啓蟄の犬と猫とがいさかへり 啓蟄の日の浅間山荘白さます 啓蟄の日の佳子(かこ)さまに驚嘆す 啓蟄やかつて解体作業試掘編 まだ人間でいたし啓蟄の日の終る くろぐろとまた白々と啓蟄日 啓蟄やまだ寒かろう暑かろう 啓蟄などなかった新宿歌舞伎町 啓蟄や醤油たっぷり貧しけれ 高田渡の「生活の柄」啓蟄日
啓蟄や北乃きいなら知っている 啓蟄のかたまってなほ影持たず 啓蟄の悪源太義平もの申す 啓蟄を虫けらと呼ぶ偽キリストたち 啓蟄の穴をたどればただの闇 啓蟄の鳩はいらぬと絶叫す 遠景の富士は合成啓蟄日 虫に問ふ啓蟄とは絶望か希望か 啓蟄の日に人類は何故をらぬ 眠ければ死ぬまでねむれ啓蟄期
俺はアルコール依存症水温む 道頓堀に飛び込む姿勢水温む 大鴨をかもさんと呼ぶ水温む 火の鳥を見たければ見よ水温む 犬と猫に河馬も加わり水温む 胸かゆく背中もかゆし水温む 額の蝶宇宙を翔べり水温む 想い出の渚は絵空ごと水温む 仮設の灯また一つ減り水温む 太宰忌は彼方にありて水温む
春遅々と六十ともなれば声激し ビタミン剤ぶちまけられて春遅々と コンビニの奥のいさかい春遅々と 巨樹となり大木となり春遅々と 春遅々とかつて傷痍軍人二十万 春遅々と肝臓癌なら助からぬ 春遅々と「逆(さか)世界史」に没頭す 春遅々と醤油むらさき味良けれ 春遅々と辛口コメント封印す 春遅々と元ちとせは二女の母
春鴨の無念成層圏を浮遊せり 放水路までの暗澹鴨去りぬ 火の鳥を見た春鴨はもう帰らず 残る鴨ディープ・インパクトは生きている ポールシフトはこれで3度目鴨残る 引き鴨の引き際を見て我れも引く 春鴨は不在の貼り紙誰も見ず 引き鴨の引くとき大放水の続きをり 春の鴨天上に上がる水しぶき 鴨帰る道すじパネルに太く画く 天上に人生の帰趨通し鴨