好きという一語でできた銀河系 乾佐伎 「吟遊」77号
同誌の末尾にある投稿欄(吟遊俳句ギャラリー)の入選作。この句を何の先入観も無しに真素直に読んでみる。まず『好きという一語』と『銀河系』の対比である。これによって、ここにある『銀河系』の季語性を含め、既存の言語認識の対象性からは遠くかけ離れた表現であることがわかる。《好き》という感情がそのまま言語として表出され、それによって自身の発語の全体性が【銀河系】として無限の拡がりを持っている。一次感情と直結した言語(存在)による、この世界の再生への希求である。この作者は、同誌の発行者の愛娘であり、当然ながら今後の大きな飛躍が期待されている。そのための方法はここにすでに提示済みと言ってよい。・・・《続く》
ショートホープは短い希望たとへば雪 北大路翼 「街」129号より
タバコを吸わなくなってから10年以上が経つ。ショートホープが名前の通り、本当に短かったのかどうかまるで記憶にない。私がタバコを吸い始めたのはセブンスターだったが、時折このタバコも吸っていた。ハイライトと並んで否もっと強くはなかったろうか。小さめの紙箱に10本収まっていたように思う。ショートと言うからには、大元のロングもあるはずだが、こちらもハッキリ憶えていない。紙巻ピース同様に、フィルター無しで20本が円筒形の缶に収まっていたのかどうか、いや違っていた。たった今思い出したが、通常と同じ様に20本が紙ケースに収まっていたように思う。そして、フィルターが付いていたような付いていないような・・。いずれにしても、ショートホープは紙箱の10本入りで強かったが、一本々々ゆっくりと吸ったことは間違いない。「ショートホープ」とは短い希望の意味であり、若い時にそれを吸った時、どんなにゆっくり吸ってもアッという間に吸い終えてしまったのは確かだ。その頃、おそらく作者同様に私もまた希望に満ち溢れた青春時代を送っていたとはとても言えず、その一本を冬場に吸っていた時に、あたりは珍しく雪に覆われていたのかもしれない。・・・《続く》
レミオロメン 『粉雪』
ポストまで歩いて2分 走れば春 鎌倉佐弓
最近、あまり句を読んで感動するということが無い。この間の日曜の所属同人誌の新年会で最新号を渡され、編集者である女流俳人の作品をあらためて目にした。 ポストまで歩いて2分 これはよくあること。現に、わたしが住んでいる家からちょうど2分ばかりの所に小さな郵便局とポストがある。そして、何とは無しにただ一字を空けて・・走れば春 とある。この時間と空間の飛翔感が凄まじい!この【走る】という一大飛躍があってこその《春》であろう。作者は、一字の空間の奥深く封じ込められた人生の何事かによって、とてつもなく大きな飛躍を経験し、その飛躍によって《春》というかけがえのない自分だけの固有の時間を手に入れることが出来た。何という、生きるということの確信に満ち溢れた清々しい時間なのだろうか。・・・《続く》