NO64 「NO63大阪成蹊学園に対する立命館の訴訟」に対する補足
常任理事ならびに関係各位へ
2016年8月22日 元立命館総長理事長室室長・ジャーナリスト 鈴木元
はじめに
先に私はNO63で立命館の大阪成蹊学園への訴訟問題について論じた。その際、二つの疑問について触れた。①なぜ無理に無理を重ねて、大阪成蹊学園から土地を、そして鹿島建設への立命館中高等学校の校舎建設発注を急いだのか。②立命館は平成24年3月末に大阪成蹊学園から土地の引き渡しを受け、校地・校舎の工事が完了した26年9月に立命館中高等学校を移転し開校した。それから4年もたった今年の5月に至って、なぜ裁判に訴えたのか。長田豊臣理事長ならびに森島朋三専務理事は、全学構成員が納得できる説明を行う義務がある。とした。
ところで私は、NO63において、マスコミ報道だけでは立命館が大阪成蹊学園を訴えた理由がもう一つよくわからないので、立命館側の訴状ならびに大阪成蹊学園側の答弁書を読んで検討すると予告した。
大阪地裁における事件番号は、平成28年(ワ)4898号で、取り扱いは地裁4階にある第22民事部である。
(1) 立命館の訴状と大阪成蹊学園の答弁書の要点
① 立命館側は、契約書における特記事項として、基準値を上回る危険物質が出てきた場合は、売り手である大阪成蹊学園の責任で除去する旨が記載されていた。実際、基準値を超えたヒ素などの有害物質が出てきたために、立命館はその除去のために11億2800万円の費用がかかった。したがって大阪成蹊学園は、この間の利息を含めて支払へとしている。
② それに対して大阪成蹊学園側は、契約(平成22年3月29日に行い、37億3000万円で売却)から1年以内にそのようなものが出てきた場合は、大阪成蹊学園側の責任で除去する旨は記載されていた。
しかし平成22年4月30日、大阪成蹊学園が調査を依頼した大日本土木とパナソニック環境は「土壌汚染法で規定されているような汚染物質は見つかっていない」との報告書を提出した。
③ それを受けた立命館側は所轄の乙訓保健所に相談に行った。保健所は「今まで該当地域において、汚染物質があるとの報告は無かった」とした。それに対して立命側は「絶対ないと言えるのか」と質問したところ、保健所は「二つの会社の調査報告によって見つからなかったということであり、絶対にないとは言えない」と答弁するとともに「いまのところ地下水の汚染も見つかっていないし、当該地区周辺には井戸は無い。心配であれば調査をされ、見つかれば除去されてはどうですか」とされた。しかし立命館側はその時点で調査は行わなかった。
④ 大阪成蹊学園は元の所有者である日本フィルコン(それ以前は農地)に工場の事業と廃棄物について調査を依頼をした。その報告書(平成23年2月1日付)では製紙用金網の組み立て工場として使用しており、金属粉などは出していない。したがつて金属加工に伴う化学薬品などは使用していないので、土壌汚染法に定める有害物質などは排出していない。当然そのような物質の廃棄・保管場所も設けていなかった。とする報告書を提出し、立命館にも届けられた。
私はNO63において「特殊金属を扱う会社の工場があった土地であるから、土壌汚染法が規定する汚染物質があったのではないか」との推測を記していたが、そうではなかったことが判明した。そして成安短期大学も大阪成蹊学園・造形学部の長岡キャンパス校舎の大半は、美術作品の作成に都合の良い、天井が高い元の工場を改装して使用していたということが分かった。
以上の事から立命館は、大阪成蹊学園に対して特約事項で記載されていたような新たな調査や、ましてや除染を求めなかった。
平成24年3月29日、大阪成蹊学園から立命館に土地・建物が引き渡され移転登記が完了した。
⑤ ところが平成24年、立命館から工事を請け負った鹿島建設が新校舎建設のために、グランドなどの土地を削り、その土を滋賀県大津市の産業廃棄物会社に持ち込もうとして土壌を調べた(24年5月2日―12日)。すると基準値より高いヒ素などが出てきた。さらに追加調査(5月16日―6月12日)をおこなったが結果は同じであった。しかし特定の場所から大量に出てきたものではなく全域から微量に出来たので、京都西山山系独特の自然由来に基づくものと考えられた。平成24年8月時点でのマスコミ報道においても、立命館側の広報コメントに基づいて「自然由来に基づくものと考えられる」と報道している。
