メランコリア

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現代子ども図書館 15 きみのいきたいところ イーディス=ネズビット/作 学研

2024-04-28 11:59:50 | 
1973年初版 1975年 第10版 吉田新一/訳 岡本颯子/絵

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『砂の妖精』ほかですっかり気に入ったネズビット作

今回初めて知った岡本颯子さんのイラストが素晴らしい!
美しい色をつけた挿絵がふんだんに入っている

岡本颯子(おかもとさつこ)
1945年生まれ 武蔵野美術大学芸能デザイン科卒
雑誌、広告などのイラストレーターとして活躍
バレエの脚本、舞台装置、衣装などを手掛ける

「現代子ども図書館」は全20巻あるらしい
杉並区立中央図書館に全巻あるなら借りてみたい



きみのいきたいところ
毎年、夏は海岸へ避暑に行くのに、嫌いなトマス叔父とセリナ叔母が来て中止になり辛いセリムとトマシナ
ロンドンの暑さにいら立っていると、赤と緑のゴムまりが話しかけてくる








「嫌いな人のいない海岸に行きたい」






ゴムまり:
わしのしているように、弾んでごらん! わしのあとについておいで
世界中でいちばん楽しいところへ
“きみのいきたいところ”っていうところ







2人が海岸に着くと、ゴムまりは岩陰で眠る
バスケットにはお弁当が入っていて、息もつかずに食べる







アザラシ:
ここではいけないことは何もないんだ
きみらがいい子でいさえすればね

アザラシの兄が脱いだばかりの(!)服を着ると体にぴったり合う

丘でウサギと玉あそびをする

トマシナは母がいつもの頭痛をおこしていなきゃいいと心配すると
まりは水たまりに家の客間を写して、無事なことを確かめる







いっしょに床の片づけをしてケンカになる
セリム:床の片づけなんて女の子の仕事だぜ
トマシナ:召使いのやる仕事よ お嬢様のすることじゃなくてよ

すると、大きな女中が現れて、夜7時には寝るよう言いつけ
黄色い石鹸で体を洗われて、ひりひり痛む







砂で体がザラザラして怒った2人
砂がもりあがり、更衣車が出てきて
「わたしを通らないで水浴びをしてはならない」と命令する







2人は花の咲く森で遊ぶ
トマシナ:ああ、帽子が欲しい
2人はもと着ていたゴワゴワする洋服になる








満足していたのはたった半日で、わがままを言ったために悲しい目に遭う

小さな光る羽をつけた妖精が現れるが
セリム:妖精なんてウソっぱちにきまってるよ
妖精は警官に変わり、遊ぶ2人を監視する







ゴムまり:
君たちは、なんて愚かで、わがままな子どもたちなんじゃ
せっかくのチャンスをめちゃめちゃにした上
“きみのいきたいところ”をこんなくだらん海岸の避暑地にしてしまって

怒ったセリムはナイフでゴムまりをぐさりと刺して、まりは死んでしまう
海のあった所は家の裏にある鉄道線路に変わり
砂浜は舗装道路、緑の丘は2人の家に変わる







悪い子は自分ひとりだけ苦しめば済むわけにいきません
一緒に苦しまなければならないのは、その人をいちばん愛している人なんです




青い山
アンテオケという町の人々は、顔が黒く、背が低く、気が短い
トニーは祖父のトニーに似て色が白く、一日中ニコニコ笑う大人しい子のため
かあさんは心配しすぎて死んでしまった
とうさんは、ほんの数週間前、戦争で死んでしまった







