メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

世界少女名作全集 30 子鹿物語 マージョリ・キナン・ローリングス/著 岩崎書店

2024-01-03 13:45:20 | 
1973年初版 1983年 第11刷 岡上鈴江/訳 山中冬児/装幀・挿絵

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


たしかハリウッドで映画化されてないか?
と思ってググったら、グレゴリー・ペック主演!

たぶん相当昔に観たんじゃないかと思う 覚えてないけど
この時代の動物映画って虐待ちっくなことをしていそう・・・/汗







かなり有名な作品なのに、原作を読むのは初めて
これまた本当に感動して、さすが全集に入るだけあるなと納得

山奥で暮らす小さなお父さん、大きなお母さん、一人息子のジョディ
すべて自然の恵みに頼って暮らしていた時代の描写は、いちいち驚く

狩りをして殺した動物の肉を食べ、皮を剥いで着て
畑を耕して収穫してパンを焼いたり、ハチミツを集めたり、まるでARKの世界!
日本人の古来の暮らしとの違いもちょこちょこ見られる

日々の食を任されている母親の責任の重さが想像以上で
家族の生き死に、幸不幸を任されてる
金銭になる仕事を請け負う父親の役割分担もキチっと決まっている

子どもが幼くして亡くなる確率も高く、ジョディを貴重に育てる気持ちも伝わるが
夫婦間の価値観の違いが垣間見えて、父と息子が団結するのは『にんじん』を思い出す

人間関係の煩わしさを嫌って山奥に住んだ父
泉からこんこんと湧く水、さまざまな動物の足跡
野生の暮らしぶりを間近で見る少年の新鮮な感動が伝わり、感動する

最後、少年時代との突然の決別に泣いた



【内容抜粋メモ】

登場人物

バクスター家
父 ペニイ

ジョデイ
猟犬のジュリア、リップ、パーク、老馬のシーザー

ハットウおばさん
オリバー 息子 船乗り

フォレスター家
父 レム

息子 ガビイ、バック、ミルホイール
せむしのフォダウイング ジョデイの親友



●大熊のスルーフット







ジョデイは家の頼まれた仕事をサボって、森を散歩するのが大好き
昼寝から覚めると、鹿の足跡を見つける

父ペニイが街から帰り、ジョデイがブラブラしているのを愚痴る妻

ペニイ:
たいていの女は、どうして男たちがぶらぶら遊びが好きなのか、一生分からずじまなんだよ
男は家庭の平和のためには、少しばかり力を貸してやらにゃならんものさ 薪を運んでおやり








ペニイは、貧しい牧師の家に生まれ、幼い頃から厳しく育てられ、働かされてきた
30歳過ぎて、大きな体の女性と結婚し、フロリダの奥地にやって来た開墾者

子どもは次々と幼くして死んでしまい、最後のジョデイだけがすくすく育っていった
ペニイは南北戦争に4年も従事した








4月になったら、前足の指が1本ない大熊スルーフットを狩ろうと約束する父と息子

翌日、種豚のベッシーがスルーフットにズタズタに引き裂かれて死んでいた
父は旧式のさきごめ銃を持って、スルーフットの足跡をたどる








谷川を渡ろうとするスルーフットを撃つも、弾は逆発して頬を火傷する
ジュリアは大怪我をして、傷口を糸で縫い合わせる









ペニイ:
あんな憎らしい熊でも、犬に喉笛を引き裂かれて死ぬのを見ると可哀想なものだよ
獣たちも生きるために家畜を狙うのだから、盗むなんて考えはないんだ
人間の作った垣根など意味がないんだよ



●新しい鉄砲





ペニイとジョデイはフォレスター家に行く
ペニイの親友でせむしのフォダウイングはあらゆる動物を飼っていて
あらいぐまのラケットが砂糖玉を食べるのを見せてくれる








ペニイは雑種で役に立たないパークをいかにも大事そうに抱いて見せると
レムは欲しくて仕方なくなり、新式のイギリス銃と引き換えにくれと頼み思うつぼ









ペニイは一人っ子で寂しく、自分のあとをずっとついて来てくれる動物が欲しくてたまらない
子鹿を飼いたいと言うと、ペニイは古い銃をジョデイに与え、鹿狩りに行こうと約束する

