メランコリア

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ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

福音館古典童話シリーズ 23 ジャングル・ブック R・キップリング/作 福音館書店

2024-04-07 16:42:24 | 
1979年初版 1990年 第12刷 木島始/訳 石川勇/画

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


これほど有名な名作なのに原作を読んだのは初めて
オオカミがヒトの子を育てるって、本当にあり得るのかなあ?

あらゆる動物たちが誇りを持って生き
同じことば、もしくはテレパシーかなにかで交流している様子を
まるで見てきたかのように描いた素晴らしい作品

ときどき挟む詩は、以前読んだインディアンの歌みたいだ



【内容抜粋メモ】

登場人物
かえるのモーグリ
アケーラ 灰色の一匹オオカミ
クマのバルー
黒ヒョウのバギーラ
ゾウのハーティ
ニシキヘビのカー 体長9m

バンダー・ログ サルの群れ
トンビのチル
コウモリのマング
ヤマアラシのイッキ

片足のトラ シアカン
メシュア モーグリの母



●おおかみのなかまいり
シオニーの丘で4匹の子どもオオカミを育てている夫婦の前に
山犬タバキが来る

タバキは狂犬病でときどき狂ったようになるし
ケンカの種をばらまき、ゴミを食べているため軽蔑されている

トラのシアカンが狩り場を近所に変えたと教える
片足が不自由で家畜やヒトの子を狩って食べたりしている

ジャングルの掟に、人間を食うことは禁止されている
1人でも殺すと、鉄砲や松明を持って来て
ジャングルの仲間が苦しむことになるから

そして、あらゆる生きものの中で、ヒトが一番守るものを持っていないから

母オオカミのもとに、やっと歩ける赤ん坊がやって来て
怖がるどころか、子オオカミと一緒に乳を飲み始める

シアカンが巣に頭をつっこんで、ヒトの子をよこせと脅す








母オオカミ:
私はラクシャー(鬼神)だ
私はあれを育てて、あまえさんの狩りをやらせる

母オオカミはヒトの子に“かえるのモーグリ”と名付ける

オオカミの仲間の会議に他の子といっしょに紹介する

クマのバルーはモーグリに掟を教えると誓い
黒ヒョウのバギーラも1頭の雄牛をつけて弁護に立つ

群れのリーダーで灰色の一匹オオカミのアケーラ:
人間の子どもはとても利口だ
いつかきっと助けになってくれるだろう



●カーの狩り





バルーはモーグリにジャングルの掟、さまざまな動物たちのあいさつなどを教え込む
モーグリは泳ぎも木のぼりも上手く、森の掟、水の掟、合い言葉もぜんぶ覚える


生き物共通の挨拶:おまえとおれは、ひとつの血のもの


別れの挨拶のことば:みんなに、いい狩りがありますように


サルのバンダー・ログが食べ物をくれて、血のつながる兄弟だと言ってくれたが
ジャングルの仲間たちは、彼らをうそつきで
人間のマネをしたがる愚か者と蔑み相手にしていないため
付き合うんじゃないと教える







バンダー・ログらはモーグリが枝などで小屋を作るのを見て
モーグリをリーダーにすれば、ジャングルで一番賢くなれると思い
ある日、突然、モーグリを群れから群れへと木の間を投げて連れ去る

モーグリはトンビのチルに挨拶し、バルーらに居場所を伝えてくれと頼む

長寿でものしりなニシキヘビのカーは皮のぬぎかえの後だったが
バンダー・ログが彼のことを「黄色いミミズ」と悪口を言っていたことを伝えて
モーグリが今どこにいるか教えてほしいと頼む

そこにトンビのチルが来て、モーグリが「冷たいねどこ」に囚われていると教える
そこは昔、ヒトが住んでいた“滅びた町”

バルー、バギーラ、カーはサルたちをなぎ倒し、傷だらになってモーグリを救い出す
バンダー・ログが一番怖れるカーが現れると蜘蛛の子を散らすように逃げて行く

カーは殺したサルたちを次々と丸呑みしていく/汗
モーグリはいつか恩を返すとお礼を言う








●恐れのあらわれかた
冬になり、ジャングルには雨がほとんど降らず
厳しい暑さに変わり、草木はほとんど枯れてしまう

鳥やサルはとっくに北に移動した
トンビのチルだけは腐った死肉をたくさん食べて太っているが
モーグリはカブトムシの子を食べたりして、すっかり痩せ細る

“平和の岩”が見えた頃、ゾウのハーティは“水辺の休戦”を宣言する
草食動物も肉食動物も同じ水辺を共有し、絶対殺しをしないこと

近くの村の人々も飢えで死んでいく
シアカンはまたヒトを襲って食べた
シアカン:あっしの夜だったんだから、あっしの権利でしょう

長寿のハーティがその権利の理由を話して聞かせる
大昔、みんなは平和な仲間同士で、草木を食べて生きていた

ゾウの先祖がジャングルをつくり、トラの先祖を裁判官にした
ある時、2匹のシカが争い、トラの先祖はその首を折って殺してしまった
それからは互いに殺し合うようになった

