No91 立命館常任理事ならびに関係各位へ
2021年5月4日 元立命館総長理事長室室長・ジャーナリスト 鈴木元
立命館、大阪地裁で10億円越える「損失」と裁判費用の19/20(95%)の負担求められる判決!
大阪成蹊学園を相手取った「損害賠償」訴訟、直接の責任者である森島朋三理事長・志方弘樹専務は責任を明確にしなければならない。
※本文書は立命館問題専用のブログ、インターネットで スズキ ゲンさんのブログ と検索すれば出てきます。毎週約1000件のアクセスがあります。
※本論稿に関しては、このシリーズのNo62.63.64で裁判に至る経緯を書いています。また拙著「続・立命館の再生を願って」(風涛社)も参考にしてください。
はじめに
学校法人立命館は2016年(平成28年)7月14日、大阪地裁にたいして大阪成蹊学園を相手どって長岡京キャンパスの土壌汚染問題とかかわって損害賠償を求める裁判を起こした(裁判事件番号 平成28(ワ)4898)。すなわち立命館中高等学校の校地として大阪成蹊学園所有の長岡京の土地を購入したが、そこにヒ素などの有害物質があったとして、その調査費用、除染費用等を損害賠償として11億2803万5950円を支払えとするものであった。およそ5年にわたって裁判は続けられた。私は何回も裁判所に出かけその進捗を確かめに行ったが、立命館は小さな追加資料を時間をおいて何回にも渡って提出してきた。裁判を引き延ばして学内関係者が事件を忘れてしまうのを待っているのではないかと思われるようなやり方であった。
しかし2021年(令和3年)1月14日、大阪地裁は判決として①大阪成蹊学園にたいして、立命館が求めた11億2803万5950円の賠償請求にたいして、その5%にも満たない5589万3581円を汚染調査費用の負担として支払いを命じたものの、②立命館が求めていた除染費用等の10億円を越える支払いは必要がないとしたうえで、③両者の裁判費用の合計の19/20(95%)を立命館に支払うように求めた。判決の5日後の1月19日、立命館ならびに大阪成蹊学園は共に控訴した(大阪高裁民事第二部 裁判事件番号 令和3(ネ)335)。
(1)事の発端から問題・疑惑だらけの長岡京移転問題
立命館中高等学校は京都市伏見区深草にあったが、予てから①キャンパスが狭隘であること②同じ京阪沿線の宇治市に立命館宇治中高等学校があったことから移転が課題となっていた。③京都市北区烏丸北大路に立命館小学校が2006年(平成18年)に開設され、小・中・高の接続教育の必要性が浮上した。立命館中高等学校の移転先としては、常識的に言って立命館小学校と、それほど遠くないところや京都市営地下鉄沿線など交通の接続が便利なところが想定された。しかし2009年秋に森島朋三専務理事(当時)と志方弘樹財務部付け管財部長(当時)から移転構想が提起されたとき、予想に反しては、立命館小学校から遠く離れた阪急の長岡京駅近くにあった大阪成蹊学園造形学部の跡地を購入するとした。
ところが以下の問題が浮上した。
①校舎建設費(110億円)は立命館中高等学校で多少の積み立てはしていたが足りない分をどうするか。立命館では各校は部門間融資制で運営していたので足りない分は法人(具体的には立命館大学)が貸付、計画的に返済する。他の付属校の建て替え・新規建設は総てそうしてきた。ところが森島専務・志方部長は小学校設置にともなう接続教育確立のための「例外措置」として110億円を法人が負担するとした。