母親の鹿は子どもを守るために、わざと自分だけ反対側に逃げて囮になる
父の言う通り、木の上で待っていると、再び鹿の親子がやって来て
ペニイは二連発銃で親を撃ち、すぐに処分にかかる

ペニイ:まったく可哀想だが、わしらも生きていかなきゃならんものなあ









町に行き、ボイルズに毛皮を売る
ペニイは売れ残りのハモニカをもらう







ハットウおばさんに鹿肉をプレゼントする

一人息子で船乗りのオリバーが帰ってくるのは年に2度だけ
フォレスターの3人兄弟とケンカになり、ペニイとジョデイはオリバーに加担したため
3人の憎しみを買う








●6月 ガラガラヘビ
豚がいなくなり、フォレスター家の3人兄弟の仕業と推測
ペニイ:厄介事が起こりそうな時は、むしろ、こっちから進んでぶつかっていったほうがいいんだよ

ペニイはガラガラヘビに噛まれ、みるみる体がふくれあがる
そこに来た牝鹿を撃ち、肝臓を傷口にあてて、毒を吸い取らせる!
ペニイ:フォレスター家に行って、お医者を呼ぶよう頼んでおくれ








母を殺された子鹿が怯えているのが見えたが
慌ててフォレスター家に行き事情を話すと
ウィルスン先生を呼びに行ってくれる

ジョデイは嵐の中をびっしょぬれになって帰宅







ウィルスン先生:
ヘビの毒には汗をかくのが一番いいんだ
支払いなどいらん 病人はわしが来る前に助かっていたんだから

ジョデイは代わりに自分のあらいぐまの毛皮で作った背のうをあげると喜ぶ
ウィルスン先生:これからこれを持って出かけるたびに“ありがとう、ジョデイ”と言うことにするよ
(物々交換ていいな


翌朝、奇跡的に峠を越えてペニイが助かる
ウィルスン先生:どうして助かったか分からん あんたはガラガラヘビの親類かもしれんな(w
母:この人が寝てしまったら、誰が畑をみてくれるでしょう?

バックはこの日から泊まり込んで、畑を耕し、苗を植えてくれる
バクスター家が想像以上に貧しく、不便な暮らしをしていることに気づいて驚く
豚が消えた話をすると、それには心当たりがあると言って、後日、ブタは戻る







子鹿を飼う許可を父から得て、迎えに行くと、ジョデイについて歩くようになる
父が“子鹿は初めて抱かれた者についてくる”と話したのを思い出す

バック:今に大きくなると野性にかえって林に逃げてしまうさ

ジョデイはバックが母よりもっと人の愉しみを壊す男だと思う
でも、名前をつけるならフォダウイングが得意だと教えてくれる
ジョデイはもう友だちがなくて寂しい思いをしなくて済むと喜ぶ












