★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

スパイをさがせ

2012-05-30 23:50:36 | 文学
スパイを捜せ



在日中国大使館の書記官がスパイだったかも、という記事が話題である。民×党の議員などが「本人にスパイだったのか聴いてみたい」と言っているとか、中国側がスパイであったという証拠はないとか言ったのはけしからんとか、またまた学級会並みの議論が出てきている。「センセー、史郎君がまた女子の悪事をちくりましたー。先生は史郎君をスパイとして使ってるんでしょう。卑怯だよー。私もえこひいきしてよ。」私なんか人の言うことをはいはい聞いてしまうお人好しであるが、こういうリアルポリティックスを舐めた雰囲気がこの国に出てきがちである事態を非常に心配している。本人が「間諜でした」とか言うのはそもそもスパイの発言として信用できないし、中国がそんなこと自分で認めるわけないじゃん。間諜というのは昔から、間諜させている権力の側ですら「あいつホントに間諜のつもりで潜入しとるのか」という疑いが出てくるのを込みでやってるもんじゃないのかな。スターリンがゾルゲを信用しなかったは当たり前である。そもそもスパイはものすごく高い確率で二重スパイだからである。そうでなけりゃやってけんでしょうが……。近衛内閣がブレーンとして使っていた尾崎秀実がスパイだったとかいってもさ、……だいたい近衛内閣がやってた東亜協同体論なんかソ連臭がぷんぷんするじゃねえか、そもそも隠してなんかいないだろ。

「共産主義万歳」といって死んだゾルゲなんか、さいごまで自分の素性を隠していたかもしれないね、実はアメリカのスパイだったとかな……。

ゾルゲが本心を言って死んだとすれば、まだ殉教者としてあっぱれであろうが、もっとやっかいなスパイが日本には存在していた。ゾルゲ事件の時には「あなたの隣にもスパイがいるかもよ」とかあおり立て、上の議員みたく「嘘つくのはいけないお」などと社会を学級会並みに落とすやつが繁茂しているから、さすが帝国臣民はナチスより団結した全体主義者に成長していたかとおもいきや、アメリカに負けた途端に「ぎぶみーちょこれーと」などと流暢な英語をしゃべれることが判明したのである。こいつらは全員アメリカのスパイだったのだ。アメリカに無理に負けただろ。

昨日、山田風太郎の『戦中派虫けら日記』や『不戦日記』を読んでいたのだが、こういう人を果たしてスパイ認定するか否かが吾々の課題である(笑)吉本隆明みたく死ぬつもりだったらしい人はまだいいのだ。あるいは擬装転向の人もまあゾルゲ並みに自分の本心に対しては裏切り者ではなかったといってもよい。ただし、山田風太郎みたいな、素直に転向を繰り返す(意識もなく転向する)タイプをどうすればよいのであろう……。しかも頭がある程度良くてね……。