代わりに灰色ザルがリーダーとなったが、ジャングルの掟は乱れ
“恐れ”がリーダーとなってしまった

洞穴に住む人間を襲おうとしたトラを覚えていた草木が
その体に縞模様をつけて、トラにシカ殺しの印をつけた

ゾウの先祖ターは、毎年ひと晩だけ、ヒトがトラを怖れる日をつくると約束した
トラはヒトを襲って食べたため、ヒトは殺すことを覚えてしまった

ゴンド土人は槍でトラを突き刺した
その後、落とし穴、隠し罠、鉄砲、赤い花(火)で動物を追い立てるようになった

モーグリは自分は人間ではなく、“自由なものたち”(オオカミ)なのだと言い張る
モーグリは自分が見つめると、動物たちはなぜか怖れて目をそらすことに気づく



●赤い花
アケーラは年をとり、若いオオカミらがリーダーの座をめぐって反乱を起こす
同時に、シアカンの言う通り、モーグリはオオカミの仲間ではないという

バギーラは自分がウーダイボーの宮殿で生まれ育ったことを明かす







バギーラ:
オレでさえ、お前の目をまともに見ることはできない
オレがジャングルに帰ったように、お前は最後は人間の中に帰らなければならない

バギーラはモーグリに火を持って、反乱するオオカミに立ち向かうよう知恵を貸す
シアカンはモーグリを人間に戻すなら、オレにくれと主張するが
アケーラはモーグリを弁護する

モーグリは火を投げつけると、獣たちは怯える
バギーラ:お前がリーダーだ







モーグリは弱ったアケーラを自由にさせるよう言いつけて
生まれて初めて涙を流す

モーグリ:ボクは人間の所に行こう
父オオカミ:またすぐ戻ってくるんだぞ



●とら! とら!
モーグリは村に行くと、トラにさらわれたメシュアの子どもではないかと噂になる
メシュアは村で一番の金持ちの奥さんで、モーグリに牛乳とパンを与え、ナトゥーと呼んで可愛がる

モーグリはヒトのことばを勉強する
夜になると、窓から出て、兄弟オオカミに会う

3か月経ち、村長はモーグリに水牛の世話の仕事を与える

一番狩りが上手い老人ブルディオは、足の不自由な男の霊が憑いたトラの話をする
ブルディオ:あのトラの皮を持っていけば、100ルピーもらえる

シアカンがとうとうモーグリを襲うという話を聞いて
モーグリはアケーラに水牛を2つの群れに分けるよう指示し
我を忘れた水牛らが群れで走ったため、シアカンは踏みつけられて死ぬ







ブルディオはモーグリとオオカミがトラの死体のそばに立っているのを見て
魔術だ妖術だと言いふらしたため、村人はモーグリに石を投げつける

モーグリ:
オオカミはボクを人間だと言って追い出したが
今度はボクをオオカミだと言って追い出すんだな

アケーラはふたたびリーダーとなるが、モーグリと兄弟オオカミは群れから離れて狩りをする



●ジャングルのなだれこみ
父母にヒトとの暮らしを話してあげると、母オオカミはメシュアに会ってみたいという
ブルディオは村人とともにモーグリの足跡を追って、ジャングルに来る

シアカンを殺したのは自分だとウソをつき
メシュア夫婦を火あぶりにするために牢に入れ
悪魔の子モーグリを殺そうとしているのが分かる

モーグリは村に忍びこみ、手足を縛られた父母の綱をナイフで切る
メシュア:あの子が来てくれるって分かっていたの これで本当に分かったわ、私の息子だって!

公正な裁きをしてくれるイギリス人のいる街カニワーラまでオオカミが案内してあげる

バギーラ:人間なんて、毛なし、歯なし、裸で茶色の土掘り、土喰いじゃないか

ブルディオらが牢を覗くと、中にバギーラがいて驚き、みんな家に閉じこもってしまう

モーグリはハーティを呼び、ヒトが話していたことを聞かせる
昔、逃げたゾウが、夜になり、バートボーの畑で暴れて
ジャングルが村ごと飲み込んだ

ハーティ:
わしと3匹の息子がやったのだ
わしの牙は赤くなった もう二度とあの匂いを呼びさましたくない

モーグリ:あの村をジャングルで飲み込むようにしろ!

