第四章 日和見 ~馬詰柳太郎~
残されたのは信十郎と柳太郎、そして招かざるお米である。柳太郎はお米の存在をないものと思うことにし、大いに盃を重ねていった。
「お米さん、在所は何処ですか」。
流石に年のこうで、信十郎は言葉を投げ掛けるが、「へえ、丹波どす」と短く答えるのみで、次には発展していかず、信十郎も手持ち無沙汰で盃が進む。
気が付けば父子はお米の存在を全く無視して、無言のまま盃を組み交わしていたので、半時ですっかりと出来上がっていた。
その間お米は膝を崩さず、ただ座っていただけである。お梅のように気の利いた会話も出来る筈もない。
「ほな、うち、いにまっさ」。
ほっと、肩で息をする父子だった。
「柳太郎、送って差し上げなさい」。
「えっ、私がですか」。
余計なことを、と柳太郎は思った。
「若い娘さんに夜道は物騒だ」。
若い娘は当たっているが、物騒だとは思えない。
「しかし、南部さんのところは直ぐ目と鼻の先です」。
「見たところ、娘さは提灯も持っていないようだ。それにこの雨では足下も覚束ないだろう。送って差し上げなさい」。
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残されたのは信十郎と柳太郎、そして招かざるお米である。柳太郎はお米の存在をないものと思うことにし、大いに盃を重ねていった。
「お米さん、在所は何処ですか」。
流石に年のこうで、信十郎は言葉を投げ掛けるが、「へえ、丹波どす」と短く答えるのみで、次には発展していかず、信十郎も手持ち無沙汰で盃が進む。
気が付けば父子はお米の存在を全く無視して、無言のまま盃を組み交わしていたので、半時ですっかりと出来上がっていた。
その間お米は膝を崩さず、ただ座っていただけである。お梅のように気の利いた会話も出来る筈もない。
「ほな、うち、いにまっさ」。
ほっと、肩で息をする父子だった。
「柳太郎、送って差し上げなさい」。
「えっ、私がですか」。
余計なことを、と柳太郎は思った。
「若い娘さんに夜道は物騒だ」。
若い娘は当たっているが、物騒だとは思えない。
「しかし、南部さんのところは直ぐ目と鼻の先です」。
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