八王子アローンの名称は極めて象徴的であった。1960年代末の若者文化のキャッチフレーズは【連帯をもとめて孤立を恐れず】である。かの東大全共闘の残した名セリフである。当時の各大学のキャンパス内の至る所に書きなぐられていたという。69年1月の安田講堂陥落以来、同年中に全国の全共闘壊滅した。翌70年に、今度は全国の高校で反逆の嵐が吹き荒れた。全てはここまでであった。70年代後半ともなると、取り残された私たちから一切のキャッチフレーズは奪われ、文字通りの孤絶【アローン】こそが最も相応しい情況が訪れていた。1976年の秋の【アローン】は不発に終った。出演予定だった前衛ジャズ・ドラマーのミルフォード・グレイブスが何とドタキャンしたのである。その日、会場の【アローン】には数百人の入りきれないほどの聴衆が集っていた。道路まで人が溢れていて、中からは何もジャズ演奏らしい音は聴こえて来なかった。店のスタッフの言うには、突然出演者サイドからキャンセルの申し出があり、我々に報せる手段は無かったという。とりあえず、待機していた所謂前座の日本人グループ【集団疎開】の演奏が始まった。私には、彼らの演奏を耳にするのは初めてではなかった。それから数ヶ月前の、新宿郊外の甲州街道沿いにあったライブ・スポット【騒(がや)】でのことであった。・・・《続く》
「エッセー・評論」カテゴリの最新記事
【私とは誰か】蟻地獄見てそれからの私小説 松村五月*蟻地獄解説付/一句鑑賞
【私の変貌】蟻地獄見てそれからの私小説 松村五月/一句鑑賞
【死の確実さ】陽炎のたかさ一人逝きまた一人逝き 青木栄子/一句鑑賞
【新型コロナとの遭遇】もう会えないこと知ってたけど許したのよ(ハイファイセッ...
死者にしてとわの若者へ奉げるオマージュ/続夏石番矢を読む(4)
古本市の金平糖のような時間にいる 夏石番矢/続夏石番矢句集『氷の禁域』を読む(...
裏切らない酒とフトンは永遠の友/一句観賞~新北大路翼を読む(1)
新しい定型詩を生み出すちからー第10回世界俳句コンファレンスに参加して
俳句の《世界性》は可能か?・・1970年世代の空無感を重ねる*夕カフェ付/続夏...
新たな神に代わる存在とは?/続夏石番矢句集『氷の禁域』を読む(1)