前半(大上の時代)と後半部分(日岡の時代)では、暴力団を取り囲む状況があまりにも違う。現代では暴力団排除条例が施行され、暴力団という存在自体がもはや風前の灯。ヤクザ小説でもあるが誰が警察の”エス”なのか?というミステリー部分もあり、登場人物たちが生き生きと描かれ取り巻く女性たちも鮮やかだ。破滅へ突き進む人間の執念・業の深さに恐ろしさを感じたものの全体としてはたっぷり楽しませて貰った一気読みの物語でした。映画化が楽しみです。
2020年3月角川書店刊

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山中光茂著「小説 しろひげ在宅診療所」

2021-05-24 | や・ら・わ行
24時間365日、患者と家族を応援する“しろひげ在宅診療所”所長が書いた小説。かなり実話らしい。その人の最期まで寄り添いたい。患者から「求められる」ことに応えようと、周囲の一言、一言に勇気づけられながら・・・。「俺はね、こんな人生だったけど、しろひげ先生や中鉢さんに仕事とはいえ優しくしてもらえたことがさ、嬉しかったんだ。人間として扱ってもらえるって感じがしてね。なんかわからないけど泣けてくるよ」「大丈夫。私の人生のなかで二宮さん、面倒くさいランキング上位ですから。とっても人間らしい、一生忘れない私の大切な友人ですよ」(P230) 前向き、アクチブ、マルチな人という印象。夜の歌舞伎町でのスカウト、アフリカ・ケニアの島で医療活動、最年少の市長として政治活動、そして在宅医として、運命に流され、人の縁をつなぎ、かけがえのない人生を共に生きる物語です。自分の最後を如何にむかえるか考えさせられた話でした。
2021年3月角川春樹事務所刊
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吉田修一著「逃亡小説集」

2021-01-23 | や・ら・わ行
人生の断面を切り取る4つの短編集。職を失い、年老いた母を抱えて途方に暮れる男。生活保護を申請に訪れた帰り道一方通行違反でパトカーに停められた。・・・・「逃げろ九州男児」。一世を風靡しながら、転落した元アイドル鮎川舞子が姿をくらまし逃げた先に偶然古くからのファンの男が・・・・「逃げろお嬢さん」。道ならぬ恋に落ちた、中学校女教師と前任の中学の元教え子男子高校生17歳が旅立った沖縄。・・・・「逃げろ純愛」。そして、極北の地で突如消息を絶った郵便配達員。日本郵便の孫請け運送会社のアルバイト運転手が逃げた理由・・・・「逃げろミスター・ポストマン」。ふとした出来事や些細な事件をきっかけにその場から逃げることを選び取った先に、安住の地はあるのか。どれも短篇故に終わり方は余韻を残す物語ですが誰でも一度は逃げ出したい思いを持ったことがあるものですが・・・。
2019年10月KADOKAWA刊
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柚木麻子著「BUTTER」

2020-06-13 | や・ら・わ行
結婚詐欺の末、男性3人を殺害したとされる木島佳苗の「首都圏連続不審死事件」をモチーフにフィクションとして書かれているようだ。ここでは容疑者・梶井真奈子として。世間を騒がせたのは、彼女の決して若くも美しくもない容姿と、女性としての自信に満ち溢れた言動だった。過去に父親との関係がトラウマになっているが今は週刊誌で働く30代の女性記者・町田里佳は、親友の狭山伶子からのアドバイスでカジマナとの面会を取り付ける。だが、取材を重ねるうち、欲望と快楽に忠実な彼女の言動に、翻弄されるようになっていく・・・。塀の中に居ながら遠隔操作される里佳は映画「羊たちの沈黙」のヒロインのようと思った。表題のバターという食材の濃厚な特徴を、印象強く利用し、したがって食べ物の描写も多く、欲望のままに食の快楽を満たしていく様子は、ある意味エロイ。犯罪者と記者のスリリングなやり取りは、やがて女性が意識せずに強いられている生きづらさのようなものに焦点がうつり里佳の成長物語に、最後は里佳の周りの人間関係もみんな交じり合って、全員知り合いになって、仲良くなって、ハッピーエンド。出てくるバターを使った料理がおいしそうでエシレバターも食べたくなった。
2017年4月新潮社刊
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吉田修一著「ウォーターゲーム」

