「日々これせっせとお薬作り」 -製薬会社新米研究員SIUの日常-

新薬の研究に営む毎日・・・のはず。製薬会社研究職の日常をつたない文章でつづります。

抗肥満薬としての防風通聖散

2007年07月04日 | 製薬会社な日常
昨日の記事で抗肥満薬について書きましたが
防風通聖散(ボウフウツウショウサン)を忘れてましたね。
これも保険の適応あったはず。漢方薬です。
内容は
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防風(ボウフウ)、黄ごん(オウゴン)、大黄(ダイオウ)
芒硝(ボウショウ)、 麻黄(マオウ)、 石膏(セッコウ)
白朮(ビャクジュツ)、 荊芥(ケイガイ)、連翹(レンギョウ)
桔梗(キキョウ)、山梔子(サンシシ)、芍薬(シャクヤク)
当帰(トウキ)、 川きゅう(センキュウ)、 薄荷(ハッカ)
滑石(カッセキ)、生姜(ショウキョウ)、甘草(カンゾウ)
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だそうです。(たくさんあるねぇ)

低分子化合物の薬(漢方薬でなくいわゆる、普通のお薬)では
ありえないほどのいろんなものの混ざり具合(笑)
認可を取る時に各成分の代謝を追うのかな?
エライ大変そうだけど…

ちなみに今、一般薬としてかなり売れていると聞く
「ナイシトール」↓も
http://www.kobayashi.co.jp/seihin/ns_t/
実は「防風通聖散」を現代風に名前をつけ直したものなんです。
(「内脂肪をとる」⇒「ないしとーる」ってのが小林製薬っぽい_笑)

「防風通聖散」成分の中で抗肥満にメインで効いているのは
たぶん「麻黄(マオウ)」だと思います。
どういう作用機所かといえば「麻黄」の中の成分「エフェドリン」が
交換神経系の働きを高める⇒熱産生を増加⇒体重減少効果
ということだと思います。学会でこんな発表しているのも聞いたことあるし。
(注:あくまで大筋の予想作用機所、たくさんの成分が入っているためこんな単純な話ではない)

学会で聞いた「防風通聖散」についての講演で記憶に残っているのは
演者(内科医さん)
「患者さんにこの薬を飲んでもらうと、たしかに効きはするんです。
でもそれはきちんとルールに乗っ取って服用したときの話です。
しかし患者さんは過大に期待してしまって
『先生、これ(防風通聖散)をふりかけ代わりに使えば
お腹いっぱい食べてもやせますかね?』
って聞いてくるんです。
あくまで食事制限や運動と組み合わせないと意味はないのですが、理解してもらうまでが一苦労です…」

ふりかけにしちゃだめだろ(笑)

いまネットで「ナイシトール」や「防風通聖散」を調べみたら
ダイエット使っているという記述のブログが多いですね…
個人の自由といえばそうかもしれませんが
本来、抗肥満薬というのは超肥満(100kgをゆうに超えるような)の人が
高血圧・高脂血症・糖尿病・etcにて健康を損ねないように用いるものです。
普通の女の子(ちょっとお腹周りが気になるとか)が使用するには
メリットに比べてデメリットが大きすぎる薬剤群だと思います。

お薬というものは万能ではなく、傾きすぎたシーソーを反対側にものを
乗せてつりあいを取るようなもの。健常人が飲むことによって
傾き必要のないシーソーが傾いて健康被害をもたらすこと可能性もあるの
です。

ちなみにSIUは毎日のお散歩と夜ご飯を8割くらいに
減らすだけで、浪人時代に太った五キロを落としたことがあります。
薬屋が言うのもなんですがオクスリなんかに頼らず
i-podとランニングキットを買って、近所をお散歩でもしてみたらどうですかな?
あと夜のご飯(お米)を減らすだけで、けっこう痩せると思うのだけど…
いかがかしら?

RimonabantをFDA承認せず

2007年07月04日 | 製薬会社な日常
今日の話題は抗肥満薬について…

抗肥満薬として革命的なRimonabant(CB1受容体アンタゴニスト)ですが
最近雲行きが怪しくなってきたようです。

ヘルスデージャパンより
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減量薬の承認をFDA諮問委員会が否決(2007.6.21掲載)
健康ニュース基本パッケージ - ハイライト

肥満治療薬rimonabant(リモナバント)の米国食品医薬品局(FDA)承認について、自殺念慮(ねんりょ)のリスクを増大させる可能性が否定できないとして、諮問委員会が14対0で否決したとAP通信が報じた。rimonabantは減量や禁煙の特効薬として大きく宣伝されている薬剤だが、この副作用のため現在まで承認が延期されてきた。FDAは諮問委員会の決定に従わなくてはいけないわけではないが、通常は従っている。(以下略)
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http://www.healthdayjapan.com/index.php?option=com_content&task=view&id=672&Itemid=9

簡単な補足ですけど、現在の抗肥満薬って言うのは
シブトラミンとかオリルスタットとかマジンドールとか
使いづらい薬しかないわけですが、Rimonabantは
比較的使いやすく、確実に減量が出来るであろう薬になりえると
期待されていたものです。上市されて大きな副作用がなければ
間違いなくブロックバスターになると思われます。