●蜂蜜とりときつね狩り
トウモロコシの畝が半分キツネに食い荒らされているのを見て
夜中に番をしてやっつけようと誘うバック

ハチに追いかけられ、水中に逃げたジョデイは2、3匹で済んだが
バックは6か所も刺された
上等の蜂蜜を持ちかえると母は大喜び

バックはジョデイに二連発銃を渡して、キツネの眉間を狙わせる
つがいのキツネを撃ち、蜂蜜の臭いを嗅いで来た熊には逃げられる












●友だちの死
フォダウイングに子鹿を見せに行くと
ずっと病気だったフォダウイングは息を引き取った後
ジョデイは初めて死を身近に体験して呆然となる









フォダウイングの母は、1人亡くしただけでも身を引き裂かれる思いなのに
ジョデイの母が何人も子どもを失ったことを改めて驚く

フォダウイングの母:
あの子はジョデイの子鹿のことばかり言ってた
“ジョデイに弟ができたんだね”と言ったりして
子鹿の名前は“フラッグ”がいいと決めていた

ジョデイ:なんて素晴らしい名前だろう

主人を失った動物たちはこれからどうなるのか心配になる
フォダウイングは今ごろ、あらいぐまを従えて、どこかを歩いているような気がする

ペニイが棺のフタに釘を打ち、牧師の代わりに祈りの言葉を捧げる
バックは弟の形見に赤い鳥をくれる








●8月 嵐
嵐が何日も続いたため、畑のえんどう豆を早めに収穫し
母は暖炉の前で1個ずつ丁寧に乾かす
いも畑に行くとすでに腐りかけていた








●しのびよる死
ようやく雨が止むが、洪水で林の動物がたくさん死んだ
スカンク、フクロウ、ネズミなどの死骸がたくさん転がっているのを見る
あたりには腐った臭いが充満している

どろ沼で2、30頭の熊が遊んでいて、ペニイはジョデイに銃で撃つ練習をさせる
殺した熊を馬に積む時、急に大人になった気がするジョデイ


10月 野生動物に恐ろしい“黒舌病”が流行り、狩っても食べられない状態
腐った泥水を飲むことが原因と思われ、バクスター家の七面鳥もそれで死ぬ

小動物が減ると、熊やオオカミなどの猛獣は家畜を襲いはじめる
一番肪ったブタが殺され、スルーフットの足跡を見つける

熊に襲われる前に雌豚と種豚以外の8頭を全部処分してしまう
可愛がってきた動物が冷たい肉となり、美味い食べ物に変わる様に驚くジョデイ

フラッグはだんだんイタズラが増えて、イモ畑を荒らしてしまう

ペニイ:
これじゃ今年1年の食べ物が足りなくなるかもしれない
大きな囲いを作って入れておくんだな

丸1日かけて作った囲いも、フラッグがらくらく飛び越えてしまい
ジョデイは泣いてしまう








●11月 大熊との決戦
痩せたオオカミが3、40頭の群れをつくって牛小屋を周っている
子牛が1頭殺されていて、フォレスター家でも牛2頭を殺されたため
毒を仕掛けたが、ペニイは毒に反対する

ペニイ:正々堂々の戦いとは言えない

1週間で30頭のオオカミが死んだが、生き残った10頭は
またフォレスター家の子牛を殺した
その上、間違って毒を食べて、2匹の猟犬も死んでしまった



●12月
クリスマスの10日前に生まれた子牛がメスで、家中は大喜びする
母はハットウおばさんに持って行く大きなケーキを作る







ペニイは前から妻が欲しがって、高くて買えなかった黒いアルパカの布地を
妻にプレゼントすると、泣いてしまう

ペニイ:
わしがこれまで、お前にこんなことをしてやらなかったのは
決してその気がなかったからじゃないんだよ

母はクリスマスまでに大急ぎでドレスに仕立てる(驚








翌日、せっかく生まれたメスの子牛をスルーフットに殺されて
ペニイ:今度こそ許せない わしがへたばるか、あいつがやられるかだ!

スルーフットを仕留めるまで帰らないという父に
泣き言を言わない約束でジョデイもフラッグを連れてついて行く
ペニイ:鹿は決して森の中で迷子になることはない

母はせっかくクリスマスに着るように仕立てたドレスを見てガッカリする







スルーフットを追い、深い谷川まで来るが、ジュリアは渡ろうとしない
ペニイとジョデイは友人の小屋に泊めてもらい、丸木舟を貸してもらう

翌日、スルーフットを追い詰め、猟犬が噛みついたタイミングをはかってペニイが撃ち殺し
2人でバンザイを叫ぶ








●2月 フラッグを撃て
ペニイは持病のリュウマチが悪化してびっこを引いている

母:
ジョデイにやらせたらいいじゃないですか
あんたは13くらいの時にはもう立派に大人の仕事をしていたもの

ペニイ:だからこそ、わしはそんなことはさせたくないのさ

フラッグはイタズラばかりして母を怒らせる
ペニイ:フラッグは家の中に入れてやるには大きくなりすぎた


3月 トウモロコシの芽が出そろった頃、フラッグは全部若芽を食べてしまう
ペニイはジョデイにもう一度種を蒔かせ、周りに垣根を作らせる

だが、次の日もフラッグはトウモロコシの芽を食べてしまう
苦労してつくった垣根も軽々と飛び越える

ペニイ:
わしたちはお腹を空かせて生きてはいけない
可哀想だが子鹿を森へ連れて行って撃っておいで



●子鹿の死
ジョデイはフラッグを森へ連れて行くが
ジョデイ:僕はやらない 誰がなんと言っても絶対やらないぞ!