モーグリの説得にハーティが動き、やがてすべての動物が加わる
作物はごっそりなくなり、家畜は逃げて野生に還り
独身の男たちがまず逃げだした

雨季になり、崩れた屋根に大水が入り、外まわりの壁を突き崩され
ひと月後には、緑の新芽で覆われた



●王さまのぞう突き棒





モーグリはカーと水浴びに行く
カーは白ずきんのコブラに出会った話をして、人間の子を見せる約束をしたと話す

2人は一緒に「冷たいねどこ」の地下奥深くにいる3mものコブラに会う
長寿なコブラは、代々の王の財宝を守り続けていたが
主人も都もジャングルになった話を信じない







モーグリにとって金銀の財宝は何の意味もないが
あらゆる宝石がついたゾウ突き棒はハーティと関係あるのではと気になって
たくさんのカエルを持ってくる条件を出して持って帰る

白コブラはとっくに毒をなくしていて、モーグリを食べることは叶わず
その棒はたくさんの死を招くと脅す

人間のもとで暮らしていたことのあるバギーラいわく
その棒は昔、ハーティの息子たちの頭に突き刺さっていたのを見たと話す

モーグリは血の臭いに嫌気がさして、30mほど向こうに投げる
その後、人間が棒を持っていったことが分かり、足跡を追うと
次から次へと棒を巡って死体が増えていく

たった数時間の間に6人も死んだことに責任を感じ
モーグリは白コブラに棒を返しに行く
モーグリ:もう二度と外に出さないでくれ



●赤犬
父母オオカミは老いて死んだ
リーダーはパオーナの息子のパオに代わる
バルー、バギーラ、アケーラも年老いて弱くなった

ジャングルで“フィーアル”と呼ばれる悲鳴が上がり
傷だらけのトーラが来て、デカン高原のドール、殺し屋の赤犬の群れが
南からやって来て、生き物を殺し尽くしていると話す
彼らは100匹もの群れで行動するため、ハーティですら道をあける

アケーラ:これはいい狩りになるぞ おれの最後のな

みんなはモーグリを北に逃がそうとするが、モーグリも仲間と一緒に戦うと誓う

長寿のカーにいい案はないかと尋ねると、長い歴史をしばらく思い返して
ある時、オオカミに追われたシカが“死の谷”まで来て逃げきった話をする
“死の谷”とは、無数のハチがかたまっている場所で、動物たちはみな避けて通る

我を忘れて川に飛び込み、オオカミはハチに殺されたことから
モーグリはドールを怒らせて“死の谷”に誘い込み
自分は飛んで、カーのいる川に飛び込むという計画を立てる

モーグリは生き残りが川を下るところを仲間のオオカミが襲うように声をかけて
ハチが嫌いな野生のニンニクの匂いを体中につけ、木の上からドールに悪口を浴びせ
リーダーのシッポをナイフで切って我を忘れるほど怒らせる

ハチの岩場に誘いこみ、川に飛び込むとカーが守ってくれる
カーのウロコはハチの針も通らない







ドールは大量にハチに襲われ、刺されて半狂乱の騒ぎになり
川下で待っていたオオカミとも大乱闘となる

ドールは1匹残らず殺され、トーラ、アケーラもやられてしまった

アケーラ:
オレはおまえのそばで死にたい、ぼうや
おまえはやっぱり人間だよ 人間の仲間のところへ戻っていくがいい


アケーラは死ぬ時の歌をうたって亡くなる



●春にかける
決戦から2年後 モーグリは17歳になった
ジャングルの獣たちは春の“新しい話し合い”の季節を迎える

リーダーなのに孤独を感じて、ジャングル中を駆けまわるモーグリ

村に行き、小屋からメシュアが出て来て、再会を喜び合う
美しく成長したモーグリを見て、“森の神さま”だと思う

父は1年前に亡くなり、弟を紹介するメシュア
オオカミの兄弟が迎えに来ると、メシュアは「必ず帰ってきておくれ」と泣いて頼む

会議に集まったのは、兄弟オオカミ、年老いたバルー、バギーラ、カーだけ
カー:皮を脱ぎ捨てたら、もう一度、入り直すことはできん

バギーラ:
人間はジャングルで追い出さなくても、人間のもとへ戻っていく
2歳児の雄牛がおまえを自由の身にしてくれる
新しい道でもいい狩りを! 忘れるな バギーラはおまえが大好きだったんだ!

それぞれ別れの歌をうたう










あとがき

2冊の原書には、モーグリの出てこない短編もあるが
本書ではそれをはぶいて、時系列に直した

モーグリが人間界へ行ってからの短編も『ルク』で書いている
モーグリは森林管理の仕事をもらい、結婚して子どもが産まれるところまで

“ジャングル”には、森林・砂漠を意味するサンスクリット語
→“ジャンガル”というヒンズー語→英語になった

モーグリはヒンズー語で“カエル”の意味


ラディヤード・キップリング
2度来日して、1889年に来た時の見聞記を新聞に送っている
同行した教授の撮った写真は、アメリカの国会図書館に保存されている

ヨーロッパのマネをした明治憲法には批判的だが
日本人の清潔さ、技芸のたくみさに感嘆した

1892年に新婚旅行で2度目の来日

大英帝国の栄光を信じ、アジア人を文明化するのは、自分たちの責任という考えで
野生を厳しすぎるくらいに調教することに関心が強いことが分かる

長編『キム』は最大傑作といわれる
有名な詩『もしも』


1936年 死去






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