サノフィはかなりこの薬に期待をかけているはずですが
今後どうなることやら…
今後のニュースにはいろんな意味で注目されます。

CB1 receptor antagonistに関して補足って書いたこと
ありましたっけ?なかったらそのうちか書かないとな…

ちなみにRimonabantは化合物の一般名
ヨーロッパでの商品名はAcomplia、アメリカでの商品名は
Zimulti(←こっちは予定)だそうです。
「Rimonabant」って「リモナバント」ってよく書いてありますけど
「t」は無音で「リモナバン」が正しい発音でなかったかな?
正解を知っている方ご指摘よろしくお願いします。


<補足>
マジンドール(Mazindol)
商品名[日本]:sanorex(サノレックス)
日本で承認されている抗肥満薬。

作用機序(サノレックス添付文書より)
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マジンドールは摂食調節中枢であるVMH及び視床下部外側野(LHA)への直接作用及び神経終末におけるモノアミン(ノルアドレナリン、ドパミン、セロトニン)の再吸収抑制を介した機序により、摂取エネルギー抑制(摂食抑制、消化吸収抑制)及び消費エネルギー促進(グルコース利用、熱産生促進)をもたらし、更に肥満時にみられる代謝変動を改善することにより肥満症を是正するものと考えられる。
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↓添付文書
http://www.novartis.co.jp/product/rex/pi/pi_rex02.html

シブトラミン(sibutramine)
商品名[米国]:Meridia(メリディア)
抗肥満薬、日本未承認[2007.7.3現在]
作用機所は神経終末でのノルエピネフリン、セロトニン、ドパミンの取り込み抑制作用だそうです。
シブトラミンを調べていたらケムステさんで
sibutramineの合成法を見つけたので紹介↓
http://chemstation.livedoor.biz/archives/23041813.html
薬理屋さんのSIUが見てもまったくわかりません(笑)

オリルスタット(orlistat)
商品名[米国]:XENICAL(ゼニカル)
抗肥満薬(リパーゼ阻害)、
<作用機序>
胃や腸のリパーゼを阻害することにより、トリグリの加水分解を妨げる。
トリグリの分解が出来ないということは、脂肪が吸収されないということ。
これによりカロリー減少⇒体重抑制となる。…はず(笑)

上記、作用機所は不安なので間違いがあるときはご指摘お願いいたします。

『新しい薬をどう創るか――創薬研究の最前線』

2007年07月01日 | 製薬会社な日常
自腹で買った創薬関連本を採点して見ようのコーナー!です。

今回、読んだのは…

『新しい薬をどう創るか――創薬研究の最前線』
京都大学大学院薬学研究科編 講談社ブルーバックス B-1541 2007年4月刊
 1040円


「はじめに」と「おわりに」を読んでみて伝わってくるのは
この本はサイエンスを学ぼうとしている若人たちに薬学の魅力
特に創薬の魅力を伝えようとしている本だということ(…たぶん)

というわけでそこを講評のポイントとします。
薬学部を目指す高校生や進路を迷っている高校生に
とってもお勧めしたい本かというと…
SIUの答えはNoです。理由は2つ。

1.高校生には内容が難しい
2.ストーリー性が乏しい

1.について
サイエンスとしての正確さを重視したためか、
高校生向けとしては内容が難しい。
もちろんこの本の内容を比較的容易に理解できる高校生もいるんでしょうが
少なくともSIUの高校時代なら、いや大学の学部時代でも半分読まずに
投げ出す自信あり_笑(SIUの出来が悪いのももちろんある)

また各章で違う著者が自分の専門について書いているため
各章が始まるために新しく内容を理解する必要が出てくる。
これも理解を難しくしている一因かも…
ただし各分野で正確な最新の情報を得られるというメリットも
あるので教科書的な意味ではいいのかもしれませんね。

2.について
各章がきっちり分かれていることによって正確性は保たれているのかもしれませんが
研究現場の熱やら汗やら情熱とかそうゆう物は伝わってきません。
やっぱり良い意味でも悪い意味でも教科書的。
大学の授業ってこんな感じですよね、きちんとノートを取る人にしか
わからないというか…、はっ!SIUが不真面目な学生だったから
点数が辛いのか?(笑)

あくまで好みですが、一つの薬ができあがるストーリー的なものがあったほうが
若い人たちを引き付けるのではないかと思いながら読みました。
自分がそこに参加するイメージもしやすいし、興味も湧きやすい気もしますが。
もしかしたら企業に在籍した経験のない大学の先生が寄稿されている章も
あるのかもしれません。大学と企業とでは同じ薬に対する研究でも
大きく異なりますしね。
そのような意味ではやはり「ドネペジル」を作った杉本八郎氏の
「日本発 世界が驚いたアルツハイマー病治療薬の開発」は面白かったです。

<まとめ>
もしこの本の目的が若い人たちに薬学に対する興味を増してもらうためなら
正確さは減少させても、実際に働いている人たちの熱が伝わるような
内容のほうが良かったのかなと思います。
もちろんそのような意図で作られた本でなければ、この講評は的外れですので
読み飛ばしてください。

<追記>
高校生・大学生・大学院生の方で製薬会社における創薬の現場を
イメージしたい方には下記の2冊をお勧めします。

新薬創製のためのホームラン打法―国際化時代にあって日本の製薬産業は大リーグで通用するか 山口 勇 (著)
¥ 3,675 新興医学出版社 (2001/07)

創薬物語―貧乏力 (単行本)
伊藤 正春 (著)
¥ 3,150 (税込) 新興医学出版社 (2005/12)

将来的、SIUも本を出せたら、多少は皆さんのお役に立てるかもしれないのに(笑)