森の詞

元ゲームシナリオライター篠森京夜の小説、企画書、制作日記、コラム等

日々の生物(ナマモノ) 第33回

2008年12月23日 | 日々の生物(ナマモノ)
Q:「ナマズが地震を予知するって本当?」
A:「ナマズは地震には敏感ですが、予知までは無理なようです」

 ナマズは地震と縁の深い生物です。昔は地面の下に巨大なナマズがいて、地震を起こすとされていました。江戸時代末の「安政江戸地震」の時には「鯰絵」というものが出回ったほどです。
 これは人々が巨大なナマズをやっつける絵で、地震に対するお守りとして売られていました。歴史の教科書で見たことがあると思います。

 現在でもナマズは地震に敏感な生物として知られており、ナマズを使った地震予知が様々な研究機関や大学で研究されています。ただ、その根拠は結構いいかげんです。

 そもそも、地震を起こすとされていた生物はナマズではありませんでした。
 地震=ナマズの関係が最初に指摘されたのは安土桃山時代とされています。豊臣秀吉が地震対策のことを「ナマズ対策」と言ったという話もあります。庶民派の秀吉ですから、地震=ナマズの認識は、当時広く一般に知れ渡っていたものと思われますね。
 さて、それではナマズの前は何だったのかというと、実は「龍」でした。
 風水という考え方を知っているでしょうか? テレビでインチキくさい占い師(誰とは言いませんが)が家の間取りを変える根拠に使ったりしていますが、元々は中国で発達した理論です。
 その風水の用語に「龍脈」というものがあります。これは地面の下にあるエネルギーの流れで、これが乱れると地上に災いが起きるとされています。元々は地面の下にいるのは巨大な龍、もしくは蛇状の生物だったのですが、これがいつの間にかナマズに変化したのです。
 龍がナマズに変化した原因は両者が似ているから……正確には、ナマズこそが龍のモデルになった生物だからです。ナマズはかなり巨大になる生物で、稀に1mを超えたりします。おまけに水底にいてよく見えないので、「水中にいる蛇みたいな巨大生物」と思われ、龍のモデルになったと考えられています。
 ナマズが龍のモデルになったことはヒゲからわかります。ナマズには感覚器官である長いヒゲがありますが、龍にもヒゲがあります(例:ドラゴンボールの神龍)。これは龍を絵に描く時にナマズをイメージしたからとの説があります。

 上で説明した通り、元々は龍だった「地震を引き起こす生物」はナマズに変わりました。ナマズは元々西日本にいた魚で、東日本まで広がったのは江戸時代以降だそうです。新しく入ってきた珍しい姿の魚を見て、江戸の人たちは驚いただろうと思います。
「この魚、話には聞いていたけど本当に龍みたいだし、地震にも敏感だぞ!」
 ……っていう感じで。

 実際のところ、ナマズに予知はできるのでしょうか?
 最初に言ったとおり、ナマズは非常に地震に敏感です。視界の悪い水底にいて長いヒゲで周囲を探って生きているので、振動を敏感に察知できるのです。地震が発生する前に生じる電磁波を感じ取ることができるとも言われています。
 ただ、昔から研究されている割に具体的な成果はあがっていません。
 そもそも、動物を使った方法以外でも地震予知は成功しておらず、こればかりは正に「天任せ」としかいいようがありません。中国では国レベルで動物の異常行動などを集めて地震予知を行う取り組みを行い、実際に一度予知に成功したのですが、その翌年の地震では予知に失敗しました(現在は行われていません)。
 将来、完璧な地震予知が現実のものとなればいいですね。

 
 最後に、ナマズと地震に関する松尾芭蕉が弟子と詠んだ歌をご紹介。


 大地震 つづいて龍や のぼるらん (芭蕉の弟子)
 長十丈の 鯰なりけり (芭蕉)

意味
「大地震の後に龍が天に昇っていくよ」
(と弟子が幻想的な描写をすると)
「それ、大ナマズやし(笑)」
(芭蕉が下の句でツッコミを入れた)


 ……それでいいのか? 芭蕉。それで。


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