メランコリア

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福音館古典童話シリーズ 10 さらわれたデービッド R・L・スティーブンソン/作 福音館書店

2024-04-14 15:36:50 | 
「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


『宝島』同様、読み始めたら止まらないほど
たくさんの冒険が詰まった長編で夢中になる
ロードムービーのような長編を書ける文才が素晴らしいなあ!

私は歴史がニガテだから、当時の入り組んだ派閥、家柄、土地柄、人名などは
さっぱり頭に入ってこなかったけれども
それらを抜きにしても、十分面白い

ヒトの足だけで、どれほどの距離を歩いたのかなあ
大阪から東京に向かうくらい?



 



とくに、日本でなじみのない食べ物がたくさん出てきて興味深かった

叔父と伯父では意味が違うんだ/驚
“両親の「姉・兄」にあたる場合は「伯母・伯父」、両親の「妹・弟」にあたる場合は「叔母・叔父」”


【内容抜粋メモ】

登場人物
デイビッド・バルファ 幼くして母を亡くし、その後、父が亡くなる
父アレクサンダー
キャンベル牧師
エビニーザ おじ
ランキーラー弁護士

カベナント号
ホージアスン船長
一等航海士 シュアン
リーアク
船室付きボーイ ランサム

アラン・ブレック



●ショーズ屋敷へ旅立つ
1751年 父が亡くなり、デイビッドはお世話になった牧師キャンベルさんから聞いた
親戚を頼って旅に出る

キャンベル牧師:わしらに恥をかかさんでくれよ









エジンバラに着いて、ショーズ屋敷がどこかと聞くと
みなぎょっとした顔になる

馬車ひき:ショーズ屋敷なんかによりつかねえほうがいい

まるで廃墟のような屋敷を見て
お金持ちの親戚と聞いて、期待していたのに、ガッカリする







やっと玄関を開けてくれた男は、らっぱ銃をつきつけて
デイビッドが名乗ると、落ち着かない様子

伯父:おまえのおやじは死んだのか?








●伯父と対面
エビニーザ伯父はポリッジ(砂糖と牛乳で粥のように煮たオートミール)をすすめる
デイビッドを部屋に案内するが、真っ暗闇でもけして灯りをつけようとしない








翌日もお互い、打ち解けず、ぎすぎすした空気のまま

エビニーザ伯父:
お前にも、するだけのことはちゃんとしてやるつもりじゃ
わしのものはお前のものだし、お前のものはわしのものじゃ

将来、デイビッドにやると約束した金があると、40ポンド渡して
屋敷と庭の仕事を手伝ってほしいと話す

エビニーザ伯父:屋敷のはずれの塔に入り、階段のてっぺんにある箱をおろしてくれ

中は真っ暗で、稲光で階段が途中からないことに気づく









エビニーザ伯父が自分を殺すつもりだと分かり、問いただすと
エビニーザ伯父:明日の朝話してやるよ



●クイーンズフェリーへ行く
船員服を着た少年ランサムが来て、カベナント号のホージアスン船長の手紙を渡す
今日にも出航する予定だから、碇亭に来てほしいとのこと

伯父はデイビッドにもついて来るよう誘う
伯父:ついでにランキーラー弁護士とも話そう

船室付きボーイのランサムは、下品な話し方で
空威張りする様子を見て情けなく思うデイビッド

彼が言う『20ポンド組のやつら』とは、北アメリカに奴隷に売られる不幸な囚人や
誘拐された子どもたちのこと







船長と伯父が話している間、デイビッドはランサムと飲んだり食べたりする
碇亭主人:エビニーザがアレクサンダーをぶっ殺したようなもんだ

父のほうが長男で、自分こそが正当な遺産相続人だと知る

船長:引き潮になるまで、わしの船に遊びに来ませんか

デイビッドは用心していたにも関わらず、ずっと山暮らしで海や船が珍しかったため
言葉にのってしまう

叔父はボートで戻るところで、デイビッドは船員に殴られて気を失ってしまう



●ブリッグ カベナント号で海へ乗り出す
気づくと、手足は縛られ、暗い船底に横たわっている
初めての船で酔い、高熱を出し、食欲もなく、ぐったりしているのを見て
同情したリーアクは水夫部屋に移す







