限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

沂風詠録:(第315回目)『良質の情報源を手にいれるには?(その20)』

2019-07-14 11:12:39 | 日記
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C.英語

近年、小学校からの英語教育が導入され、また大学入試でも TOEFLやIELTSなどの検定試験の受験が必要とされるなど英語にまつわる話は賑やかだ。さらには、ポケトークのような非常に高精度の自動翻訳機(AI翻訳機)が登場するなど、英語を使う環境も、つい10年前と比べても大きく様変わりして、隔世の感がする。会話だけでなく、文章面でも翻訳機能がずいぶん向上している。驚くことに、Google翻訳よりも更に高精度の翻訳システム・みらい翻訳を国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が開発、商品化している。

このような便利なものがあれば、わざわざ苦労して英語を学ばなくてもいいのでは、と考える人々も多いことだろう。その意見もある面では正しい。しかし、旅行会話や仲間内のだべりではなく、グローバルビジネスでしっかりとした文章を書くことが求められるビジネスパーソンは、英語の習得も目指すところがもっと高い所でなければいけない。というのは、ビジネス英語の真価が問われるのは実は会話ではなく、文章力だ。企画書や提案書・報告書の類だけでなく、Emailにおいても英文を書く機会は非常に多い。その時、品格のある文章が書けるか、会話体を単に文章にしたような稚拙な文章かどうかでその人の評価がずいぶん異なる。

私が今まで出会った英語ができる人の中には、会話をしているのを聞くと中学生レベルだが、書かせるとグローバルに通用するぐらい立派な英文の書ける人が何人かいた。会話力と文章力の差に唖然とする位だ。ただ、その人たちはいづれも海外で長らくビジネスをしていたというが、高い文章力であれば会話は下手であっても、立派にビジネスをこなしていただろうと想像される。

本稿では現在巷間で話題になっている英語学習、とりわけ学校教育の現場で発生している問題や、あるべき論には触れず、もっぱらグローバルに活躍したいビジネスパーソンを対象とし、ビジネスで必要とされる、
 「英単語に対する感性・センスを向上させる」
ことの重要性に絞って話をすすめたい。

ところで、そもそも英単語の感性とは何をさすのだろうか? 

ひとまず英語は横において、服(服装)について考えてみよう。服とは外気や太陽光線から体を守るのが主たる役目だ。もっとも、文明人になってから羞恥心とやらのために裸でいるのが不躾だということで肌を覆うために服を着るが、それはあくまでも第二義的な意味だ。つまり、服を選ぶ第一義的基準はつきつめて言えば、暑くもなく、寒くもなく、適度な風通しがある服がベストのはずだ。しかし、羞恥心の他に虚栄心(見栄)のために、不要なデザインや飾り、色合いなどがごちゃごちゃと服にに加味された。



厄介なのは、それらの追加物が上下の服に勝手きままに追加されただけでなく、帽子、手袋、ネックレス、ブレスレット、イアリングなどとの調和を問題視するようになってきたことだ。つまり、これら身に着ける物の一点だけ豪華であればよい、というのではなく、全体的に同じように調和のとれた豪華さを醸し出していなければいけないのだ。ありていに言えば、アルマーニのジャケットを着る時にはビーチサンダルを履いては調和がとれないのである。(もっとも、アルマーニがデザインしたビーチサンダルは販売されているが。。。)

世の中にはファッション雑誌が多く出回っていて、専門家が服や装身具のの取り合わせについて、いろいろとアドバイスしてくれる。ファッション誌を読んで、自分も真似をしてみようと、身銭をきっていろいろと取り合わせて着て、街中を歩いてみて、周りの反応や、友達からの意見なども聞くうちに、(うまくいけば!)自然と自分なりのファッション感覚が磨かれてくる(はず?!)そうなると、自分で服装をコーディネートする時も、あるいは人の服装を見ても「ここがおかしい」とか、「この組み合わせはすばらしい」とか(正しいかどうかは別として)自分なりに判断を自信をもって下せるようになる。

服について理解して頂いたとして、本筋の英語の話にもどろう。

英単語に関しても、服装についての感性と同様、単語に関する感性が存在する。英単語の感性が磨かれると、一つの文章を構成する単語の組み合わせが、ちぐはぐだと感じることができる。ちぐはぐな単語を並べた文章でも、意味が通じないことはないが、非常に品のない文章に感じられ、書いた人の品性までもが疑われる。

フランスの博物学者のビュフォン伯(Georges-Louis Leclerc de Buffon)は、人の性格とその人の書く文章の関係について『文は人なり』と述べた。(The style is the man himself. Le style c'est l'homme meme.)つまり、文章をみれば、その書くひとの人柄が分かるというのだ。

私たち日本人は英語を中学生あたりから学校で習うので、ネイティブ的な感覚を持つことはほとんど不可能であるのは事実であるが、それでもファッション感覚同様に、時間をかければ自分で磨くことが可能である。

私は、日本人の書いた英文を読む機会はかなり多いと思うが、 TOEICなどで高い点を取る人でも、英単語に関する感覚について訓練(自己訓練も可)がされていず、「アルマーニにビーチサンダル」風のちぐはぐ感の漂う文章をかなり多く見た。その背景を推測するに、日本語で考えた単語で和英辞典をひいて、そのなかから適当な英単語を前後の単語との調和をを全く考えずに当てはめているからであろう。和英辞典から直行してきた英単語だけが「アルマーニ」風にエッジが際立っているものの、その他の単語はだらしないビーチサンダルのレベルであるのだ。

こういった観念的な話をしても分かりにくいので、具体的なサンプルを示そう。(文章で示すのが本筋であるが、かりやすさのため口語体の文章で示す。)まずは、次のYouTubeをご覧頂きたい。

1.【How AI can save our humanity】

Kai-Fu Lee という中国人はマイクロソフトの幹部マネジャーで短い時間に感動的な場面を多く盛り込み非常に上手なプレゼンをしている。全体的にTEDらしく、使う英単語は口語調で統一された分かりやすい文章だ。(ビーチサンダルより数段品格は上がるが、口調はカジュアルである。)

2.【Dawkins on religion: Is religion good or evil?】

ドーキンスは世界的に有名な生物学者でかつ、科学者の立場から宗教・信仰に凝り固まることに対して否定的見解を示す。彼の話ぶり、特に、改まった態度で、自分の主張をゆっくりとした口調で述べる時は、かなり「アルマーニ」風の典雅な趣が感じられる。多分、この時に彼が話している言葉はそのまま文章にしても立派だろうと思う。

さて、これらのビデオを見て、自分の英語の能力との格差に絶望感を抱かれた方も多いであろう。しかし、ご安心を、私がここで問題にしたいのは「このレベルの話し方ができなければだめだ」というのではなく、文章を書くときに自分が使う英単語のレベル感を意識して欲しいということだ。

次回から、英単語がもつ語感やレベル感を知る「自己訓練」になり、また文章のスタイルを学ぶ上で参考になる辞書や百科事典を紹介しよう。

【参照ブログ】
【座右之銘・73】『言身之文也』
百論簇出:(第226回目)『英借文を卒業し、本格的な英文を書こう』

続く。。。
コメント
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