②土地については図面を見た限り深草より狭く、野球の練習場はグランドの真ん中にあった。私は「深草より狭いではないか」と質問したところ志方部長から「深草は山の部分もあり有効面積ではこちらの方が広いです」「グランドの真ん中に野球の練習場があり、他の運動と関わって危険ではないか、後になって、別の場所に野球練習場を購入したり借り受けたりするのではないか」「そんなことはしません」と言う答弁であった。「ところで購入費はどうするのか」と質問したところ森島専務は「深草校舎の校地を近隣にある龍谷大学に35億円で購入してもらうことになっている」と説明して常任理事会・理事会を押し切った。しかし私は「森島専務のいつもの嘘ではないか」と思い、知り合いの龍谷大学の大学幹部に問い合わてたところ「今のところ、龍谷大学ではそのような話はなく、いかなる会議体にも提案されていない」ということであった。やはり森島専務のつくり話であった。改めてそのことを言ったが「購入は決定済み」ということで変更されなかった。結局ずっと後の2013年の秋に京都市立工業高校の合併に伴う新キャンパス用地としてとし21億円で売却された。しかし当初の龍谷大学への売却費35億円にたいして14億円の予算不足となった。なお長岡京の購入費は38億円であり、差し引き17億円の予算超過支出となった。
③茨木キャンパスの建設工事を竹中工務店に220億円で発注した時から、関西の建設業界では「長岡京キャンパスは鹿島建設に発注するらしい」との情報が流れていたので、私は森島専務に「イエスかノーか応える必要がある」と質問したが、彼は答えなかった。そして情報通り、鹿島建設に発注された。それどころか長岡京キャンパスの鹿島建設への110億円もの発注契約を理事会に図らず長田豊臣理事長の決済だけで実行していた。
上記の事実が分かったのは茨木キャンパスの工事を竹中工務店に220億円で発注するにあたって理事会の議題にされていないことが話題となったのを契機に私が調べたことによる。すると2009年度(平成21年度)の最後の定例理事会(2010年3月)において、森島専務から年度末の膨大な議題の中に「極実務的なことです」と言って経理規定の一部改正をも繰り込ませていた。経理規定とは支出にあたつて総てを理事会議題とする訳にはいかないので課長であれば100万円以内、部長であれば500万円以内は現場で決済できる権限を付与するためのものである。この時、理事長の決済権限を「1億円以上 」としていた。決済権限を定める規定は「〇円以下」であって「〇円以上」はありえない。それを理事長の決裁権限を「1億円以上 」としていたのである。
私は文部科学省に連絡し「これは経理規定と言えないし、220億円もの契約を理事会に図らず理事長の決済で行うのは間違いである。ただちに指導され是正されたい」と伝えた。結果理事会開催の直前の午前中に議題にされた。この経過の中で、それより前の長岡キャンパスの鹿島建設への110億円に及ぶ発注が理事会に図られず長田理事長の決済で行われていたことが判明したのである。なお私の指摘にもかかわらず、この理事長の決済権限を「1億円以上 」とする経理規定は改定されていない。法令遵守の立場から速やかに改定しなければならない。
④建設予定地に有害物質が出た場合は、購入後1年以内であれば売却側である大阪成蹊学園の責任で調査し、結果に基づき除染などの措置を大阪成蹊学園の負担で行うという契約が交わされていた。にも拘らず鹿島建設が整地工事を開始した段階で「ヒ素などの有害物質が出た」としたが、立命館は大阪成蹊学園に調査・除染を求めず、鹿島建設に調査を行わせさらに除染工事を契約し実施させた。
立命館が大阪成蹊学園から土地を購入契約したのが2010年(平成22年)3月末、引き渡しが行われたのが2012年(平成24年)9月、その後工事が行われ立命館中高等学校が長岡京キャンパスで開校したのが2014年9月。ところが、そこからさらに2年経った2016年(平成28年)7月になってから立命館は大阪成蹊学園を相手取って「汚染調査費用、除染費用等で11億2803万5950円を支払え」と裁判に訴えた。しかしその間に以下のような動きがあった。
