メランコリア

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少年少女サスペンス冒険 2 黒い象牙のみさき ノーマン・リチャード・コリンズ/著 学研

2024-01-07 18:04:54 | 
昭和51年初版 久保田輝男/訳  北村修/絵

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


これまで読んだ船乗りたちの中で一番の荒くれ者だったな
船に乗って、いったん海に出たら、船長を頂点とする完全なヒエラルキーで
どんな国の法律、道徳も通じない世界

しかも奴隷売買となると、さらに壮絶
タイトルの“黒い象牙”とは黒人奴隷のことだと
半分ほど読んでようやく分かった

この時代の不衛生さ、惨い扱い方は
本文にもある通り、家畜以下だったことだろう

次から次へと起きるとんでも話に引きつけられて
どんどん先の展開が気になるストーリーテリングは素晴らしい



【内容抜粋メモ】

登場人物
ラルフ・ラッド 13歳の少年
スウィング船長 ネロ号の船長
ありがた屋のジャック 船長の執事
一等航海士スミュウ
二等航海士ザイアン
“おし”のエアロン 料理番
管理人 ラルフとともにネロ号に乗せられた
奴隷商人ダ・シルバ
伝道師
エグリントン卿 大地主
ガイ・コールズ 卿の息子



●説教師の父
父は義人派と呼ばれる厳格な宗派の説教師で
悪人、酒飲み、金持ちらを見ると所構わず説教するため敵が多い
母、妹とともに家族は山の上のごつごつと荒廃した土地でなんとか暮らしていた


●ガイ・コールズ
船の事業で金持ちから貴族にまでのし上がった大地主エグリントン卿の息子
大酒飲みで父からガミガミ言われて目の敵にしている

ある日、飲み屋から出てきたところではちあい
元ボクサーの御者vs若い頃レスリングをしていた父が対決して父が勝つ


●仕返し




ガイ・コールズが管理人を連れて、エグリントン卿の土地を明け渡して家を出ろと命じる
家族は少ない家財道具を荷馬車に積んで、放浪の旅に出る
農場で働かせてもらうには、前の地主の身元保証書が要るため、どこも雇ってくれない


●家出
13歳のラルフは、元船乗りの行商人に出会い
「いまどき大金をつかむには海にかぎる
 すべての富につながる道はリバプールだ」
という言葉に惹かれて家を出る
父はラルフの決心に気づき、「どうしてもという時に使え」と5シリング銀貨を渡す


●リバプール
ようやくリバプールにたどり着き、最初に会ったのは酔っぱらった男で
おいはぎだらけだから気をつけろと忠告

船着き場で空腹に耐えかねて、1軒の宿屋に入り、パンとチーズと水を注文
5シリング出すと、お釣りが足りない

横で世話を焼いていた男は、番頭とグルで
渡したのは1シリングだったと神に誓う
番頭にコップで殴られて気を失うラルフ


●スウィング船長
気づくと暗い一室
ダイヤモンドのついた指輪をはめた男、さきほどのペテン師、ありがた屋のジャックから
強盗呼ばわりされ、スウィング船長から「船に乗るか、絞首台か」と言われて
泣く泣く、船に乗る


●ネロ号




女巨人の船首飾りをつけたボロ船に一緒に乗せられたもう1人は
途中で出会った船乗りと、“管理人”とあだ名をつけた男の3人

管理人が左の靴に小包を隠しているのを見てしまい
「今見たことは忘れるんだな」と口止めされる


●二等航海士ザイアン
ザイアンの左手は、親指と人差し指しかないが
その2本の指は怪力で、ラクラクと男1人締めあげるほど

一等航海士スミュウは船長に「危ない仕事なのに1人あたりの給料が少ない」と文句を言うが
海の上では船長の命令は絶対のため、逆に脅される


●軍艦
海に出て3日目 国王の軍艦が近づいてきたことに気づく
帆走力の差は明らかなため、船長は日没までに
帆に水をかけてより風を受けるように命じて
すぐに舵をきって、軍艦を巻いてしまう


●海に落ちた男
天地創造のような嵐になり、舵輪を持っていたトムは
メインマストの高さの水の壁に押し流されて海に消える





船乗りのしきたりで、ザイアンがトムの持ち物をみんなに配る
その後、何度か陸地を見るが、船長は避けて通るため、船員たちのストレスが高まる


●秘密の会議
寝苦しいほど暑い夜、ラルフのハンモックのすぐそばで
スミュウ、ジャック、管理人が話しこんでいる
夜中に水とパンをボートに積んで逃げる計画

ラルフは身を乗り出して落ち、酔いどれ船乗りからもらった
赤いハンカチを落としたことに気づかず逃げる

その後、酔いどれ船乗りは、ジャックと管理人の仕組んだ罠で
マストが落下し、頭を砕かれる


●水葬礼
船で死んだ者は布で包まれ、鎖などの重しを入れて海に投げて、沈ませる
エアロンがいい加減にやったせいで
酔いどれ船乗りの死体は浮き上がり、船の後を追いかける
船乗りほど迷信深い人間はなく、大騒ぎとなる


