「日々これせっせとお薬作り」 -製薬会社新米研究員SIUの日常-

新薬の研究に営む毎日・・・のはず。製薬会社研究職の日常をつたない文章でつづります。

「Scrapper」の奇妙な冒険(第二部)

2008年03月06日 | スペシャル
第一部がカバーイラストについてだったので
第二部以降は内容に触れて行きたいと思います。
まあ、内容というよりはこの論文がなぜCell(セル)に載ったか?
というところを述べつつ、バックグラウンドを中心に説明して
興味をもたれた方に自分で読むのに少しでも手助けになれたらと思います。

*諸注意
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さてさて、ココからは学術用語を解説無しに使っていくこともあります
従いまして、分子生物学などの素養を持っている方を一応の対象とします。
検索「JOJO」で飛んできた方で「何言ってるかまったくわかんないよー」と
思われるた方がいらっしゃる可能性がありますので、先に謝っておきます。
申し訳ありません。

逆に、中枢の専門家の方にお願いです。SIUが解説するまでもなく
中枢における記憶・認知・判断などなどは解明されていないことが
多々ありますので、本論文の解説の際にどうしても言い過ぎの面が
出てしまっております、ご容赦ください。
そして何より、SIUの専門は中枢領域ではないので情報には聞きかじったことも
含まれております。大幅に正確性を欠いていることは無いと思いますが
気になる内容についてはご指摘いただけると幸いです。
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さて言い訳はこれぐらいにして(笑)
始めましょう…

<内容解説その1>
・この論文がなぜインパクトがあったか?
荒木先生のマンガはジャンプに載りますが、隣のクラスの田中君が
描いたマンガは載りませんよね?
それと同じで重要な発見のあった(マンガで言えばとても面白い)論文しか
有名科学雑誌には載りません。これから説明するのは、この論文のインパクト
つまりCellというbig Journalになぜ載ったかという理由説明です。
どこが面白かったかということですね。

この論文の面白みは、SCRAPPERが脳における記憶メカニズムの消去に
重要な役割(synaptic tuning)を果たしていることを示した事
(正確にはUbiquitin-proteasome Systemの関与かな?)
そこが非常にインパクトを持ったところです。
さてパソコンにおけるデータの消去ならば、なんとなく理解できますが
ヒトにおけるデータの消去というのはどういうシステムでしょうか?

人における記憶というのはHDD(ハードディスクドライブ)に
情報を書き込むのと似ています。
パソコンにおいてHDDへの書き込み方式に磁気システムを用いているのと同様
人においては脳に情報を書き込んでおり、磁気システムに相当するモノは
シナプスを用いたシステムというものになります。
(↑正確性を欠いた表現ですが、その辺はご容赦を)

自分の持っているパソコンを想像してください、HDDに情報を溜め込むと
ある一定量(例えば500GB)を超えるとそれ以上データが入れられなくなりますね。
だからHDDの中身の見ながら「あ、このデータはいらないから捨てよう」とか
「これは古いからもう良いや」とかしてHDDの中身を減らしますね。

生物においても同様であり
例えば「今まで食べたパンの枚数は?」と聞いて
瞬時に答えられる人は稀です。
通常の人は「生まれてから今まで、食べたもの全て」を
記憶していないし、する必要もないのです。
意識はしていないかもしれませんが、人においても勝手に「
要らないデータの消去」は行われているのです。

これまでの研究においては書き込み系(どうやって記憶・記録するか)の
分子メカニズムはそれなりに進展がありましたが、消去系(要らないデータの削除)に
ついてはイマイチ理解が進んでいませんでした(らしいです_笑)。
ココまでが、バックグラウンドでした。
長い解説、お読みいただきありがとうございます。
そしてお疲れ様でした。

やっとこさ、この論文にでてくる「SCRAPPER(スクラッパー)」の登場です。
というところで第二部終了。第三部に続きます。