鑿壁偸光 漢字検定一級抔

since 2006.6.11(漢検1級受験日) by 白魚一寸

答えを見れば分かるけど・・

2007年02月25日 | 18-3(第42回)

 試験直前の復習方法ばかり考えていても辛気くさいので、18-3の書き取りで間違ったところ に戻ります。(十)文章題の内、Cは山県悌三郎著「理科仙郷 第一講」から出題されました。国会図書館のデジタルアーカイブ(出題は、12頁から13頁)で読めます。

 この問題を検討するために、原典を平仮名に変えて以下に問題文の一部を引用します。下線部が書き取りで出題されたところです。問題文とは少し字体や送り仮名の異なるところがあります。なお、少しフォントの違う大きな字は、e漢字で、1級配当外の漢字ですから、問題文には仮名が振ってあります。それ以外は配当漢字です(尚、鞳は今のところ△の字で、私は学習しない漢字にしています。)

 「フギョウ(俯仰)して両間の万物を察するに、其のソウボウ(匆忙、怱忙)活溌なる、未だ嘗て水に勝れるものあらじ。その溝渠に流れ、河海にミナギ(漲)るや、鞳声あり。澎湃浪を起す。泉となりては庭上に出し、雨となりては屋下に瀉下し、或は微風に弄せられて静池俄に碧漣を生じ、或は小蘚に攪せられて鏡面倏ち波紋を見る、其の駛激奔騰嘗て一瞬も歇止することなきに非ずや。然れども此の如く活溌なる水の、忽ち理境の幻術に束縛せられて、毫も運動する能はざるに至るは、諸子其れ之を見ざるか。・・・」

 この著者も書名も初めて知りましたが、ビクトリア朝時代を代表する科学入門書でバークレーという人の翻訳書です。明治19年に出版され日本における科学啓蒙書の嚆矢となった本のようです。これが翻訳とは恐れ入りました。現代人にとっては堂々たる漢文です。当時、どういう人が読んだのでしょうか。

 扨て、書き取り問題は太字部分ですが、俯仰と漲るは難なく書けましたが、怱(匆)忙は全く浮かびませんでした。あおむし様の過去問情報によれば、怱忙は11-2、16-1、匆忙は14-1で いずれも読み問題で出題されており、読むことは出来ましたし、意味もいそがしいということは分かっていました。

 しかし、そうぼうという仮名を見ても、怱忙も匆忙も全く浮かびませんでした。書き取りは初めての出題のようです。 あおむし様が以前仰有っていたように、過去問の読み問題は、書き取りで出る可能性があります

 読めるということは、漢字(怱(匆)忙)→仮名(そうぼう)という単方向の記憶だけであり、仮名そうぼう→漢字(怱(匆)忙)という逆方向も想起できるようにして、漢字(怱(匆)忙)⇔仮名(そうぼう)という両方向で記憶再生が出来なければいけないということです。私の場合、それが先ず出来ていませんでした。

  私は、どうもこの文章がよくわからなくて、先ず、ソウボウ活溌という四字熟語が無かったか考えましたが、活溌溌地しか浮かびませんでした。次にそうぼうを主語、活溌を述語と捉えて、活溌なものは何だろうと考えました。そういえば、草莽は、そうもうと読むけど、確かそうぼうとも読む、明治維新で活躍した草莽の臣は活溌だったから、よくわからないけど、草莽が活溌なら繋がるかなあと思って草莽と書いて間違いました。

 これは、ソウボウは主語ではなくて、ソウボウ≒活溌という類義語を探せばよかったのです。でもソウボウ→怱(匆)忙は想起できませんでしたから、結局答えられなかったと思います。また、この部分は水の有様を書いた所ですが、水が活溌というのは何となくわかりますが、水が怱(匆)忙(いそがしい)というのはどうもぴんと来ません。

 今、落ち着いて文章を読むと、水が活溌というには、水の擬人化ですから、水が怱(匆)忙というのも擬人化なのですね。「然れども」以下は、水が動かない乃ち氷の描写に転じています。理科の本ですから、液体の水と固体の氷を対比した文章なのでしょうが、それにしても文学的な科学書です。

 最近の文章題の書き取りは、文意が分からなくても問題箇所の熟語を知っておれば解ける問題が多くなったように思います。ただ、本問は、文意が取れないと解答できない問題です。18-1の白皙でも書きましたが、昔はときどき出ていたものであり、久しぶりに難しいのが出たなあという印象です。

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 【昨日の学習】
1,「本試験型」第8回の間違ったところを再度解きました。昂然⇔しょうぜん悄然がまた書けませんでした。 「字通」を繙きながら肖の音符字をチェック。

2「本試験型」第9回 正答率74%(修正正答率79%)。やっぱり週1回分では、憶える量より忘れる量の方が多いかなあ。



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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんばんは。 (しのぶん)
2007-02-25 02:33:56
>山県悌三郎著「理科仙郷 第一講」
そんな本だったとは!びっくりです。
「そうぼう」は、私も全くこの意味が思い浮かばず。迷わず「相貌」と書いてしまい、語彙不足を実感したところです。

>両方向で記憶再生
そうですね、両方向で再生できてはじめて自在に使えるものだと思います。
「書ける=読める」と思うので、読みだけの詰め込みばかりやっていた反省もあり、書きとりに力を入れなくては、と感じています。
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相変わらず宵っ張りですねえ (白魚一寸)
2007-02-25 11:15:33
>そんな本だったとは!びっくりです。

出典探しは、私は興味があるので、結構やっています。小問(一)の読み問題なども、故事諺辞典にも載っていないような訳の分からない文が時々出ますが、出典が見つかると嬉しかったりします。オタクですね。ただ、点数向上には全く繋がりませんので、合格までは真似をされませぬように(^_^)

>「相貌」と書いてしまい

水の擬人化までは想起されたのですね。読解力がおありだなあ。

>両方向で再生できてはじめて自在に使える

あおむし様が、以前、1級漢字まで常用漢字として考えるということを仰有ってました。http://blog.goo.ne.jp/aomushi02/e/86ae10c60d83daeb95ffa4c2d9fcb90c
私にはとても無理ですから、憶えるべきことを少なくする方針でやっていますが、少なくとも書き取りで出そうな漢字までは、自在に使えるようになりたいものです。

「理科仙郷」はアーカイブを少しだけ捲って見ましたが、漢字や文章は物凄く難しいのですが、内容は其程難しくなさそうです。アーカイブ37頁に「諸子は、先ず、水の酸素水素の二物より成ことを知らざるべからず」とあります。つまりこの本はこのことを知らない人が読む本なのです。明治19年当時の理科の知識が劣っていたといえばそれまでですが、現代とは比べられないほど、当時の人たちは、漢字の知識があったのだろうなあと思います。この文章がすらすら読めるようにはなりたいなあと思っています。

>書きとりに力を入れなくては

書き取りは配点が倍ですから、読みに比べて倍の時間はかけるべきでしょう。でも、夜更かしは体に良くないよ。
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