●阿片剤
船長は毎晩、グロッグ(酒の一種)をジャックに持ってこさせるが
ジャックがコップになにか入れるのを見たラルフ







ジャックがアヘンを盛ったため、船長は正気を失うが
3人がボートで逃げようとするのを見てピストルで撃つ
船長:反乱だ! 罰はただ1つ・・・







ジャックだけがボートで逃げ、管理人が撃たれて、2回目の水葬礼が行われる
荷物の分配をスミュウがやると言い出し
靴から手紙を出してポケットに入れる

ジャックの代わりにラルフが船長つきになり、髪が黒い羊毛のカツラと分かる!
船長:正直に働けば、ひと財産できるんだぜ とピストルに誓いを立てさせる


●アフリカ
目的地に着くと、誰も入らないような熱帯の草が生い茂る岸に船をつける

船長室には金貨がつまった大きな箱がいくつもあり
スーツに着替えた船長を筆頭にして
ピストルを構えたラルフ、スミュウを乗せた小さなボートに
漕ぎ手は船員のサイラス


●奴隷




黒人の兵士の一団に向かって「オレは白い大王さまだ」と豪語すると
すっかり圧倒されて、船長の兵隊のようについてくる

ポルトガル人の奴隷商人ダ・シルバは「1匹あたり20ポンド」と値を言うと
「はじめにつけた12ポンド半以上は出さないと」言い張る船長
スミュウがダ・シルバとなにか合図し合うのを見るラルフ


●伝道師
ボートに乗った伝道師がネロ号にやって来て
「いずれ乗組員全員が縛り首になる」と忠告する

船長に命令されたザイアンは伝道師を鞭打つのを拒んだため
逆に容赦なくムチをうたれ、二等航海士から平の水夫に落とされる
ザイアンが「いつか船長に目にもの見せてやる」と誓うのを聞く

ラルフは伝道師に助けを求めようと、夜中、船をおりると
川の流れに巻き込まれて流される







●ジャングルの小屋
伝道師は大怪我をしたラルフを救って、小屋で介抱する
船に乗せられた経緯を話すと

伝道師:
6日、ネロ号を留めておけば軍艦を呼べる
たき木の山を作り、船を出す前にのろしをあげて合図してくれ


●奴隷置き場
再び4人でダ・シルバを訪ね、「品物を見たい」と言う船長
酷い臭いの柵の中に入れられた痩せ細った奴隷たちを1人ずつステッキでつついて
「骸骨だな」と文句をつけるが、他に客がいると譲らない商人

翌日は、スミュウとラルフが交渉に行かされるが
スミュウは自分がまとめるから、ひとことも口を出すなと命令

スミュウとダ・シルバがこそこそ話している所を窓から覗こうとしていると
背中にムチの跡がある背の高い黒人が持ち上げてくれる
彼はダ・シルバを一緒に殺そうともちかける

スミュウは手形を見せて、奴隷を買い
後で船長に売りつける計画を話していた


●のろし
船長は仕方なく言い値で買い、奴隷を積むために
積み荷の大部分を支払いの一部として船から出す
奴隷の食べ物として腐ったトウモロコシを積み込む/汗

数人ごとに奴隷たちの足を丸太に縛り、ボートに乗せて、船に移し
船倉奥深くに閉じこめるまで、2日がかり
ラルフを手伝ってくれた背の高い黒人も縛られている

6日目、ダ・シルバも船に来て、船長、スミュウの3人で酒盛りを始める
ラルフはその隙に夜中に船を抜け出して、たき木の所に行くと
痩せ細った幽霊のような男を見て震えあがる!
火をつけると、ものすごい勢いで燃え上がり、ネロ号に逃げ帰る

船には伝道師がいて、のろしを合図に軍艦が着くと最後の忠告をするが
船長のナイフで手に穴が開く

奴隷を使って3つのボートでネロ号を引っ張っている時
さきほどの幽霊が船に乗る すっかり痩せたありがた屋のジャックだった

船長はわざわざ大波が打ち寄せる谷間をくぐり抜けて
軍艦が待つ岸を離れる

ダ・シルバが眠りから覚めると、もう海に出ていて、泣いて帰してくれと嘆願する
牢の中には伝道師がボロボロの姿で囚われていた








●カギ
ラルフは眠るエアロンからカギ束を奪い、牢を開けて、伝道師の手足の縄を緩める
その帰り、ジャックがスミュウに「邪魔者は、あの小僧だ」と言うのを聞く
再び軍艦が近づいてきて、ネロ号はすべての帆を張るが、追いつかれそうになり