甲板に上がることは禁じられたが、水夫部屋は広く、たくさんの水夫たちと親しくなる
口より先に手が出るような連中だが、根っからの悪人というわけでもない

自分たちの間で分けてしまったデイビッドのお金の一部を返してくれる
デイビッドは植民地奴隷として売られたと分かる

リーアクに身の上話をすると驚き

リーアク:
有為転変は世のならいってやつだ
オレだって地主のせがれで、医者だが
ホージアスンの手下になりさがってるわけさ



●後甲板室
一等航海士シュアンが酔った挙句にランサムを殴り殺してしまった

デイビッドはランサムの代わりに後甲板室で働いてくれと頼まれる
後甲板室には、高級船員の持ち物、武器、食べ物、飲み物の貯蔵室もある

船長:
今夜のことは絶対にダイサートに知られちゃいかん
あの小僧は海へ落ちたんだ

デイビッドは船員にダフ(練り粉を袋に入れて茹でたまんじゅう)やオートミールの粥などを出す







●胴巻に金貨を入れた男
濃い霧がたちこめ、カベナント号はボートにぶつかる
ボートに乗った船員は海へ落ちたが、運の強いアランひとりだけ助かる







アラン:
45、6年の内乱に加わった
いまフランスへ向かう途中で、行く先の海岸におろしてくれればお礼は十分しますよ

ジャコバイト:
1688年のイギリス名誉革命で王位を追われてフランスに逃げたスチュアート家のジェームズ三世の側について
イギリス王ジョージ一世を倒そうとした一派

ホイッグ党員:ジョージ王に味方する一派

船長と相談して60ギニーで手を打つ

船長はアランを殺して、全額奪う計画を練り
デイビッドに後甲板室からピストルを取ってくれば、分け前をやると約束する

デイビッドは人殺しに加担するまいと思い、アランに計画を話す

デイビッド:
ここにいる奴らはみな人殺しです
私は泥棒でも人殺しでもない あなたの味方になります

アランは剣術に大した自信があり、デイビッドに持てるだけのピストルを持たせる








後甲板室には3人の死体が転がる






●船長が降伏する
酒も食べ物も貯蔵室にあるため、ごちそうを食べる
アランは上着の銀ボタンをデイビッドに渡す

アラン:
これをくれたのは、おやじのダンカン・スチュアートだ
どこへ行っても、これを見せれば、オレの味方が集まるぞ

船長らは降伏し、最初の約束通り、アランを上陸させたら60ギニーやる取引は有効とする



●「赤ぎつね(レッド・フォックス)」のこと
デイビッドはアランに身の上話をする
アランはキャンベル家を憎んでいる

アラン:
キャンベル一族は、長い間、オレと同じ名を名乗るものを苦しめてきた
いちばん肝心なのは領主アードシール殿の用事だ
王家の血をひいてるお方が、今は身を落として
フランスの町で貧しい平民同然の暮らしをなさっておられる

一族から武器を取り上げたキャンベル家の1人
赤毛のコリンをレッドフォックスと呼んで心底憎んでいる



●ブリッグの沈没
トーラン岩礁で暗礁に乗り上げて、デイビッドは海へ落ちる
世間では、三度沈めばおしまいと言われるが、帆桁にしがみついて波にもまれ
ようやく岸にたどり着く



●小島
夜中の12時 カベナント号は沈んだと見え、荒れ果てた小島に1人で迷う
デイビッドは周りにある2種類の貝を食べて、遠くにある農家の煙を見て心を癒す







近くを平底船が通りかかり、叫んで救いを求めるが漁師らは笑いながら過ぎていく
翌日、また同じ船が来て、漁師はげらげら笑いながらゲール語で話す
潮が引いたらマル島に歩いて行けると教えてくれる








●銀ボタンを持った若者 マル島横断
岩を越えて、郷士にアランからもらった銀ボタンを見せると
郷士:あんたの友だちの国までトロセイを通って追いかけてくるように言ってたぞ







図々しいペテン師は、トロセイまで案内すると約束したのに
ちょっと歩いては金を要求する始末

“めくらの”伝道師:金をやりすぎた! わしならブランデー1杯で案内する







マックリーン一族の宿で主人とすっかり仲良くなり
あの伝道師は殺人罪で訴えられたこともあると話す



●銀ボタンを持った若者 モーバン横断
入り江を渡り、船長にアランの名前を出すと助けてくれる
船長:絶対口に出しちゃいかん名前がある それはアラン・ブレックだ

途中でキャンベル牧師を知る伝道師ヘンダーランドさんといっしょに歩いて親しくなる
家に招かれ、おかゆとホエー(チーズを作る時、凝乳と分離した液)をごちそうになる







ヘンダーランド:
私たち人間には、けしておろそかにしてはいけないことが2つある
心の優しさと、つつましさだ



●「赤ぎつね(レッド・フォックス)」の最期
ようやくアランの故郷、アッピンのレターモアに着く
このまま自分の故郷へ帰ったほうがいいのでは?という思いもわくが
とことん冒険してやるぞと覚悟を決める