泣いて考えた末に、ジャクスンビルの動物園に連れて行けば
みんなに可愛がられ、自分も年に一度見に行くことができると思い
フォレスター家に馬で連れてってもらおうとするが
みんな馬の取引でケンタッキーに行った後

ジョデイは歩いてでも自分でジャクスンビルまで連れて行こうと決心する
途中、疲れきって寝ると、フラッグは家のほうへ歩きだしている
ジョデイ:どうしてお前はそんなにいうことを聞かなくなったの?







家に戻っても、父母の意見は変わらない
ジョデイは自分では出来ないと言うと、母が撃ち
真っすぐに狙えないため足から血を流して逃げていくフラッグ







ペニイ:お前が苦しみを止めてやるんだ

ジョデイ:
お父さんもお母さんも大嫌いだ 死んでしまえばいいんだ
二度と家になんか帰るもんか!

フラッグは池のほとりで倒れていた
驚いたようにジョデイを見つめていたが、首筋に銃を当てて引き金を引いた



●新しい出発
ボストンに行ってオリバーを訪ね、船乗りにしてもらおうと丸木舟に乗り
ジャクスンビル行きの川船を見つけようとするが夜が来る

空腹に耐えかね、川辺で眠り込んだジョデイを郵便船の人たちが助ける
丸木舟じゃボストンへ死ぬまで漕いでも着かないから
家に帰ったほうがいいと言われる

「逃げ出したんだな 自分の家が一番いいよ
 お前みたいなちび助を誰も相手にしちゃくれないよ 家へおかえり」


自分はこれまで家のために何の役にも立たなかった
遠慮なく食べて、フラッグと遊んでばかりいた
僕がいないほうが、暮らしがラクになると考えているだろう


家に着くと温かく迎える父

ペニイ:
わしはもう少しでお前を諦めるところだった
よく元気で帰ってくれた 本当にありがたいことだ
ひもじいということがどんなに怖いか、お前にも分かるだろう







母はトウモロコシの種を分けてもらいにフォレスター家に行った
ペニイはもう働けない体になったと白状する

ペニイ:
お前は大人になった
大人の世界じゃ、物事がどんな風にいってるか分かっただろう
死の恐ろしさも、飢えの怖さも

人生は素晴らしい
けれど、それは決してラクなものじゃない
わしはお前とフラッグにいつまでも遊んでいてもらいたかった

あれを殺してしまうのは、たしかに寂しいことだ
しかし、人間というものは誰だってみな寂しいんだ
そこをしっかりして打ちのめされずに力強く生きていかねばいけない



ジョデイは、明日の晩から父の代わりにやらねばならない仕事をいろいろ考える

牛の乳をしぼり、薪を運び、畑の手入れをする
これからはすべて僕がやるんだ

ふと1歳の子鹿の動く音が聞こえる
ジョデイ:もうあんな仲のいい友だちは出来ない フラッグ!

呼んだのは、今のジョデイではなく、少年の声だった
それは木蓮の間を過ぎ、永久に姿を消してしまった




解説
本作はマージョリが1938年に発表した
原題は『The Yearling』
イヤリングとは、馬、牛、鹿などの一年子のこと

アメリカ南部のフロリダにある原始的な森林地帯に住む開拓者を描いた
当時、どんなに苦しい生活を真剣に生き抜いたか
生き生きと描けるのは、作者が実際、フロリダ州の森林地帯に住んでいたから


マージョリ
1896年 ワシントン生まれ
短編集、随筆集など3、4冊書いたが、本作が代表作


コメント