しかし当時の志方管財部長や森島常務は「対象の土地が、過去において日本フィルコンの土地であった」ことを知っていたこともあって、驚き立命館のホームページにおいて「基準値の倍の値のヒ素などが出てきましたので、立命館は校地予定地の全ての土を削り、土を入れ替えへ生徒・児童の安全に務めます」と報じた(この記事はその後、ホームページから削除されている)。問題は、その時点で立命館側が、土壌汚染法に基づいての汚染地域指定申請を行い、その正確な調査と、汚染除去を大阪成蹊学園側に求めず、立命館による自主調査・自主除染としたことである。その理由として「土壌汚染地域指定に基づく申請と除染は、時間とお金がかかるので避けた」している。開校を急いだ措置であったと推察される。
⑥ 大阪成蹊学園側は「立命館も我々も、この地は学校として使われていた場所であり、土壌汚染法が規定しているような、人体に害を与えるような有害物質があるとは想定していなかった。それでも念のために上記したような特記事項を付け加えた。しかし調査方法や、有害物質が出た場合に、どのように除去を行うかは定めていなかった。除染と言う場合は、土壌汚染法で言う、人体に害を与えるほどの量が見つかった場合の事であり、それほどの汚染物質が出たということは、立命館側から我々に証明・報告されていなかった。立命館が行った調査や除染は、法律に基づく調査ではなく、立命館の判断に基づく自主調査であり、自主的な除染作業である。その費用を我々に求める訴訟は無効であり棄却を求める」としている。
⑦ したがつて争点は、特記事項の対象が土壌汚染法に基づき、人為的廃棄物による汚染を対象とし、自然由来に基づくものは対象とならないか。つまり売り手である大阪成蹊学園側に自然由来の基準を上回る土壌濃度についても、瑕疵担保責任が負わされるのかどうかが問われることになっている。もう一点は、立命館が土壌汚染法に基づく申請をせず、自主調査・自主除染を行った費用を、大阪成蹊学園側に瑕疵担保責任として請求できるかどうかと言う点にあるように思われる。
(2) 立命館の対応に対する率直な疑問
① 私はNO63で、「なぜ立命館は大阪成蹊学園に調査させなかったのか」と書いた。しかし答弁書を読む限り、大阪成蹊学園は二つの会社に依頼した報告書を提出しているし、保健所も「今までのところ、見つかっていない」と言い、そして日本フィルコンの報告書においても、特殊金属加工は行っていなかったし、それに伴う化学薬品も使用していなかったとの報告書を提出している。したがつて大阪成蹊学園側は「土壌汚染法に基づく新たな調査義務並びに除染の必要はなかった」としている。そして立命館側も大阪成蹊学園に対して追加調査を求めなかった。
② 立命館側は、ヒ素などが基準値以上出て、除去せざるを得なかったとしている。しかし大阪成蹊学園側は、それはこの地域の独特の土壌特性に基づくと推察され「土壌汚染法に基づいて除去しなければならない程のものではないと考えられる」としている。土壌汚染法に基づいて除去しなければならないものであれば、立命館は、それを証明するものを提出する義務があるし、立命館は汚染地域指定申請を行い、我々(大阪成蹊学園)に再調査と除去を求めるべきであったが、行っていない。としている。これらの理由についても明確な説明が求められるだろう。
また立命館側の訴状を見る限り29区画の内5区画に関しては「境界地域などで除去が難しく、除去しなかった」としている。本当に危険と考えていたなら、全地域の除染を行うべきであるにもかかわらずしていない。なぜ行わなかったのかも明確にしなければならない。
なお地中構造物が出てきて「その除去のために433万円かかった」としているが、何が、どのように出てきたのか?・
③ 立命館側による自主除染作業は、立命館が校舎建設を発注した鹿島建設によって行
われ、立命館側から鹿島建設に対して11億2800万円が支払われている。そして冒頭に記載したように、購入し自主調査・自主除染してから4年もたった今年の5月に損害賠償請求を行っている。なぜ今頃になって損害賠償訴訟を起こしたのかも全学構成員に納得のいく説明をする必要があるだろう。
この裁判はいったい、どこの機関で、まともな討議が行われ決定されたのか。また三名の弁護士によって裁判が行われているが、裁判費用はいくらで契約しているのか。
(3) たとえ裁判に勝とうが、NO63と合わせて経過の概略を振り返れば、この問題に関して
も長田理事長、森島専務、志方部長の責任は明確である。調査に基づき厳格な対応が求められるだろう。