2010年(平成22年)4月30日、大阪成蹊学園が調査を依頼した大日本土木とパナソニック環境は「土壌汚染法で規定されているような汚染物質は見つかっていない」との報告書を提出した。それを受けた立命館側は所轄の乙訓保健所に相談に行った。保健所は「今まで該当地域において、汚染物質があるとの報告は無かった」とした。それに対して立命側は「絶対ないと言えるのか」と質問したところ、保健所は「二つの会社の調査報告によって見つからなかったということであり、絶対にないとは言えない」と答弁するとともに「いまのところ地下水の汚染も見つかっていない。心配であれば調査をされ、見つかれば除去されてはどうですか」とされた。しかし立命館側はその時点で調査は行わなかった。またそれ以前に大阪成蹊学園は元の所有者である日本フィルコン(それ以前は農地)に工場の事業と廃棄物について調査を依頼をした。その報告書(2009年、平成23年2月1日付)では製紙用金網の組み立て工場として使用しており、金属粉などは出していない。したがつて金属加工に伴う化学薬品などは使用していないので、土壌汚染法に定める有害物質などは排出していない。当然そのような物質の廃棄・保管場所も設けていなかった。とする報告書を提出し、立命館にも届けられた。以上の事から立命館は、大阪成蹊学園に対して特約事項で記載されていたような新たな調査や、ましてや除染を求めなかった。
2012年(平成24年)3月29日、大阪成蹊学園から立命館に土地・建物が引き渡され移転登記が完了した。ところが同平成24年、立命館から工事を請け負った鹿島建設が新校舎建設のために、グランドなどの土地を削り土壌を調べた(平成24年5月2日―12日)ところ、ヒ素などの有害物質が出てきたと報告した。ただし、特定の場所から大量に出てきたものではなく全域から微量に出て来たので、京都西山山系独特の自然由来に基づくものと考えられた。平成24年8月時点でのマスコミ報道においても、立命館側の広報コメントに基づいて「自然由来に基づくものと考えられる」と報道している。したがって立命館として大阪成蹊学園にたいして土壌汚染法に基づいた調査、さらに除染を求める根拠がなかったのである。ところが立命館は「教育機関の責任として、総ての表土を取り除き入れ替える」とホームぺ―ジに掲載した(その後、消された)。このように大見えを切ったにもかかわらず、除染工事は29区画の内、5区画については、のり面などで工事しにくいという理由で土の入れ替えは行われなかった。しかしながら、立命館は購入後4年も経ってから大阪成蹊学園を相手にして自らが行った除染費用を求める裁判を起こしたのである。
裁判において大阪成蹊学園は購入時を含めて過去の土地履歴と上記の土壌汚染法に基づく調査証明を提出し「見つかったヒ素は自然由来の微量であり、人体に被害をもたらす程のものでは無かった。鹿島建設・立命館側が深く表土を取り除き、入れ替える必要はなかった」と論証した。判決は調査費用5589万6581円だけを大阪成蹊学園に求めたが10億円を超える除染費用等は求めなかった。そして「両者の裁判費用合計の19/20(95%)を立命館が支払え」と立命館にとっては完全敗訴に近いものだった。
解明すべき二つの問題
1)森島理事長と志方専務は、なぜ契約どおりに1年以内に立命館の負担ゼロの大阪成蹊学園に調査と除染を求めず、鹿島建設に11億2800円支払って調査と除染をさせたのか
先に記したように契約では購入後1年以内に有害物質が見つかった場合は、売却側の大阪成蹊学園の責任で調査しその結果必要であれば除染することを義務付けられていたのに立命館はそれを求めず、建設を契約していた鹿島建設に調査させ、その上、調査者である鹿島建設に除染工事をさせ、その費用として土地購入費の1/3にも相当する11億2800万円を支払うなどの異常とも言うほどの出費を行ったのである。建設業界では最初の建設費用契約は世間並にしておき、あとから様々な理由で追加費用を求めるということがしばしば行われる。もしも本当に人体に危険を及ぼすような有害物質があれば、大阪成蹊学園に調査とそれに基づく対策を求めておれば立命館は1円の負担も必要でなかった。しかし立命館が鹿島建設に調査と除染を行わせたために立命館は11億2800万円もの追加出費が必要になったし、鹿島建設はその額を追加で受け取ったのである。大阪成蹊学園が工事をしていれば立命館の負担はゼロになりその結果、鹿島建設には1円の追加収入も入らなかった。ここに問題の本質があるようである。この当時、長田理事長は那須に別荘を確保していた。
2)なぜ契約から4年も経ってから裁判を起こしたのか。