3人の男が通りかかり、その1人が「赤ぎつね」と分かり驚いて
オーハーンへの道を聞く

丘の上から銃声がして、赤ぎつねは目の前で倒れる
デイビッドは「人殺し!」と叫びながら犯人を追うが
赤ぎつねの連れの弁護士と役人はイギリス兵を呼び、デイビッドが共犯だと叫ぶ







アランが現れ、さんざん走って兵をまく



●レターモアの森でアランと語る

アラン:
おれは絶対に今度のことにはかかり合いはない
キャンベル家の1人が射殺され、キャンベル家の首領が裁判長になれば
2人は絞首台を逃れられない
オレといっしょにヒースの野原に身を隠すか、縛り首になるかだ








●恐怖の家
グレン家のジェームズを訪ねると、赤ぎつねコリン・ロイが死んだことで
自分たちの身も危ないと震える

ジェームズ:
わしは妻子ある身だ
わしはあんたの首に賞金をかけねばならん
あんたはスコットランドを離れにゃならん

コリンを撃ったのはカメロン家の者だと見当はついているのに
2人は彼らをかばっている








●荒野の逃走 岩
2人はグレンコーの谷間に着くが、アランは道を間違えたと謝る
岩の向こうにはイギリス兵が野営している

火をおこせないため、ドラマック(ひきわりのからす麦に水をまぜたもの)を食べる








●荒野の逃走 コリネイキーの洞穴
アランは十字架をつくり、コアリスナコーン部落にいる親友マッコールを呼び
ジェームズにお金を送るよう手紙をことづける







ジェームズらは殺人に共謀した嫌疑で牢に入れられていたが
なけなしのお金をかき集めて送ってくれる

デイビッドとアランの人相書きも出回っている



●クルーニの巣窟
荒野でクルーニの手下に出くわす
ボリッチ一族の首領クルーニ・マクファーソンの首にも賞金がかかっているが
隠れ家の1つである絶壁で暮らしている







1人で退屈しているため、早速トランプ遊びに誘うが
デイビッドは父から下品だからやらないようしつけられたと話すと機嫌を損ねる

デイビッドが寝込んでいる間に、アランはトランプで負け続け
デイビッドから金を借りて、その金もぜんぶすってしまった








●荒野の逃走 いさかい
2人はラナッホ湖近くの隠れ場所に向かう
アランは金をすったことを謝るが、デイビッドはアランと自分に腹を立てる

デイビッド:私は生まれてから一度も友だちを裏切ったことはない

デイビッドは死ぬほど疲れ、気分が悪く、とうとうアランとケンカして剣を抜く
アラン:いやいや、おれにはできん

デイビッド:
あなたが助けてくれなきゃ、私はここで死ぬしかありません
もし死んだら、私を許してくれるでしょうね
私はあなたがとても好きだったんです かんかんに怒っていた時でさえ
私たちはどっちも相手の悪い所を直すなんてことはできない

アラン:オレが君を好きだったのは、君がけしてケンカをしなかったからだよ



●バルフィダーで
領主のいない民があふれて、たえず争っている土地に入り
デイビッドが担ぎ込まれたのは、運よくマクラレン一族の家で
1か月も養生すると、また旅に出ることができるほど回復する

悪名高いロブ・ロイの息子の1人ロビン・オイグが訪ねてきて
兄の手当をしてくれた軍医が同じ姓だと聞くが
デイビッドは親戚のことはまったく知らないためガッカリする

アランと剣で殺し合いになりそうなところを
主人のダンカン氏は2人ともバグパイプの名手だから演奏で競わせる

ロビンはアランの大のお気に入りのピーブロッホ曲を見事に吹き
アラン:あなたはたいした名人だ! 2人はひと晩中演奏する








●逃走終わる フォース川を渡る
有り金が尽きて、先を急がねばならなくなる
フォース川を渡れば、ランキーラー弁護士の家がある

アランは居酒屋にいた若い女中さんを騙してボートを貸してもらおうと思いつく
デイビッドは体を悪くして、ランキーラー弁護士に会いたくてもボートがないと話すと
同情して、ちゃんと秘密を守り、夜中に家を抜け出してボートを漕いでくれる