なおNO63でも記したが、-本年5月に行われたこれほど大きな訴訟にもかかわらず、常任理事会において十分な検討も行われないままに、森島専務ならびに志方総務部長によって事後報告的に扱われ、常任理事会に訴状も相手側の口頭弁論の紹介も行われていない。こうした独断専行の執行の責任が問われなければならないだろう。
① 森島専務は「立命館中・高等学校の移転の土地費用は、深草校地を龍谷大に35億円で
売却して賄う」と、ウソをついた。実際には、そんな話は無かった。そして京都市の工業高校の合併・移転先に決まって京都市に21億円で売却した結果、予算上も、14億の差額を生んだ。
② 建設費110億円を従来の財政運営原則を逸脱し、法人が全額負担した。
③しかも直前に経理規定を改悪し、理事長の決裁権限を「1億円以上 」と無制限(経理規定としてあり得ない)とし、110億円に及ぶ基本財産の変更にもかかわらず、理事会にも諮らず長田理事長の決済で購入。なおこうしてみると大阪成蹊学園から37億円で土地を購入した支払いも、長田理事長の決済だけで行われた可能性がある。再調査が必要である。
③ 立命館が工事を始める前に、大日本土木、保健所、日本フィルコンから「土壌汚染法に
抵触するような汚染物質は見つかっていない」「使用していない」との報告を受けており、立命館の自主調査においても、現在のところ土壌汚染法に違反する汚染は証明されていない。証明されれば、その時点で特記事項に基づいて大阪成蹊学園に除染を求めるべきであったが、そうせず立命館によって自主除染された。教育機関として「念には念を入れて」行ったとすれば、途中で「境界隣接地」等を理由にして止めてしまったことは自己矛盾である。法律的にはあえて行う必要が無かったが「教育機関としての責任で行った」すれば、大阪成蹊学園に賠償を求める裁判を起こす根拠がなかったことになる。
④ 森島専務や志方部長は、予てから当該地が「元は日本フィルコンの土地であった」ことを知っており「汚染されているかもしれない」との思いを持っていて、実際に工事を開始した時点で「ヒ素などが出てきた」との報告を受け、責任を問われることを恐れ、鹿島建設に自主除染を依頼したが、自然由来に基づくものなので除染は全地域におよび11億円を超える費用がかかり、途中で止めてしまった。本当に「教育機関の良心」に基づいて除染したのであれば、最後まで全域での除染を行うべきであった。法律的にはあえ
て行う必要が無かった除染のために11億円を使ったのであり、「龍谷大学に35億円で買ってもらうことになっている」との虚言(予算的にはマイナス14億円)と合わせて、自主除染によって新たに11億円も使ってしまった。
その責任を逃れるために大阪成蹊学園を対象に「損害賠償」訴訟を行うことによって、あたかも財政努力をしているとのパホーマンスを見せたと推察される。これで僅小の金額での和解に落ち着いたり、敗訴したりした場合、多額の弁護士費用(3名)をかけて、世間的には恥の上塗りであり、学内的には背信行為であり、その責任は免れない。
⑥これだけの疑問がある問題を、森島専務などの報告に任せておくことはできないだろう。学校法人立命館は真相解明のために常任理事会の下に特別調査委員会を設置して調査し、その結果に基づいて厳格な措置をとる必要があるだろう。既存の「事業評価・検証システム検討部会」等でも、その報告を求める必要があるだろう。
⑦そのために教職員組合、学友会、教授会などは協力して、この問題を全学協議会などの議題に据え、常任理事会に土地投機の変遷、訴状ならびに答弁書、大阪土木ならびに日本フィルコンの報告書の提出を求める必要がある。
昨年は4年に一度の公開全学協議会開催の年であったにもかかわらず、長田理事長、森島専務等は財政的展望を提出できず、今年に延期された。ところが現在「全学協議会の在り方」検討会議が開催され「学生の力量後退」を理由にして、全学協議会の縮小なども検討されている。そもそも今回の長岡キャンパス問題等、学園が直面している具体的な問題を全学協議会でリアルに討議することなく、あり方一般を討議しても全学協議会は学生への教育的場所、学園指導が襟を正す場所にもならないだろう。
鈴木元。立命館総長理事長室室長、大阪初芝学園副理事長、私立学校連盟アドミニストレーター研修アドバイザリー、中国(上海)同済大学アジア太平洋研究センター顧問教授などを歴任。
現在、日本ペンクラブ会員、日本ジャーナリスト会議会員、国際環境整備機構理事長、かもがわ出版取締役。
主な著書、『像とともに未来を守れ 天皇・立命館・学生運動』(かもがわ出版)『正・続 立命館の再生を願って』(風涛社)、最新刊『もう一の 大学紛争 全共闘・「解同」と対峙した青春』(かもがわ出版)他多数。