2020-04-19 | や・ら・わ行
「太陽は動かない」「森は動かない」と続く産業スパイ「AN通信」鷹野一彦シリーズ第3弾のサスペンス。このシリーズ共通テーマとも呼べる「生き残る」。前作が主人公鷹野一彦17歳のころの青春物語なら今回はその後の産業スパイとなった鷹野の活躍が描かれる。「情報」が売り買いされる現代社会の中で、産業スパイが生き抜くには、誰よりも早く有益な「情報」をいかに入手できるか。そして得たその「情報」をいかに生かすことができるかが重要。さっきまで味方だった相手が敵になり、また逆に必要ならば敵を味方にすることもありえる。騙し騙される日常では「誰のせいでもないことばかりで成り立っている世界」と割り切った生き方にと流されれることになってしまうのだが・・・。まるで映画を見てるようなスピード感ありの展開で一気に読めました。第一作から読むことをお勧め。
「情報というのは宝ですよ。宝探しに秀でた者がこの世のなかを制する」
「どんなことにも突破口はある。それを考えるんだ。これからお前がこの世界で生き残るために必要なことはたった一つ。考える、それだけだ」
「こいつを助けてやるなんて無理だと思う。でも、今日一日だけなら救ってやれる、とも思う。一日、そしてまた一日。それなら続けられそうな気がする」(本文より)
2018年5月幻冬舎刊 
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柚木裕子著「凶犬の眼」

2019-09-18 | や・ら・わ行

ヤクザの仁義なき戦いと警察小説が融合した「孤狼の血」シリーズ続編。平成二年、前作で広島県警呉原東署暴力団係として活躍した日岡秀一巡査は、僻地の駐在所勤務になっている。懲罰人事だ。田舎の駐在所の日岡は、穏やかな毎日に虚しさを感じていた。そんななか、懇意のヤクザから建設会社の社長だと紹介された男が、敵対する組長を暗殺して指名手配中の国光寛郎だと確信する。彼の身柄を拘束すれば、刑事として現場に戻れるかもしれない。日岡が目論むなか、国光は自分が手配犯であることを認め「もう少し時間がほしい」と直訴した。男気あふれる国光と接するにつれて、日岡のなかに思いもよらない考えが浮かんでいく。

前作が広島抗争なら、今度は暴対法成立前夜の山一抗争がモデル。正義とは何か。仁義とは何なのか。国光は裁判で、「敵対組織の幹部を殺したのはヤクザとしてやらなければならない当然のことをやったまでだ・・・ただ、亡くなった人たちの冥福は祈ります。それが仁義というものだ。」(P310)。日岡は「捜査のためなら、俺は外道にでもなる。」とある決心をする。日岡の成長物語として面白かった。週刊誌の記事やマスコミの報道は、すべてを伝えるものではないのでこの小説は、その見えない部分のドラマを堪能できる。警察vsヤクザの意地と誇りを賭けたドラマでした。

20183KADOKAWA

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薬丸岳著「蒼色の大地」

2019-09-13 | や・ら・わ行

運命に抗え。時は明治。海賊と海軍の戦争が生む狂気の中を、友情、恋慕、嫉妬、裏切り、三人の運命が交錯する。19世紀末。かつて幼なじみであった新太郎、灯、鈴の三人は成長し、それぞれの道を歩んでいた。新太郎は呉鎮守府の軍人に、灯は瀬戸内海を根城にする海賊に、そして鈴は思いを寄せる灯を探し、謎の孤島・鬼仙島にたどり着く。「海」と「山」。決して交わることのない二つの血に翻弄され、彼らはやがてこの国を揺るがす争いに巻き込まれていく。

時の支配者の手の及ばない治外法権の島という設定し、青い目を持つが故に青鬼と呼ばれ不当で激しい差別を受ける「海族」が難を逃れて住み着き、島の支配層となっているという展開。細かな事を無視し明治時代と戦時中を背景にした、対立する「海」と「山」の部族の冒険物語と思えば楽しめますが鈴の無鉄砲さ甘さなど色々気にしだすとつまらない作品かも。

2019年5月中央公論新社刊

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吉田修一著「続 横道世之介」

2019-06-09 | や・ら・わ行

バブルの売り手市場に乗り遅れ、バイトとパチンコで食いつなぐこの男。24歳の横道世之介、が主人公。彼はいわゆる人生のダメな時期にあるのだが、彼の周りには笑顔が絶えない。鮨職人を目指す女友達浜本、大学時代からの親友コモロン、美しきヤンママ桜子とその息子亮太。そんな人々の思いが交錯する27年後。オリンピックに沸く東京で、小さな奇跡が生まれる。・・・

世之介以外は、前作とはまったく違う登場人物が出てくるが、誰かに向ける言葉だったり、世之介がかけられる言葉だったりで前作とのつながりを感じる。善良とは「正直で性質のよいこと。実直で素直なこと。また、そのさま」。

「彼と出会った人生と出会わなかった人生で何かが変わるわけではない。それでも彼と出会えたことで、なぜか自分がとても得をしたような気持になってくる」

「世の中がどんな理不尽でも、自分がどんなに悔しい思いをしても、やっぱり善良であることを諦めちゃいけない。」(P409)

次の続編は30代の世之介か?

20192月中央公論社刊

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