人々はいつも大急ぎの用事に追われて、滅多に休まない

アンテオケの王さまアントニー13世は、いちばんせかせかしていて
玉座に座らず、いつも町を監視している







アンテオケはいつ地震が起きてめちゃめちゃになるか
ごくまれに熱い雨の嵐が襲うか分からない

祖父は町の記録保管係で、墓石に彫ってある文字を読むと

魔術師ヘンリー・バーベック ここにねむる
身分いかにいやしかろうとも
さいごにおこないし予言は適中せん とある







バーベックの予言は当たらないため、みんなバカにしていたが
王さまだけが信じていた

トニーが墓石を磨くと、トニーが治世と関係する予言を見つけたため
王さまに知らせる

トニーが青い山のミルクを飲むと
絹の晴れ着を着て、この国最大の巨人となり 町を支配する

王さま:
私はトニー13世である
トニーという名は私のほかにおらんはずじゃ

祖父は慌てて、出生登録簿の自分の名を変える
孫のトニーは、自分もトニーだと言ったため、議長の職杖で叩かれて檻に入れられ
どうもうな大アザラシに踏みつけられる(w







その後、地震が起きて、大きな森の奥に巨人が現れる
手に盛った茶碗にミルクが入っているのを見て
巨人の少女が墓石に書かれた“青い山のミルク”だと分かる









王さまに話すと、貴重な茶碗を渡され、そこにミルクを入れて持ってこいと命令される

トニーは青いスカートにのぼり、茶碗のふちに立つと
足を踏みはずして、中に落ちる







ミルクを茶碗にくむと、巨人は木の幹を刺してくれて
トニーがつかまると、わきに放り投げられる

そんなに苦労したのに、王さまは「これは毒かもしれん」と疑い
茶碗にヒビを入れたこと、名前を変えなかったことで牢屋に入れる







裁判で問い詰められ、トニーはミルクを自分で飲んで証明しようとする






トニーはぐんぐん大きくなり、巨人の少女より背が高くなる






少女:あなた、どこから飛んできたの?
トニー:この下の町から

少女:
この下はアリ塚があるきりよ
私、あなたがお隣に住んでいるのを知ってるわ

トニーは王さまを見つけると、犬の耳に入れる

少女にぜんぶ話すと

少女:
いまのお話はとても面白かったわ
そういえば、昨日、私のパンミルクにアリが1匹落ちてきたわ



さかなになった少年
ケネスは4人のいとこが住んでいる家に泊まることになる
21歳のエセル、コンラッド、アリスン、ジョージ8歳

朝目が覚めると、窓から堀に釣り糸をたらす
釣り針は小間使いが貸してくれたヘアピンで
エサはウィンザーせっけん

コンラッド:魚はせっけんを食わないぜ







いとこの父が釣り竿を貸してくれて、釣りを楽しむ





夕方、叔父夫婦は出かけたため、子どもたちだけで遊ぶ
アリスン:お堀のそばで川べの野外劇をするのよ







みんなは衣装箱からいろんな衣装を出して身につける

もやい綱をつけたボートに乗り、アリスンの考えたセリフを言って芝居をする
アリスンはエセルの宝石箱から勝手に持ち出した宝石を身につけて姫の役を演る

姫:私はあなたとともに生きて、あなたとともに死にます








ケネスに大きな紫水晶の指輪を渡し
ラテン語で♪けがれなきいのち をみんなで歌う

料理番が迎えに来て、寝る時間になり
アリスンは宝石をそっとエセルの部屋に返す

翌日、母に1人ずつ呼び出されて、宝石でいたずらしたのは誰か聞く
もめごとが起きると、子どもたちはいつも「何も言いたくない」と言って逃れる

叔母はケネスが指輪を盗んで失くしたと決めつける
ケネス:ぼくはしません

叔母:
悪いことをした上、ウソをつくのはやめなさい
今日はピクニックに連れて行きませんから
帰ってくるまでに、あなた自身で探しなさい
あなたのいとこたちに口をきくことを許しません







ケネスは指輪をアリスンに返したことは覚えているが
あらゆる場所を探しても見つからない

ボートに乗ると、指輪が堀の底にあるのを見つけて
乗り出したせいで水に落ちる







堀でコイの主に会って、喋れることにビックリする

コイの主:
魚が水の中で喋れなければ、話せんじゃないか
水から出たら、話どころの騒ぎではない(w







これまでのことを話すと

コイの主:
水の中にはウソをつくものはおらんからな
人間というやつは、いつもどうしてそうせっかちに人を疑るんじゃろう!
お前はまったく運がいい
魚になれる子は100万人に1人もおらんからな

ケネス:
水から出れば、人間に戻れますか?
ここからぜひ出たいんです

コイの主:
上から釣り針で釣ってもらうしかない
夕方涼しくなると、庭師のせがれが魚を釣りに来る







コイの主に指輪をヒレにはめてもらい
いかにも美味しそうな虫に食いつくと
激しい痛みが頭を突き抜けて、空中に引っ張り上げられる







叔父がケネスを水から引き出し、叔母は急いで介抱してくれる
事情を知ったアリソンは、指輪を持ち出したのは自分だと告白







翌日、ケネスはアリソンを責めないでほしいと頼む
ケネスは釣りをして、コイの主がかかる

叔父:アルコール漬けにしてとっておこうか
ケネス:それはダメです 今度は僕が水へ戻るのを助けてあげる

アリソンは泣いてケネスに謝る
ケネス:いや、僕はとても愉快だったんだよ





あとがき ファンタジーの古典
ネズビットの『鉄道の子どもたち』はイギリスで映画化された

ネズビットの作品はリアリズムとファンタジーの2つの系列がある
20世紀のイギリスの児童文学をさかのぼると、ネズビットに行きあたるので
源流であると言われている

本作は『9つのありそうもない話』と『まほうの世界』からとった
世界を相対的な視野で見ることの面白さと意義を教えている

大人のエゴイズムや、子どもに対する無理解が鋭く突かれていて
人間に対する批評精神が光っている



読書のてびき 今村秀夫
小学校の子どもだけでなく、家族で読むことをおすすめする

本作の主人公はアリや魚に変身するが、テレビなどで流行りの変身ものとは違い
スーパーマン的ではなく、むしろ弱い者へ変身することで気づくことが多い
釣り好きのケネスが、釣られる魚の痛みを知るという風に

大人は物事をまず疑ってかかるのに、子どもはまず信じてかかることも違う

非日常的な世界に飛び込み、現実の世界を見つめ、考えさせるファンタジーのよさは
何歳になっても捨てがたい



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