鹿島建設が「ヒ素が見つかった」と報告した時点で大阪成蹊学園に汚染調査と対策を求めていれば立命館の負担は無かった事は先に示したとおりである。それを土壌汚染法に基づく除染ではなく、立命館による任意の自主的な除染作業を行い11億2800万円も使った。これは異常である。それを立命館が大阪成蹊学園に損害賠償として求めても成り立つ話ではなく、常識的に言って敗訴は間違いなかったし実際そうなった。それではなぜしかも特約条項の1年以内を無視して契約から4年、開校からでも2年も経ってから裁判に訴えたのであろうか。「訴える」という形式を取らなければ森島理事長、志方専務の責任が浮上すると考えたからであろう。
つまり土壌汚染法に基づく汚染など無いのに、実施する必要もない土の入れ替えに11億2800万円も使ったのである。これが森島理事長と志方専務が知ってやっていたなら、明白な背任行為であり懲戒解雇にとどまらず刑事責任が問われる。もしも鹿島建設の話に乗せられ慌てふためいて発注したのであれば、土壌分析ができる理工学部を有する大学の理事長としては、あまりにも警戒心がなく立命館に大きな損害を与えたのであるから業務上の過失であり、その責任が問われ、少なくとも理事長ならびに専務は解任である。そして両名は損害賠償責任を問われる性質の問題である。
その責任をのがれ、皆が忘れてくれることを望み、大阪成蹊学園を相手に被害者を装い、弁護士費用をはじめと訴訟費用を無視して延々と損害賠償裁判を続けるという戦術に出たのであろう。あまりにも小賢しい。しかし実施する必要もなかった除染工事のために11億2800万円も使ったという事実は消えない。国民の税金によって成り立っている私学助成を受け取っている立命館のこのような財政支出の在り方は文部科学省や私学事業団からの指導は免れないだろう。いやそうした疑念の指摘があったので裁判に訴えざるを得なかったのかも知れない。
森島理事長、志方専務そして理事会はこれらのことを全学の構成員、そして社会的に明らかにし責任を明確にする義務がある。
大阪成蹊学園としては調査費用自体にも疑問を持ち、その支払いを求める判決に不服として控訴したものと推察される。この裁判は2016年の起訴の段階で常任理事会においてきちんと報告し審議されていない。また裁判の途中において進捗の報告、それどころか今回の裁判結果と控訴について全学構成員にまともに報告されていない。要するに森島理事長と志方専務の責任逃れと、学園関係者が忘れてしまう時間稼ぎをしているとしか考えられない。
これだけの損失と、それをごまかしてきた問題を、森島理事長などの報告に任せておくことはできないだろう。学校法人立命館は真相解明のために常任理事会の下に特別調査委員会を設置して調査し、その結果に基づいて厳格な措置をとる必要があるだろう。既存の「事業評価・検証システム検討部会」等でも、その報告を求める必要があるだろう。また文部科学省や私学事業団にも報告相談し指導を求める必要があるだろう。そのために教職員組合、学友会、教授会などは協力して、この問題を全学協議会などの議題に据え、常任理事会に土地登記の変遷、訴状ならびに答弁書、大日本土木ならパナソニッ環境そして日本フィルコンの報告書の提出を求める必要がある。
鈴木元 経歴、立命館総長理事長室室長、初芝学園副理事長、中国(上海)同済大学アジア太平洋研究センター顧問教授、国際協力銀行中国内陸部人材育成事業アドバイザリー、私立大学連盟アドミニストレーター研修アドバイザー等を歴任。
現在、国際環境整備機構理事長、京都高齢者大学校幹事会副代表、ベトナム枯葉剤被害者支援日本委員会事務局長、日本ペンクラブ会員、日本ジャーナリスト会議会員、かもがわ出版顧問など。
主な著書、『立命館の再生を願って』『続・立命館の再生を願って』(いずれも風涛社)、『像とともに未来を守れ 天皇・立命館・学生運動』(かもがわ出版)、『もう一つの大学紛争』(かもがわ出版)、『異文化理解・協力の旅』(文理閣)、『京都市における同和行政批判』(問題研究所)『コロナ後の世界』(かもがわ出版)など多数。