森の詞

元ゲームシナリオライター篠森京夜の小説、企画書、制作日記、コラム等

日々の生物(ナマモノ) 第38回

2009年01月15日 | 日々の生物(ナマモノ)
Q:「昆虫にも血管があるの?」
A:「ありますが、中途半端です」

 体内にある血管の経路のことを「血管系」と言います。
 血管系には「開放血管系」と「閉鎖血管系」があります。ヒトなどの脊椎動物と昆虫などの節足動物はそれぞれの血管系の代表格なのですが、どちらがどちらの血管系かわかりますか?
 答えは昆虫が「開放血管系」、ヒトが「閉鎖血管系」です。どうも「閉鎖」という言葉がイメージ悪いのか、質問すると大抵、間違えます。勿論、間違えてくれそうな生徒を当てるんですけどね。

 血管には動脈と静脈がありますが、この間が毛細血管でつながっているのが、閉鎖血管系になります。開放血管系は太い動脈と静脈はありますが、途中で途切れて毛細血管がありません。
 脊椎動物の血管には文字通り赤い赤血球が流れていますが、これは毛細血管からも外には出ないので「閉鎖」血管系になります。血管から外に出るのは液体成分の「血しょう」だけで、これが細胞の間に入ると「組織液」と名前が変わります。水ぶくれを潰したり、皮がめくれると出てくる透明な液体が組織液ですが、元々は血液の液体成分です。
 昆虫などの開放血管系の場合、動脈はありますが、体の各部まで来たところで途切れて、そこから流れ出た血液は直接細胞間を通ってから、静脈へ戻ります。
 血管の外に血液(昆虫の場合は体液)が出るので「開放」血管系です。

 例えるならば、大型トラックで工場(心臓)を出発し、高速道路(大動脈)を通って目的地の近くまで行き、そこから一般道(動脈)に下りて、どんどん細い道(毛細血管)に入っていき、目的の家(細胞)の前で停車して荷物を下ろして届けた後で、また高速(静脈)に乗って帰ってくるのが閉鎖血管系のイメージです。この場合、トラックは道(血管)から外には出ていません。
 一方、高速から下りるとそこから道路がなくなり、家は車のギリギリ通れる隙間を残して密集して並んでおり、その隙間を通って目的地の玄関先まで行き、そこで荷物を下ろして帰ってくるのが開放血管系です。この場合、隙間はあるけど、明確な道はありません。

 2つの血管系の違いが生じるのは酸素の運搬方法の違いになります。
 脊椎動物の場合、血管内には赤血球が流れており、これが体の各部に酸素を届けます。赤血球は通常の体細胞より少し小さい程度で数も多く、これがスムーズに移動するためには太い血管が必要になります。先程の例え話でトラックと言いましたが、トラックが連続して通れるくらいの道が必要なわけです。

 昆虫の場合、血管の代わりに体中に「気管」という空気の通り道が走っています。これが体中に酸素を届けるので赤血球のような酸素運搬用の血球は必要ありません。昆虫の場合、血球は人間の「白血球」のような免疫の為のものしかありません。人間の場合でも白血球は赤血球より数が遥かに少ないので、太い血管を隅々まで通す必要がないのでしょう。
 整備された道はないけど各家をつなぐトンネルがあって必要な物がそこを通ってやってくるような感じでしょうか。

 ヒトの血液が赤いのは赤血球にヘモグロビンという赤い色素があるからですが、昆虫の場合、そのような血球がないので体液には色がついておらず、食べた物の色がそのまま現れます。虫を潰してしまったときに白とか緑色の液体が出るのは、その虫が植物を食べているからです。

 ちなみに閉鎖血管系を持つ生物には脊椎動物の他にミミズなどの環形動物がいます。環形動物は脊椎動物の直接の祖先で、脊椎動物の閉鎖血管系も環形動物から受け継いでいます。ミミズに感謝しましょう。


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