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安倍首相に反撃する山田厚史氏 被告人陳述(全文)

2007-07-02 18:17:04 | メディア
6月29日(金)13時10分 東京地裁 民事39部 705号法廷


 裁判が始まるに当たり、被告として、申し上げさせていただきます。

 私は、経済記者として、金融、財政、国際経済など担当してきました。経済政策や企業経営を、可能な限り分かり易く伝え、国民の知る権利に応える報道を、と努力してきたつもりです。テレビの報道番組は、新聞の経済記事になじみの薄い読者を引き付ける工夫があり、出来るかぎりの協力をしてきました。
 
今回、日興コーディアル証券が大方の予想に反して上場廃止をまぬがれ、メディアでは政治家の関与が疑われていました。

 何が、どう問題なのか。サンデープロジェクトの出演者は、複雑な仕組みを、視聴者に分かりやすく開示しながら、議論しました。不可思議なことが多すぎる。証券市場はこれでいいのか。そうした問題提起を投げかけた番組になったと思います。 

 ところが、総理大臣安倍晋三氏の元秘書・秘書3人から、私の発言が「名誉棄損」であるとして総額3300万円の損害賠償を請求され、驚きを禁じ得ません。
 
 なぜなら、この提訴にも、不可解な部分があまりにも多いからです。以下4点について、指摘したいと思います。

 第1に、なぜ朝日新聞なのか、という点であります。
 
 私の発言は、テレビ番組で為されたものです。通常、その責任は、発言した個人と、番組を制作し放送したテレビ局にあります。しかし、原告はテレビ局を素通りして朝日新聞を訴えました。「使用者責任」がある、という理屈です。
 
 名誉が毀損された、というならなぜテレビ局を避けたのか、そして、朝日新聞の責任にこだわるのは、なぜでしょうか。

 第2に、なぜ「謝罪広告」を新聞に掲載せよ、というのか。
 
 テレビで「問題発言」があった場合、その番組で、訂正するのが普通です。司会者やアナウンサーが、後日の番組の中で訂正や謝罪を行う、というのが一般的なやり方です。名誉が毀損された、といいなから、テレビ局に謝罪や措置を求めず、朝日新聞に「謝罪広告を載せろ」、と要求しているのは不可解です。
 
 サンデープロジェクトの視聴者はすべて朝日新聞の読者ではありません。なぜ異なった媒体で「謝罪」しろというのか。「筋違い」とはこういうことを言うのではないでしょうか。
 
 第3に、なぜ山田の発言だけが問題にされるのか。

 番組のVTRを見れば明かですが、証券会社と政治家との関係は、出席したコメンテーターが口をそろえて問題にしています。安倍首相と日興証券の有村前社長との関係に言及しているコメンテーターもいました。そうした中で、山田の、10秒程の発言だけを切り取って問題にされました。これも不可解です。

 第4に、なぜ秘書から訴えられなければならないのか、ということです。
 
 番組での私の発言は、秘書の方々に言及したわけでなく、原告3人に関する発言は全くありません。原告とは面識もありません。その方たちに訴えられて、面食らっている、というのが実情です。

 最後にひと言。

 私の発言は、市場経済の根幹である証券市場は、恣意的な運営は好ましくない、国際的な信用を得る為にもフェアで透明な運営が行われるべきだ、との考えからなされたものです。記者としての経験から、この国は、制度はそれなりに完備されているが、時としてルールが不公平に適用されることがある、と感じています。

「政治的判断」という言葉が、政策決定の裏にしばしば登場します。国民の目の届かないところで、誰が、何を決めているのか。メディアは国民の知る権利の支えであり、政治家は疑惑に、十分な説明責任を果たすことが信認につながる、と考えます。

 テレビの討論番組は、政治と茶の間をつなぎ、人々の関心を高める役割を果たしてきました。コメンテーターが様々な角度から発言し、視聴者に判断材料を提供する。そして、政治を身近な問題として提起する番組として人々に支持されてきました。
 
 ナマ放送の討論は、間髪入れずに発言することから、時として尖ったり、曖昧な表現になったりすることがあります。その言葉尻を捕らえて権力者が名誉棄損を乱発し、メディアが萎縮するようになれば、番組は窮屈なものになり、やがて人々の知る権利が脅かされる恐れさえあります。

 権力者とそれを監視するメディアが適度な緊張感をもって対峙することは、民主主義社会の必要条件ではないでしょうか。

 裁判所におかれては、メディアと政治権力の好ましき緊張関係に配慮した決定を期待してやみません。           

2007年6月29日                                                          
被告 山田厚史