船長:
証拠をなくすんだ 奴隷を全員海へほうりこめ!
お客さんも忘れちゃならねえ 最初は伝道師、次はジャックだ

ジャック:神にかけてウソは言いません あんたを裏切ったのは小僧でさ

ラルフ:
あいつこそ、奴隷を高く売りつけたのを僕が知ってるから恨んでいるんだ!
スミュウも陰謀仲間です

船長はラルフを牢に監禁させ、船が逃げ切れたら
極刑の「船底もぐり」の罰を与えると命令

伝道師:自分がたった1人と感じる時も、君はけっして1人ではないのだよ

牢のあかりとりの窓から伝道師が海に落とされるのが見えて絶望する
そこにジャックが来て、わざわざバナナを美味そうに食べてみせる


●反乱
隙を見て、ベルトで首を絞め上げ、カギとナイフを奪い、甲板に上がると
船長とスミュウが殺し合っている







よろめいたタイミングでラルフはスミュウの頭を殴り倒す

ちょうどエアロンが奴隷の足かせを外している時だったため
騒ぎに乗じて奴隷も反乱を起こして船長を囲む

ラルフはマストから高みの見物
ダ・シルバは自分の奴隷たちに殺され、大砲を撃つよう命じられたザイアンは断る

ザイアン:いよいよ、船長の番が来たんだよ
船長はザイアンを撃ち、倒れたところをジャックが襲おうとして
2本の指で締め上げ、海に落とされる ザイアンもこと切れる

船長:縛り首になるくらいなら、ネロ号も軍艦も沈めてやる!

ラルフは大砲をメインマストに向けて撃ち、軍艦から指揮官が乗り込み
ラルフが軍艦に大砲を撃とうとしたと思い込み、手錠をかける








●ニューギット監獄
船長を筆頭に、船員全員が逮捕される
エアロンは最後まで抵抗して、撃ち殺された

帝国海軍ペリウィンクルに乗り、ポーツマス軍港から市立監獄
ポムペイ監獄、ニューギット監獄に移され、そこに父の姿があった


●父との再会

父:ラルフが家を出てから、母はショックで寝込み、妹は農家へ奉公に行っている

ラルフが最初の飲み屋で酒でなく水を注文したと話すと

父:
神さまがお前をお守りくださるだろう
1人ぼっちと感じる時もお前はけっして1人ではないことを忘れてはいけないよ



●裁判




ロンドン中央裁判所では、母と妹が泣きながら傍聴人席に座っているのが見える
一段高い席には、なぜかガイ・コールズと父エグリントン卿がいた

裁判はどんどん不利になり、絞首刑を言い渡された時
あの伝道師が潔白を証言してくれる!

エグリントン卿の指にダイヤモンドの指輪を見て
宿屋で会った男だと分かり、「船長に命令していたのはあの人です!」と証言

スミュウも「奴隷を買って、船長に売りつけろと命令したのはガイ・コールズだ」と証言したため
エグリントン卿はステッキで息子を殴りつける

その後、裁判官の私室にラルフと家族が呼ばれ
伝道師はラルフが縄をゆるめてくれたお陰で船に助けられたと話す

ラルフを逮捕した海軍士官は、のろしを上げて、大砲を撃ってくれたことを褒め
たくさんの賞金がもらえることを伝え
まだ海に出たいなら、すぐお預かりしたいと誘う

ラルフは半年、家を離れていて、明日が自分の14歳の誕生日だから
家族と過ごしたいと思う



あとがき
14Cはじめに羅針盤が発明され、大航海時代がはじまる

奴隷貿易は15C~、ポルトガルから始まり
オランダ、フランス、イギリスが加わる

アフリカからから輸入される黒人奴隷の半数以上がイギリス商人を通し
リバプールは、ヨーロッパ、アフリカ、北アメリカ南部を結ぶ起点として繁栄した港
(!

物語は1829年で、奴隷貿易禁止以降の話
1807年、イギリスは奴隷貿易を禁止したが、需要にこたえて

リンカーンが奴隷解放を宣言した1863年
ブラジルの奴隷制が廃止された1888年まで続いた


ノーマン・リチャード・コリンズ
1907年 イギリス生まれ
ジャーナリスととして世に出て、出版社の幹部、英国放送協会の演出家
映画のプロデューサー、テレビ界でも第一人者となる

『わたしのロンドン』
『虚構の真実』

ほか冒険小説、サスペンスなど大人向けの作家
本書が唯一の児童向き

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