娘があまりに純真で、後悔と感謝の気持ちでいっぱいになる2人
アラン:ほんとにいい娘だったな



●ランキーラーさんをたずねる
デイビッド1人でランキーラー弁護士を訪ねる
デイビッド:私はショーズ家の土地をもらう権利があると信じております







叔父のたくらみにひっかかって、誘拐され、船が難破してマル島に着いた話をする

ランキーラー弁護士:
話のつじつまが合わなきゃ君の味方にはなれんよ
君が海で災難に遭った日に、キャンベルさんが事務所に来て、手をつくして調べてくれと頼んでいった
エビニーザさんは君にかなりの金を渡し、学問を身につけるためヨーロッパに出発したと言っていた
ホージアスン船長は君が溺れ死んだと話した

デイビッドがアランの名を出すと

ランキーラー弁護士:わしは耳が遠くて、その名前を正確に聞いたかどうか分からんのだ ととぼける

アランに“トムスン”という名をつけて

ランキーラー弁護士:
この人は君の本当の分身だった
『たえず同じ道を歩んで』いたわけだ
君の苦労もそろそろ終わりに近づいたようだ




●遺産を求めて
ランキーラー弁護士は、昔、叔父と父が同じ女性を好きになり
のちの母がアレクサンダーを選んだために
エビニーザは病になり、性格もすっかり変わってしまったと話す

結局、父は女性をとり、叔父は財産をとったが
町の人は、裏で殺人があったと噂して、誰も相手にしなくなった

ランキーラー弁護士:
土地はもちろん君のものだが
25年も住んだ家は叔父に住まわせておいたほうがいい

書記のトランス氏をともなって3人でアランに会う
ランキーラー弁護士はメガネを忘れたからはっきり見えないとここでもとぼけるw








●勝利をおさめる
アランだけがエビニーザと会い、マル島の近くでデイビッドを拾い
閉じこめてあるが、いくら出す?とふっかける

エビニーザ:身代金など払うつもりはない







それじゃ殺すかと脅すと、生かしておいてくれ!と頼む
アランはホージアスン船長にデイビッドをいくらで売ったのか聞くと
20ポンド払って、キャロライナで売るつもりだったと白状する

そこに弁護士、トランス氏、デイビッドが現れ、エビニーザはすっかり気が抜ける
相談の上、デイビッドにショーズ家の年収2/3を支払う約束をつける



●別れ
アランを国外に逃がしたいと相談すると
ランキーラー弁護士:神の名にかけて、自分が正しいと思うことをやりなさい
弁護士は、相応の検事を紹介する

デイビッドはアランに船を用意して、2人は「さよなら」と言葉少なに別れる










あとがき

ロバート・ルイス・スティーブンソン
1850年 エジンバラ生まれ
祖父も父も燈台建築技師 母は牧師の娘

生まれつき体が弱く、転地療養のため、何度も外国を旅行した
その後も友人と船で西海岸を周ったり、父と高地を旅したこともある

本作は英国18世紀の歴史的事件を背景として書かれた歴史小説であり冒険小説でもある
スティーブンソンはスコットランドに生まれ育ち、ほうぼうに旅行したことが活かされている

『アッピン殺人事件』に関係する「ジェームズ・スチュアート公判記録」を読み
インスピレーションがわいて書いたとのこと

スティーブンソンは一応弁護士を開業したが、客はなく
肺結核の療養のためにエジンバラとフランスを往復

夫と子どものあるアメリカ人のファニー・オズボーンと愛し合い
3年後にはアメリカに渡り、周囲の反対を押し切って結婚
妻と義理の子とともにエジンバラに帰り、その後も転地しながら文筆した

『南海もの』を書くため、南海諸島を巡り
ウポル島に安住し、余生を過ごした
土民から「ツシタラ」(物語をする人)と呼ばれて尊敬された

1894年 突然、脳出血で倒れ、44歳の生涯を閉じた(若かったんだな!

サモア諸島でのスティーブンソンの生活は、日本のツシタラともいえる中島敦が
『光と風と夢』で書いてる

夏目漱石が高く評価しているのは、優れた文章家ということ

デイビッドとアランのその後の物語は『カトリオナ』に書いている



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