森の詞

元ゲームシナリオライター篠森京夜の小説、企画書、制作日記、コラム等

日々の生物(ナマモノ) 第36回

2009年01月06日 | 日々の生物(ナマモノ)
Q:「どうして植物は重力に逆らって育つんですか?」
Q:「どうして川の魚は流れに逆らって泳ぐんですか?」
Q:「どうして蛾は光に向かって飛ぶんですか?」

 生物学の用語に「走性」というものがあります。「ある刺激に対して生物が決まった動きを行うこと」を指します。刺激には光や温度、それに水流や重力などもあります。植物は「重力に対して逆らって育つ性質(走地性)」(注1)、川魚は「流れに逆らって泳ぐ性質(走流性)」を持つと言えます。
 この走性という用語は昔の教科書には載っていましたが、今の教科書には載っていません。理由は幾つかありますが「当たり前のこと過ぎて、いちいち用語にするのは無意味」というのが大きいと思われます。正直、ツッコミどころが満載なのですよ。

「植物は重力に逆らって育ちます」
 →「地面にめり込んだら、枯れるだろうが!」
「川魚は流れとは逆に泳ぎます」
 →「逆に泳がなかったら、海まで流れていくだろうが!」

 動物の行動を決める機構は複雑ですが、生存の可能性を上げるという共通の目的があります。野生動物は火を見ると逃げますが、それは火に向かっていくと死ぬ可能性が高いからです。植物の成長には光が欠かせませんし、川魚は決まった場所に住んでいる方が生活しやすいわけです。細かい機構まではよくわかっていないことが多いですが、動植物の動きは合理性を追求した結果と言えます。
 ただ、それでは説明できないのが「蛾が光に向かって飛ぶ」です。光源が火である場合、それこそ「飛んで火に入る夏の虫」で死んでしまうわけです。

 これが何故起きるのかと考えていくと、どうやら生物としては想定外の出来事が起きている結果である、と言うことができそうです。
 夜中に光に集まる昆虫には幾つかの条件があります。

①夜中に活動すること。
②微弱な光を関知して、自分の位置を判断すること。

 夜間に飛ぶ虫は、月明かりなどを目安に方向を定めて飛行します。月はかなり距離が離れていますので、移動しても見える方向はほとんど変わりません(夜道を走っていても月の位置は変わりませんよね)。
 なので、飛行する方角を月明かりがある方向に対して、一定の角度を保てば、常に同じ方向に飛行する事が可能なわけです。
 しかし、電灯などすぐ近くにある明かりの場合、例えば昆虫の右前方に電灯があるとすると、そのまま真っ直ぐ進めば、明かりの見える方向も移動します。車に乗って景色を眺めると、遠くの山などは位置があまり変わりませんが、目の前の建物はすぐに位置が変わるのと同じ理屈です。
 この場合、昆虫は明かり(電灯など)が同じ方向に見えるように飛行方向を決めるわけですから、そのように補正し続けていくと、だんだんと明かりに近づいていくことになります。さらに、明かりに近づくと、光の周りをぐるぐる回ることになってしまうのです。

 月の光を基準にした飛行は渡り鳥も行っています。ただ、鳥は明かりの種類を識別できるので、火の中に飛び込んだりはしません。夜行性の昆虫(たとえば、カブトムシは基本的に夜行性)も昼間に活動する際は太陽に向かって飛んでいったりしないわけですから、まったく識別できないわけではないのでしょうが、人工的な明かりは昆虫にとって想定外で対処できない光のようです。


注1)
走性は動物にのみ使う用語で、植物の場合は「屈性」という用語を使います。


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